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「…やっぱりどうでもいいです。目中さんの力で嶺二の踏み台になるのはあの番組だけなのでNGで大丈夫です」 「そーかいな」  ふー、と紫煙を吐いて迅はまたにやりと笑う。 「それより、俺が教えたことが癖になって抜けへんのって下手な|刺青《しるし》よりも体に染み付いてるって感じで堪らんわ」  うーん…気持ち悪い。眉間に皺が寄っていたのか、ぐりぐりと押されて呻く。 「嫌な顔すんなや」 「迅さんが気持ち悪いこと言うからですよ」 「ははっ、なまこきやがって」  頭が回っていないみたいだ。普段なら遼は迅に対してこんな口の聞き方はしない。  その生意気な喋り方、ガキの頃思い出すわーと言いながら迅は布団を掛け直してくれる。 「寝とけ、あとで家まで運ばせとくわ」 「…ありがとうございます」  迅に向けられた、鍛えられた背中一面に広がる騎龍観音と目が合う。  眠たかったのかは自分ではあまりわからない。そもそも自分の感情の機微に鈍感で、泣くことも笑うこともあまりなかった。  嶺二に出会うまでは。  そうだ、数時間後には嶺二を映画の撮影現場に連れて行かなければならない。疲労感は蓄積してとれることはないが、嶺二のことを考えると不思議と体も心も浄化されたような気持ちになる。  ぼんやりと沈む思考の中で、ちゅ、と軽く触れるだけの口付けを感じた。

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