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第9話

「ん"ぅ、、」 心地よい眠りから目を覚ますと腕を枕にしてうつ伏せで眠る桜が1番に目に入った (うわ〜、昨日あのまま床で寝ちゃったのか) 全身がバキバキに硬直しているのを実感して伸びをする (てかこいつうつ伏せで寝る癖あるよな、、) スヤスヤと眠る穏やかな顔は歳相応の幼さが見える 寝室から毛布を持ってきて起こさないように掛けるとそのままカメラを持って外に出た 夜明け前の静かな藍色の空と海を別つように水平線を一直線にオレンジの光が覆っている 「冷たっ」 ジャバジャバと踝まで海水に浸し、波音が心地よく鼓膜を揺らした (脆いか、、、) 一瞬で過ぎ去ってしまう暁の時間をファインダー越しに見つめるとシャッターを切った 昨日の色々あった出来事をゆっくり考えて整理する時間が欲しかった (あぁ〜〜っ!!くっそムカつく!、、、ずるい男) 赤いカーテン、伏目がちな瞳、思い出したくなくても頭に浮かんでキュウッと心臓を絞るみたいな苦しさに訳も分からずムシャクシャして居ても立っても居られず1人遊びのように足を蹴り上げた 「ッ、、、」 思ったより上がった水飛沫が顔にも掛かり目を瞑ったまま肩口で顔を拭う (はぁ、、何してんだろ俺、、) 1人で自己嫌悪に陥っている間にも蝉が活動を始め太陽は昇っていく あっという間に真夏が俺を包んでジワジワと汗をかき始めた (帰ろ、、) 石段に並べた靴を手に取りペタペタと地面を踏みしめ来た道を戻る 今はスニーカーに足を押し込める事さえ億劫で窮屈に感じた 「ッ、、、桜」 白藍色の橋、オレンジのカラーアスファルト 対面から煙草を燻らせて歩いて来る人物が目に留まり小さく出た声も彼の耳には届かない お互いお構い無く行進を続け、目の前でピタリと立ち止まった 「なんで居るの」 「ん〜、今日休みって言ってたし、ここに居るかなぁ〜ってさ」 首から下げたカメラを指差してからぐーっと天に向かって伸びをする桜は身体痛ぇなんてボヤいている 「どうしたぁ?」 顔を突合せて視線が交わるのに堪え兼ねてどんどん俯きがちに返事もしない俺を気にしたふうもなく頭に加わった手の重み 「夏だっていうのに暇だねぇ、、」 「えっ、、あっ!おい!!」 フッと頭が軽くなって視線を上げると、徐に胸の辺りまである橋の縁に手を置いて桜はその手に力を込めると地面を蹴って飛び上がった 「何して、、、」 「まほも一緒に飛ぼぉよ〜」 「っはぁ!?」 縁の上でクルッと半回転してこちらを見て一言だけ言い残すと制止の声も聞かずに背面からそのまま姿を消し同時に激しい水の巻き上がる音をさせた 「ちょっ、おい!ばかっ!」 慌てて手摺から身を乗り出し覗き込むと丁度浮き上がってきた桜が豪快に髪をかき揚げて口から噴水のように水を吹き出した 「しょっぺ!!!」 「当たり前だろ!海水なんだから!」 6m先下にも届く声で叫ぶ 「まほもおいでよ〜」 俺はこの時苦手な物が1つ増えたかもしれない 1個目は全部見透かすようなこいつの目、2個目は全て許しそうになるこの笑顔 「はぁー、、、」 盛大なため息をついて渋々首から外した一眼レフを壊れない場所に置いて縁に乗り上げると速くなる鼓動と共に宙に身を放り投げた バッシャーン 「ぷはぁっ」 一瞬呼吸も色も音も全て消え去った川の底、浮かんだ身体が世界に触れた時全てが元に戻ると共に負けじと響く豪傑笑い 「やっば、、まじで飛ぶと思わなかったぁ」 「桜がおいでって言ったんじゃん!」 バシャンと水面を叩くと水飛沫を被った桜が苦しそうに笑いながら、ごめんごめんと思っても無さそうな謝罪をする 「もー帰って風呂入ろ」 「えぇ〜もう帰るの〜」 「帰る」 川から上がる俺に釣られて桜が後を追って来る、橋からカメラやサンダル、煙草なんかを回収して過ぎ行く人の好奇な目に晒されながらそそくさとお家に帰宅した 「昼飯どうするー?」 白昼堂々とやる事ない2人はクーラーの下パピコを銜えてソファに項垂れている 「めっちゃ桃の匂い〜」 「なー、話聞いてる?てか、同じもん食ってんだからお前も桃の匂いだっつーの」 白桃味のアイスが溶けた口元から甘ったるい息が話す度に漏れて顔を近づけて犬みたいに鼻をクンクン動かしているのを手の平で押し返す 「よしっ!野菜炒め作ろう〜!!」 手を1回叩くといそいそと台所に向かう 「野菜炒め?」 「そ〜野菜炒め、カルシウムより野菜炒め」 意味のわからない事を言いながら創作野菜炒めの曲を歌い出した桜を後ろから見守る ジュージュー音を立てながら何でもかんでも食材をフライパンに投下していきその時点で既に疑心暗鬼になっていた俺は次の行動にギョッと目を見開いた 「っえ、、ちょっ、、ま」 腕を掴むより速く傾けられた小さなボトルから液体がドボドボ野菜に降りかかり瞬く間に茶色の海へと変化する 「いや、流石に掛け過ぎでしょ」 「まぁまぁ〜」 呆れを通り越して片側だけ吊り上がった口角が痙攣する フライパンの中身をお皿に移すとチンしたご飯と一緒にダイニングテーブルに移動した 「「いただきます」」 手を合わせて箸を持つ、この際食材は置いておいて見るからに塩分過多なおかずに手を伸ばすのが憚られる 「そんな遠慮してないでお食べ?」 にっこりスマイルで進めてくる桜は俺が手を付けるまで自分は食べない気か箸を置いていた 「や、焼肉のタレ食ってるみたい、、、」 健康悪そうなある意味想定通りの味の感想が口から出る 「頭の悪い味だねぇ〜」 続いて野菜炒めに箸を付けた桜もケタケタ笑ってすかさず白米を口に放り込んでいた 「まっ、でもさイライラした時ってこーゆー馬鹿みたいな食いもんが食べたくなるものですよ〜」 俺もシャキシャキ食感の焼肉のタレをご飯に乗せて頬張る 「イライラしてんの?」 「ん〜ん、イライラしてるのは君」 さっきまでルンルンと料理をしてた人物が不機嫌には思えなくてキョトンとしていると行儀悪く肩肘をついてお箸の先が俺を指した 「そっか、、やっぱ桜って変わってるよね」 「そ〜かなぁ、皆こんなもんじゃない?カロリー高い物って幸せになるよねぇ」 (何もかもお見通しですみたいな顔しやがって) 三日月形に細められた眼に見守られ2人で無残な姿に成り果てた野菜を突く、塩味にヒリヒリと攻撃された喉が心地よく感じ心が少し健康になった気がした

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