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第13話※微

8月25日あっという間に過ぎ去った夏休みが終わりを告げようとしていた 肌寒くブルっと身震いをして身体を反転させると傍の感じる温もりに身を縮こまらせて収まる手繰り寄せるように腕が背中に回ってきて体を閉じ込めた (あったかい) 安心する人肌の香り、トクトクと穏やかな鼓動と上下する胸を感じてゆっくりと瞼を開ける (寝てる、、) 静かに顔を上げると睫毛の1本1本が確認出来るほど至近距離にある桜の寝顔 あの1件以来同じベッドで寝るようになった俺達は昨夜も同じ布団に入り眠りについた (冷房の温度下げよ) まだこの温もりの中で微睡んでいたくなったがこのまま2度寝してしまうと夕方近くまで寝こけたという前科があるのでモゾモゾとベットを抜け出してリモコンを手に取ると温度を下げて部屋を出た (ほんとあいつ良く寝るよなぁ) 冷蔵庫から取り出した卵をフライパンに投下して目玉焼きを作る トーストに目玉焼きを乗せて水と一緒にテーブルに着くとスマホを眺める 『明日から学校だからな!?ちゃんと来いよ!』 ロック画面に表示されたトークアプリの通知は親友からのものでその文面に盛大なため息が出た (わかってるよっと、、まじで明日から学校かぁ) メッセージを横にスライドしてそう返信すると憂鬱な気持ちが更に沈んでいく (考えても仕方ないし散歩行こ、、) 首にカメラをぶら下げると玄関に向かった 玄関に置かれた靴棚の上、家の鍵とバイクの鍵が並んでいるその横にコロンと丸い黄色の液体が入った小さな瓶が目に付いた (香水、、) いつも出掛ける時に桜が2プッシュくらい振り掛けるバニラの香り 綽然と手に取り蓋を開けて1プッシュすると桜からいつも香る匂いが玄関に広がった (行こ) 動く度鼻を突く匂いが何だか少し桜に近づけた気がして気分が高揚した 「ふぁ〜、、おかえりぃ〜」 散歩帰りの俺を出迎えた只今起きましたと言わんばかりの顔と長めの赤髪は寝癖でふよふよと色々な方向に飛んでいる 「お前やっぱり寝すぎじゃね?」 「え〜そうかなぁ」 呑気に歯ブラシを咥えてテレビを観ている後ろ姿に話しかける 「桜の学校っていつからなの」 背後に立つ俺の顔はきっと彼には見えていない 「明後日〜」 「そうなんだ、帰んないの」 震えそうになる声を必死に何でもないように装って言い放つ、あばよくば桜ならここに居てくれるんじゃないかそう思っていた 「帰るよ」 その一言は思考が停止してその場から動けない程俺には威力の強いものだった ソファから立ち上がった桜がこちらに向かって歩いてくる、きっと後ろの台所で口を濯ぐんだ、何食わぬ顔をしていつもみたいに振る舞わないといけないそう思うのに身体も顔もカチコチに凍ったみたい ポンポン 「ッ、、、?」 通りすがりに頭を撫でた手のひら、顔を上げるより先に過ぎて行った後ろ姿を眺める 「ね、俺の香水使ったでしょ」 口を濯いだ桜がニッコリと白い歯を覗かせて俺を見るので素直にコクリと頷いた 「気に入ったならあれまほにあげる〜家にもう1個あるし〜」 「いらなっ、、くない、、貰う、ありがと」 「はぁ〜い、じゃあ今日はご機嫌斜めなまほちゃんの為にヤケ酒にでも付き合いましょうかねぇ〜」 冷蔵庫から大量の缶を抱えて戻ってくると戻り際にもう一度俺の頭を撫でてソファにおいでと誘った 「それお前が飲みたいだけだろ」 「そうともゆ〜」 「あと、ちゃん付けんな」 キャンキャン騒ぐ俺を傍目に軽快な音を立て一缶目を開けたかと思うとそれを渡してきて立て続けに二缶目を開ける 「乾杯っ」 カツンと缶が合わさると喉をゴクゴク鳴らせてアルコールを煽った 「桜、お前流石の俺でも寝起きから酒浸る中学生はどうかと思う、、、」 「浸ってないし〜!でもさぁ世の中の会社員は退社するような時間だしぃ?いいんじゃん〜」 桜の横顔、青い箱から1本煙草を取り出して口に咥えて火をつける 漂ってきた煙と共にアルコールを喉に流し込んだ 「桜って学校行ってたんだ」 「失礼なぁ〜こう見えても優等生ですぅ」 「それは絶対嘘、赤髪の優等生とか居るわけない」 飲み続けて数時間、空き缶も中々の数になってきて身体が火照っているのがよく分かった 「お前飲みすぎじゃね?」 「俺は結構酒強いからいいの〜」 確かにずっとハイペースで飲んでいる割には顔色1つ変えない桜にムスッとする (酒まで強いのかよ) 「どぉ〜した?まだ不機嫌なの?」 ニコニコとビール片手に覗き込む桜に吸っていた煙草を灰皿に押し付け赤い箱からもう一本取り出した 「ねぇさっきから煙草吸いすぎじゃない〜?ヤニクラになるよぉ」 「桜に言われたくない」 お構い無く問答無用でライターに火を付けると口から煙草を奪われた 「あのさぁ〜俺が居ないと不安?それともそんなに口寂しい?」 桜の指先が俺の唇に触れる、一瞬時が止まったのかと思った 「キスしてあげよっか?」 口角は上がっているが目は真剣そのもので俺の苦手な全てを見透かす目をしていた 「酔ってんの?」 「ん〜酔ってんのかもぉ〜まほちゃん介抱してぇ〜」 「嫌だ」 至近距離で覗き込んでいた身体がそのまま撓垂れ掛かってくる 「おっも、、どい、」 「実はさ本当は俺が寂しい」 桜の口が耳に触れる距離で静かに囁かれた掠れ声は甘美に鼓膜を揺する 「、、、え」 口から声が漏れる頃には目を閉じる間もなくチュッという音とスロー再生みたいに離れていく至近距離の瞳、それがリップ音でキスされたと理解するのに時間を要した 苦い煙草の香りと甘いバニラの匂いそれから 「桃、、」 桜がそう呟くともう一度ゆっくり唇が重なった、俺の飲んでいた桃のチューハイ、その味を確かめるように段々と深くなっていくキスに抵抗する気なんて微塵も起こらない 「ん"ぅ、、、」 桜の舌から伝わる酸味は彼の飲んでいたレモンサワーだろうか、舌先から上顎まで口内を余す事なく舐められ慣れない刺激がゾワゾワと腰に集中した 「はぁ、、、はぁ、、」 銀色の糸がプツンと途切れて離れていく唇を見つめて涙が滲んだ、既にデロデロに溶けきった脳みそは倫理観を置き去りにする 「かぁわい、そんなに寂しい?」 舌なめずりをして見た事もないエロい顔をしている桜に下腹部がズクンッと疼く 「ね、抵抗しないと今から俺もっとエッチな事しちゃうよ?」 荒い呼吸を上げて顔を見つめるだけが精一杯の俺に何度も問い掛けながら顔中に軽いバードキスを送る 「まーほちゃん、聞いてるかぁい」 「ちゃん、、って呼ぶ、、な、ぁっ」 首筋を擽る髪の毛とペロッと舐められた事によりあられも無い声が出てしまって瞬時に手の甲で塞ぐ 「隠したらお喋り出来ないでしょ〜?そんなにまほちゃんって呼ばれたくないの?」 口元に寄せた手を絡めとるといつも温かい桜の手が今はヒンヤリと冷たく感じた、きっとそれだけ自分の体温が上がってるのだろう 「だっ、だってあの子の名前みたいじゃん!」 「あの子?、、あぁ〜っていうかこんな時に他の女の事考えてたの?まほの浮気者ぉ〜」 その真相に恥ずかしくて背けていた顔も思わぬ方向に受け取られた事で思わず正面に顔を戻した 「ん"ん〜〜、ばかっ逆だよ」 「は?逆?、、えぇ俺があいつの事考えてるって事ー?ないない」 絡み合った手は離さないまま反対の手を左右に振って嫌そうな顔をする 「だってヤッたって言ってたじゃん、、、」 「えーそんな事言ったっけ?アイツとはヤッてないんだけどなぁ、勝手に言ってるだけじゃないの?」 八つ当たりのようなこんな言葉、実際桜が誰と寝てようが俺には関係ないなのに今日は酔ってる勢いかボロボロと言葉が溢れてくる 「ていうかそれって嫉妬?はぁ、、可愛い」 よしよしと頭を撫でる手の余裕がかっこよくて尚更腹立たしいので空いた手で肩辺りを軽く殴りつける 「眞秀、ねぇ後で気が済むまで俺の事殴っていいよ」 普段より低くて落ち着いた声で名前を囁かれる事に慣れてない俺の心臓はドキンドキンッと聞こえそうな程大きな音で早鐘を打って今日、この日に止まってしまうんじゃないかと、寧ろ止まってもいいとさえ思えた

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