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二十二 甘くとろける

 八木橋の返事を待たずに、アオイの手が伸びる。服の裾から入り込んだ手のひらが、腹を撫でた。 「あっ、アオイくんっ…!」  カァ、と頬が熱くなる。中年男だという自覚があるだけに、腹部を撫でられるのに抵抗があった。鍛えているわけじゃない八木橋の腹は、出張ってこそいないが、引き締まっているわけではなく、柔らかい。  皮膚を滑る感触に、ビクンと身体を震わせる。 「……見ても、良い?」 「っ、あ」  アオイは八木橋のシャツを捲りあげて、胸元をさらけ出した。視線が、胸に降り注ぐのを感じて、馬鹿みたいに鼓動が速くなる。 「アオイ……く」 「可愛い」  ぞく、背筋が震える。胸など、見られたところで、何も感じないと思っていた。だが、アオイの視線が、そこに注がれていると思うだけで、いたたまれない気持ちになってくる。 「こ、こんなもの、見ても……」  羞恥心を誤魔化すように呟くと、アオイはクスリと笑った。随分年下のはずなのに、アオイの方が余裕がある。八木橋はいつも、翻弄されてばかりだ。 「ア…オイ、くん、その……」 「触っても?」 「あっ、待っ……」  アオイの指が、先端に触れた。ビクン、身体が跳ねる。身体中に電気が走ったような衝撃に、八木橋は自身でも動揺する。  明らかな、快感。そこが、気持ちいいことなど、八木橋は知らない。 (っ、ちょ……)  動揺して、パクパクと唇を開く。アオイはそんな様子に気づいていないのか、気づいていて無視しているのか、突起をきゅんと摘まんだ。 「んぅっ……!」  甘い痺れが、全身を巡る。知らない。こんな快楽は、知らない。 「……オレが触っても、平気? 嫌じゃない?」  アオイが不安そうに聞いてくる。八木橋はドクドクと鳴る心臓を誤魔化すように息を吐いて、アオイを見つめた。  アオイの視線は、八木橋の瞳を見ていない。直視しないのは、怖いからだろうか。八木橋はアオイの手が震えているのに気づいていて、ぎゅっと胸が痛くなる。 「……へい、き…、いや、平気では……」 「どっちですか」  ふは、と息を吐いて、アオイが困ったように笑う。 「アオイ、くんに、触られるのは……平気……だよ」  顔が熱い。アオイが、見ている。 「……じゃあ、何が、ダメ?」  探るように、アオイが問いかける。耳元に、アオイが「教えて」と囁く。 (っ……! 絶対に、解ってて言ってるっ……)  アオイの肩を押し返そうとするが、びくともしない。アオイの手が胸を撫でる。指先に、僅かに乳首が擦れて、甘い声が口から出た。 「んぁっ……!」 「……八木橋さん、ココ、弱いの?」 「っ、あ……、知らな……」 「誰かに……、触られた?」 「っ、ア、アオイくん、しかっ……」 「そうなの? こんなに、敏感なのに……」  八木橋は色恋はあまり経験がないし、付き合ってきた女性に、愛撫されたこともない。女神グループの関連である風俗に、誘われたことはあったが、行ったことはなかった。正真正銘、初めてだ。だからこそ、自分でも戸惑っているのに。 「っ、アオイくんっ、も、やめ……」 「……うん。そうだね」  急に刺激を止められ、快感の波がざわざわと身体を巡る。もどかしいような、ホッとしたような、矛盾した気持ちに、八木橋は唇を結んだ。  シャツを直そうとした八木橋に、アオイが再び覆い被さる。「あ」と言う間もなく口付けられ、ビクンと身体が震えた。  先程よりも敏感に、キスに反応する。ぞくぞくと背筋が粟立つ。アオイの体温が、熱い。  アオイの手が、再び腰に伸びる。その手がベルトを外すのに、八木橋は慌ててアオイの身体を押し返した。 「っ、ちょ……!」  手際よくベルト外され、あっという間にスラックスのファスナーを下ろされる。僅かに反応してしまった性器を、下着の上から撫でられる。 「ひゃっ……! あ、っ……! 最後までしないって……!」 「うん。しない。でも――八木橋さんも、このままじゃツラいでしょ?」 「っ、良いからっ」 「オレが触っても大丈夫か、教えて」 「――そ、れは」  そんな言い方されたら、拒絶出来ない。アオイのことは、嫌じゃないのに。 「待って……、大丈夫、だから……」 「怖い? 嫌?」 「あ――……、」 「オレは、怖いよ。……オレ、ノンケのひと好きになるの、初めてだから」 「アオイくん――」  そのまま、押しきられるように、アオイが直接触れるのを、止められなかった。 「んく……っ」  アオイの長い指が、性器に絡み付く。他人の手で触れられることが、久しくなかったせいか、あっという間に硬度を増して、先端から蜜を溢す。溢れた粘液を塗りつけるように擦られて、八木橋は荒い息を吐き出した。 「はっ……、は、はっ……んっ」 「……気持ち良い? 八木橋さん…」 「――、ん」  羞恥心を堪えて、小さく頷く。アオイが嬉しそうに笑ったのを見て、胸が疼いた。 「……八木橋さん、オレの、触れますか?」  遠慮がちに、アオイがそう問い掛ける。その言葉に初めて、アオイも興奮しているのだと気づいた。  服の上からも解る誇張に、八木橋はビクッと肩を揺らす。アオイが静かに自身を取り出した。 「――っ」  ゴクリ、喉を鳴らす。自分を触ってこうなったと言う思いと、他人のものを初めてマジマジ見てしまったと言う感情と、思ったより大きいな、という感想が、同時に頭に浮かぶ。  アオイが遠慮がちに八木橋の手に押し付けてきたのを、八木橋はドキドキしながら指先で触れた。 「っ……」  アオイが小さく声を漏らすのを見て、八木橋はやんわりとそれを手で包んだ。ドクドクと脈打つ性器に、静かに指を這わせる。 (……大丈夫、平気だ。むしろ――)  アオイが、目蓋を伏せて吐息を吐き出す。その表情が、色っぽい。八木橋は唾を呑み込んで、じっとアオイを見つめる。  綺麗な子だと、思っていた。その子の、こんな表徐を見ることになるとは。背徳感同時に、罪悪感が込み上げる。 「平気、そう……?」  アオイの問い掛けに、小さく頷く。アオイは心底うれしそうに笑う。その顔を見て、八木橋はどうしようもなく、胸が疼いて仕方がなかった。

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