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第15話

ワイシャツを羽織りスラックスにベルトを通す 長期休み明けの学校というのは何故こうも憂鬱なのだろう (髪結構伸びたな、、) 歯を磨くついでに身嗜みチェックをすると目にかかる前髪に夏休み前より髪が伸びた事を実感する (このまま伸ばしちゃおっかなぁ、、怒られるかな) 髪を1束摘み上げて耳に掛けてみたりして頭に浮かんでいたのは肩まで伸びた赤い髪 昨夜は結局一緒に風呂に入り仲良く布団に潜り込んだ (俺が帰ってくるまで桜いんのかな) 中学生の俺らには学校に行く義務がある永遠に夏休みでは居られない 相変わらず寝起きの悪い彼はまだ寝室で夢の中、俺にはこの家をいつ出て行くのかも分からない (同じ学校なら良かったのに) 今は携帯で何時でも何処でも繋がれる時代だ、大人が聞いたら寝言は寝て言えと言われそう 時間も時間なので渋々リビングのソファに置いた青色のスクールバッグを手にして玄関に向かう (この玄関も帰ってきたら変わってるかもなんだなぁ) 並んだ2つの鍵、自分のじゃないサンダルまた独り、学校に行く前から身体が重くてこの場から動けなくなりそうだ 「ぉはよ〜まほ朝からちゃんと学校行くの偉いねぇ〜」 寝ぼけ眼で伸びをしながら登場した桜に少し驚く 「桜が朝から起きてる、、」 「失礼だなぁ〜そんな幽霊でも見たような顔してさぁ」 ツンっと細い指が鼻の頭を叩く 「俺、支度したら家帰るわぁ」 そう言って靴棚の上の小瓶を手に取ると俺の顔目掛けてシュッと1振り微かな水気が飛んできた 「わっ、ばかっ」 フルフルと首を振る俺を見て楽しそうに笑っている 「鍵ポストに入れとくね〜」 「、、、うん」 頭に感じた手の重みが昨日まで自分の身体に触れていたと思うと不思議な感覚だ 「まぁ、またすぐ会いに来るよRINEもするしさ〜」 「うん」 「、、、行ってらっしゃい」 僅かに流れた沈黙に桜の優しいハスキーボイスが見送りの挨拶をする 「行ってきます」 その言葉を無下にする事など出来ずお決まりの挨拶を返して俺は家を出た ガラガラッと立て付けの悪いスライド扉を開けて久しぶりの再会に大盛り上がる教室に踏み込む (すぐに会えるか、、、) 皆少し焼けた肌に白い歯を見せて夏休みの話題を面白可笑しく語り合う中1人自分の席に着いて手首のブレスレットを眺めていた 「おっはよー!!」 背中に感じた衝撃と身体を拘束する腕に上の空だった俺はワンテンポ遅れて振り返る 「あ〜よかった!ちゃんと来たんだなまほろ!」 「(らん)、、」 明るい元気な声が耳元で続く 「うっわぁ、久しぶりの再会だってのにもうちっとなんか無いのー?」 つまらなそうに唇を歪めて目の前の椅子に後ろ向きで腰掛ける 「てかお前ちゃんとRINE返せよな」 「いって、、」 額に飛んできたデコピンがいい音を立てて思わず俺が額を覆うと机に肘ついて不機嫌な顔をしていた藍も口角を上げて綺麗な犬歯を見せる 「折角の夏休みなのにちっとも遊んでくれないしさぁー」 「ごめんって返したじゃん」 椅子を前後にカタカタと揺らして文句を垂れる様子は子供の我儘のようで見た目と合わさると何だか玩具みたいだ 「はぁーもういいよ、今日からみっちり遊んで貰うから!」 夏はまだまだーなんて言いながら前方の扉から入ってきた教師と共に自分の席に帰って行った (みっちり遊ぶかぁ、、それもいいかもな) 教壇で何やら色々と話を繰り広げる教師を尻目に何故か沸き立つ焦燥感を窓の外に広がる入道雲を見て落ち着けた 「それじゃ、体育館移動なー」 号令と共に次々と生徒が教室を出て行く 「いこーぜーまほろ」 「あ、うん」 「全校集会とかこんなクソ暑い中ハゲた校長がダラダラ話すんだろー堪んないよなぁ」 ガタガタと椅子を戻して俺達も人が居なくなった教室を後にした 「なぁなぁこれ終わったらほぼ帰れるようなもんだしそのまま遊び行こ〜ぜ」 体育館に向かう階段を降りながら今後の計画を嬉々として話す藍に相槌を打つ 「おーい、まぁたお前らか、、」 「おっ!山センじゃん〜お久ー」 対面から遭遇した少し若めの教師が俺らを呼び止める 「山田先生な、恵崎(えざき)」 山センと呼ばれた教師は片手に持っていた日誌で藍の頭を軽く叩くと話を続けた 「お前らなぁ集会だぞ?もうちょっとマトモな格好しろよぉ、生活指導の鬼頭(きと)先生に怒られんぞ」 「えぇーやだーあの鬼じじぃ説教長ぇんだよなー」 明白に嫌そうに顔を歪めた俺達に山センが苦笑いを溢す 「そんなに嫌なら保健室寄ってその中のTシャツだけでも脱いでくるんだな、今更その頭髪は何ともならんからそれで怒られても諦めろ」 「そんなぁー山セン助けてよー」 泣き言を言って縋り付く真似をしても適当にあしらわれるだけなので集会に遅刻する前に保健室へ向かう事にした 去り際にピアスも外せよ〜なんて声が聞こえていたが隣で既に鼻歌を歌っている男には聞こえているのだろうか 「めんどすぎる、、なぁまほろー集会なんてサボればよくね〜?」 「それでもいいけど後々めんどーな事になりそ」 養護教諭の先生も体育館へ向かっているのか保健室には人1人居なく勝手に引き出しを物色して長袖のワイシャツを手に入れた 「山センがピアスも取れって言ってたけど」 「はぁ?まじそれ、おっ!梨味のガリガリ君」 中に着ていたロンTを脱いでワイシャツに腕を通しながら、暇を持て余して冷蔵庫を覗き出した藍に先程聞いた情報を伝える 「お前髪短いからバレんだろ」 「そーゆーまほろは髪伸びたね」 ワイシャツのボタンを上まで止めていると髪を梳かすように撫でていった感覚に思わず振り返るとアイス片手に傍に立っていた藍の白に近い金髪が窓から入り込んだ風に微かに揺れている 「呑気にアイス食ってっけど遅れて登場したら尚更目立って指導室行きだけどいいの」 既に殆どの人が体育館に集まる中、慌てる様子もなく優雅にアイスを食べる目の前の人物を冷めた目で見ると流石にという感じで渋々鏡の前でピアスを外し始めた (髪伸びて耳も隠れるし俺はいっか、、) 「よーし、そんじゃ行きますかー」 案の定静まり返った体育館のドアを開けただけで注目の的になってしまった俺達はヒソヒソと囁かれる噂話を無視して自分のクラスの最後尾に並ぶ 「うわぁ〜恵崎くんと渕咲先輩だよ〜」 「流石遅れて登場とか目立つね〜」 「「かっこいいね〜」」 隣でアイスの棒を銜えたままだった藍は担任にお咎めを食らいゴミを担任に擦り付けている そんな事をしてる間にも会は進行していき茹だるような暑さの中で眠くなる話を淡々と聞いていた 「まじなんの苦行だっつーの」 終わる頃には半分以上寝落ちていた俺達も馴染みのある鬼頭先生の怒鳴り声に目を覚まし我先にと体育館を逃げ出して今に至る 「しょーがないだろ、お前がそんな頭してるから」 「えー俺だけー?」 一足先に着いた教室で不服そうな声を上げながら着替えを済ますと藍がスマホを手に取り何やら忙しなく指を動かしている 「高田んとこも学校終わったらしーし呼び出し食らう前に合流しちゃおーぜ」 「へいへい」 自席の横に掛けた録に大した物も入っていない鞄を持ち上げて愉快にルンルンと弾む背中を追い掛けた

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