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第4話
こうして俺と桜の奇妙な同居生活が幕を開けた
「てかさぁ俺のバイク見なかったぁ?」
ベットで呑気にスマホを操作していた桜が徐に聞いてきた
こいつにとってあのバイクはきっと宝物みたいな物だと分かっていて意地悪がしてみたくなったのだ
「いや、知らんけど?」
「そっか、、、」
いつもおちゃらけた雰囲気の男が明らかに分かり易く項垂れるものだから流石の俺もバツが悪くなって種明かしをした
「ばぁか、嘘だよ家のガレージに止まってる」
「えっ!マジ?流石!最高まほ様」
大袈裟な調子で喜んでくっついて来ようとする男を押しのけストレートに感謝を伝えられる事に不慣れな俺はいつもコイツのコロコロ変わる表情に押し負かされてる気がする
「見に行ってもいい!?」
「別に許可なんていらない、、、」
時間的にも丁度カメラを持って散歩に出る頃合だったので一緒に外に出る事にした
ガラガラッ
錆び付いたシャッターが辺りに響く大きな音を起てて持ち上がる
「俺の愛しのヨンフォアちゃん〜」
外から入り込む光に照らされながら単車がゆっくりその姿を現すとすかさず駆け寄った桜が車体に抱きついた
「じゃ、俺散歩してくるから、お前は満足したらまだ完治してねぇんだから大人しく寝てろよ」
「はいは〜い、まほも気をつけてねぇ行ってらっしゃい」
俺のいつもの嫌味にも動じず一直線にバイク
見つめる瞳が余りにも慈愛に満ちていて目を逸らせなかった
(へぇ〜、お前そんな顔も出来るんだ)
カシャッ
「、、、え?今撮った?やだぁまほのえっちぃ〜」
「きもっ」
ファインダーから顔を上げるとすっかりいつものふざけた顔に戻った桜がこちらを見てさっきまでの真剣な顔は何処へ行ったのやら気色の悪い発言をしている、それに対し俺は演技臭く自分を両の腕で抱きしめ身震いをして距離を取るとUターンするように来た道を戻って自分の散歩を開始させた
「うわぁ〜失礼な奴ぅ」
背中に向かってクレームが投げつけられていた気がするが気にしない事にした
パシャパシャと何枚か道すがらに撮るが大して変わった風景が撮れる訳でもなく近くの公園のベンチにしなだれかかると無意味に煙草を消費した
(あづすぎるぅ)
ミーンミーンミーン、、こんな暑さの中蝉達はきっと世界で何者よりも死ぬ気で短い寿命を精一杯謳歌している、そう思うと耳に煩いくらい伝わる鳴き声も心地好く感じてくるかもしれない
ガコンッ
暑さに耐えきれなくなった俺は自販機で懐かしの飲み物を入手した
「うっ、、これこんな甘かったか?」
パキパキと新品のキャップが開く音と炭酸が抜ける音を鳴らせ1口含むと強烈な甘さに喉が焼ける感覚がした
(よし、これは家に帰って奴にやろう)
食べ物も飲み物も基本的に粗末にする趣味は無いので家に居るであろう炭酸人間に贈呈しようと今日はここで帰ることにした
熱い日差しが照り付ける中やっとの事で家まで辿り着くとガレージのシャッターが開いている
(閉め忘れか?まぁ閉めろとか言ってねぇけど)
近づいて中を覗くと単車の傍に見慣れたものが落ちていた
「はぁ??」
足早に駆け寄って顔を覗けば穏やかに寝息を立てているだけだと判明した
「はぁー、俺は何回こいつに驚かされるんだろう、、、」
こっちの気なんかお構い無しに安心した顔で眠る桜に沸沸と怒りが湧いてくる
「うぉっ」
仕返しがしたくなった俺は持っていた炭酸飲料を桜の首に押し付けるとビクッと身体を震わせて素早く上体を起き上がらせた
「こんなとこで寝てんじゃねぇよ」
「ビビったぁもうちっと優しく起こしてくれてもいいじゃん〜」
ジトッとした目で見上げてくるが自業自得だと内心思いながらぶっきらぼうにジュースを差し出す
「ん、こんな所で寝てる方が悪い」
「くれんの?わ〜い」
地面に胡座を掻いたままいつものヘラヘラした胡散臭い笑顔で受け取ると徐にペットボトルを持つ手を上下に揺すった
シュッ、炭酸が抜ける音がしても中身が吹き出ることは無い
「これ久しぶりに飲むなぁ」
何食わぬ顔でペットボトルに口を付けた桜は味の感想を述べている
「なにそれ」
「ん?何が?」
「いや、だから何で炭酸振ってんの?」
目の前の男の奇行を訊ねずにはいられなかった
「あぁ、これか、癖」
「癖?」
「そう、癖」
さも当然のようにあっけらかんと言い放った言葉に脳内が疑問で埋まる
「どんな癖だよ、、」
「いやぁ〜昔炭酸苦手でさ抜く為に振って飲んでたら癖になっちゃってさぁ」
俺が相当理解不能という顔をしていたからか桜はケタケタと笑いながら事情を説明してくれた
「お前ほんとに変わってんな、変人ってよく言われない?」
「そうかなぁ?言われないけど、、、」
桜という男はそれからも俺を翻弄するかのように珍行動を繰り広げその生命体の謎を深めていく事になる
「あっやべ手滑った」
頭上から熱々の味噌汁をわざとぶっ掛けられてもお腹を抱えて味噌汁星人〜なんてゲラゲラ笑ってその末テーブルに足とかぶつけて痛がって、その様が面白くてつい釣られて俺も笑ってしまうし
「あぁ〜!!!やっと見つけたっ!!!俺のブレスレット!!」
わざと見付からないような場所に隠したあいつのブレスレットも宝探しでもするみたいにキラキラした目で見つけ出して大切そうに腕に止め直す癖に隠した張本人である事が俺だと分かっていても問いただして来たりしない
「お前って怒るの?」
「え〜俺だって怒る時は怒るよぉ」
テレビの音とページを捲る小さな音
俺は床に座ってソファを背もたれにすると目の前のスマホをボーッと眺めて、ソファの上には桜が優雅に寛いで小説を読む微睡んだ時間が流れていた
「ほんとかよ、普通の人が怒るような事されてもいつも爆笑してんじゃん」
「う〜ん、そうかなぁ、じゃあ逆に質問してもいい?」
突然始まる会話のキャッチボールも今じゃ馴染みあるものに変化していて
桜がいつも自分に向けられた質問はのらりくらりと交わす癖も俺に質問返しする事もお決まりの流れになっていた
「まほのカメラってさぁほぼ毎日撮りに出掛けてるけど唯の趣味なの?」
ほら、こうやって他人の深い部分にするりと入り込む
「そーだよ、、」
「ふ〜ん、俺にはまほがそんな生真面目な人には見えないけど」
あと、無神経な所も最近学んだ事だ
「失礼だなお前、俺はお前と違って大人しく真面目に生きてるんだよ」
「え〜人に味噌汁ぶっ掛けて喜ぶ人が?」
「それはっ、手が滑ったって言ったろ」
「煙草吸って毎朝早朝何処かに出掛けてるのにぃ〜?」
ニヤニヤしながらも視線は本に向いたままだ
あくまでもこれは日常会話の一貫
畳み掛けるように破廉恥ですわ〜なんて甲高い馬鹿にした言葉が上から降ってくる
「朝は新聞配達のバイト行ってんだよ、、」
「すごっそんなにいい子ちゃんだったの!?」
おばさん感激〜なんて今度は近所のおばさんムーブでもかましているのか頭上から伸びてきた掌がずっしりと頭に乗せられる
いいこいいこ〜なんてふざけながら髪の毛をぐちゃぐちゃに掻き混ぜるものだから振り返ってその憎たらしい顔を見てやった
「ッ、、、」
顔を後ろに向けると目と鼻の先に広がった端正な顔、いつものヘラヘラ顔は鳴りを静め真剣な眼差しに息を飲む
「お前、小難しい本読んでたんじゃないのかよ、、」
「読んでますけどぉ?てか耳赤くね?」
頭を撫でてた手がスルッと下がって耳を撫ぜた
ビクッと揺れる身体
「かぁわい」
最近嫌という程聞き馴染んだ掠れた声も耳の傍で聞くとまた別の効力を発揮している
「触んなっ」
「へいへい〜」
フシャーッと仔猫が毛を逆立てるように突っぱねそっぽ向く
「カメラっ!母さんの、、、母さんの形見なんだよ、、、」
「へぇ〜そっか、じゃあ俺の怪我治ったらさバイクでちょっと遠くに撮り行こうよ、その時に撮ったやつ見せて」
バッと顔を上げて1秒も見逃さないとばかりにジッと顔を見つめても揺るぎないその瞳が確信に変わる
「うんっ」
ニコッと笑って大きく頷いて見せれば桜も真剣な顔を崩していつもの笑顔を見せてくれた
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