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「でも驚いたよ」
「なにが?」
収録を終え次のレコーディングに向かうため遼の運転する車に乗りこみキャップを目に被せて瞑想に耽っていると、遼が声をかけてきた。
「嶺二の恋愛観。俺は女なら来る者拒まずだ!とでも言うのかと思って謝罪する準備しといたのに」
いつもの遼の軽口に、咄嗟に言葉を返せなかった。洩れた本音を恥じていた所にちょうど同じタイミングで触れられ、開いた傷口の柔らかい身を爪で抉られている様な気分になった。
「ハッ…はるが問題発言はするなって言ったんだろ。俺だってオモテムキの面くらいあるんだよ」
キャップを片手にブーブーと口を尖らせて言うと遼は、女関係にもそのオモテムキの面とやらを働かせてくれたらいいのに…と嘆いた。
「え〜でもさ、結局はるが記事潰してくれるんだから良いだろ?」
後部座席から運転席ごと遼に抱きつきながらそう言うと、遼の耳がほのかに赤に染まる。
「か、簡単に言うけど…」
「ん〜?」
「み、耳元で喋らないで!」
赤くて柔らかそうな耳朶が美味しそうでかりっと歯をたてると車が急停止した。
「うわ!びっくりした!」
「運転中にやめなさい!馬鹿!」
住宅街だったため後ろに車はいなかったが耳を押えて顔を真っ赤にした遼は嶺二に説教を始める。
「そういう軽率な行動は控えろって言ってるでしょ!大体…」
嶺二の耳は都合よく出来ているため、聞きたくないことは頭に入ってこない。ぱくぱくと動く遼の口を見ながら考える。
やっぱりハルは俺のこと好きなのかな。
普段の行動も、言葉の端々からも好意が見えるし、俺が触れればそこが赤く染まる。
…だけど俺は女が好きだからさ、ごめんねハル。
「あ、もうすぐ12時だけど大丈夫?」
スマホを取り出して時間を見ると11時56分を指していた。 ハルが朝、移動中同じようにぱくぱくと動かしていた口が、レコーディング入り12時と言っていたような。
夢に片足突っ込んでたからあんまり覚えていないけど。
「あーー!遅刻!!」
嶺二の言葉で腕時計を確認した遼が叫んで車を急発進させる。 嶺二は勢いで背もたれにぶつかったが、芸能人の移動車にしては似つかわしくないBMWはぽすんと嶺二の体を柔らかく包み込んでくれる。
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