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確かに、中学生の頃から月に一、二度、巽さんの手伝いに行っている蓮にとっては足でまといかも知れないが、怜も巽さんにどうにかして恩を返したいと常日頃思っている。
しかし蓮の言う通り理数系はてんでだめであることは怜も自負している。
蓮が話すのを渋るため、怜は巽さんの事務所が金融系であることしか知らない。
金融系と言えば計算が出来なければならないと蓮に言われたのでそういうものだと思っている。
つまり、数学が出来ない怜は役立たずだということだ。なんとまあ無念。
黙り切った怜を見て、蓮が溜息をつく。
「…怜はなにも考えなくていいよ」
蓮はそう言いながら、怜の髪を梳く。
抱擁を強めて一言ずつ、ちゃんと理解が出来るように、ゆっくりと発する。
「俺が全部やるから。怜が幸せになれるようにするから、だからなにもしなくていいよ」
違うよ。蓮にそんなこと、望んでないのに。
不意に、さっきみた夢を思い出す。正しくは夢じゃなくて記憶だけれど。
病院の霊安室の寒さだけが、鮮明に残っている。
並べられた両親あの人たちの遺体の前での光景が不意にああして夢に出てくる。
七年も前の事だから、徐々に記憶と想像がごちゃ混ぜになって、ある時から第三者視点の映像になってしまったが。
『俺が、親にも兄弟にも、何にでもなるから。俺が守るから』
怜の手を握った蓮は、目を伏せることも、肉親を失った悲しみで瞳に涙の膜を張ることも無く、ただその大きな目で目の前の遺体を見つめながらそう呟いた。
怜に話しかけると言うよりも、淡々としていて、独白のように。ずっと前から、決めていたように。
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