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第16話
これこそまさに今まで1番聞いてきたバイクのエンジン音という物を久方ぶりに聞いた
「なんかお前のケツ乗んのも久しぶりだ」
「あー?何処の誰だよ隠居生活してたのわ」
けたたましい騒音を轟かせて藍の相棒CB250T通称バブが交通量の少ない道路を駆け抜ける
「おー!丁度出てきてんじゃんー」
15分程走らせて正門前で減速すると帰宅途中の生徒がワラワラと校舎から出てきている所だった
「ねぇねぇ君ー高田っていう馬鹿知ってるー?」
「えっ、あ、高田先輩ですか?」
「多分それーまだ校内ー?」
「なんか校内放送で職員室に呼び出しされてましたよ」
きっちりと制服を着こなしたきっと1年生と思わしき少女は困り顔でそう教えてくれた
「まじかあいつやってんなー」
「休み明けから何やったんだよ」
呆れ顔の俺に反して横でゲラゲラと笑い転げる藍にそのまま冷たい目を向ける
ガチャンッという音と共に裏門に回った俺達は教員用の駐車場の脇にバイクを停車させ校内に踏み入った
「おっ!藍くんじゃ〜んお久〜」
「愛ちゃんだーおっひさぁ」
勘で職員室を目指して歩いていると前方から歩いてきた派手な女の子3人組の内1人がテンションの上がった様子で大きく手を振る
「高田っしょ?」
「そーそー分かってんねぇ」
女の子の甲高い笑い声が遠くまで響いて左右の友達とキャッキャしている
「てかまほ居るじゃん〜相変わらず低血圧ですみたいな顔してさぁ飯食ってんの〜?」
「うっせ、お前こそパンツ見えんぞ、あとワイシャツ開けすぎ」
俺の優しい忠告にまほのえっち〜だとか親父臭い〜だとか友達と言い合っているがなんのダメージにもならない
「たかしに怒られても知らねぇから」
「だって最近たかしと上手くいってないんだも〜ん」
そうまさに俺達が探しているもう1人の人物の彼女である愛はキラキラとゴージャスな爪に視線を落として弄り出す
「てか高田は呼び出しって聞いたけどたかしどこにいるかしんねー?」
「あ〜あいつらなら揃って呼び出しだよ〜そろそろ戻ってくんじゃない〜?」
先程収まった笑いも新情報により更にグレードを上げてきた事により藍がまたヒィヒィと笑い出した、今だとばかりに愛が率先して友達と藍の連絡先を交換させようとしていたがドツボにハマった藍の耳には届いていなそうだった
「あぁあ、辞めとけ辞めとけ」
「そぉそ、藍は暴れ馬だからねぇ」
本日2度目の冷ややかな目を藍に送って居るといつの間にか増えていた人数に視線を上げる
「登校初日に早々呼び出し食らってる奴らに言われたかねぇなー」
「女にも愛想尽かされそうだしな」
藍に関しては若干ブーメランのような気もするが俺は愛の肩からひょっこり顔を出す男を見てそう言うと察したのか男の顔から血の気が引く
「え、えっ!?愛!?俺らそうなの!?」
慌てふためいて彼女の肩を乱暴に揺さぶっているとオレンジキノコ頭に鉄拳が落とされて動きは止まった
「やばっ、おもろすぎっ」
「おーい、たかし生きてるかー」
カタカタと痙攣しながら口を押えて震えている藍と抜け殻のように崩れ落ちた友人を心配したフリして足蹴にしている高田
「いたっ、いて、おいこちとら怪我人だぞ丁重に扱え」
「はぁ?どこがだよ」
「心が??」
皆の冷めた空気と視線が一身に降り注いで耐えきれなくなったたかしが、辞めて!私のHPは0よ!なんて叫んでいる
「でさーこんな騒いでると教師来てまためんどーな事になる前に出よーぜ」
「さんせ」
馴染んではいるがあくまでもここの生徒ではないので見つかるとそれ相応にまずい事は学習済みだ
「まーいつものボーリング場でいーっしょ」
「うぃ、俺ら単車取ってくるから先行ってて」
そういって個々に解散した後まだ陽の高いうちに合流した俺達はクーラーの冷風に運ばれ独特な油の香りが充満した室内で驚愕の声を上げる事になった
「いやいやいやっ!可笑しいだろ!」
「ッ、、謎すぎる!、、何故伊勢海老」
ガコンッと重いものが床に落ちる音やピンを倒す甲高い音、そんな中俺と藍の目の前には異色の赤黒い手足の沢山生えた生き物が地面を歩いている
「それがさぁアマちん達が釣りしてるらしくて伊勢海老釣れたからくれるってさぁ〜」
「それで貰ってきたん?」
レーンとは離れた場所に設置された数少ない クレーンゲームや卓球、ダーツ、ビリヤード寄せ集めみたいな場所が比較的俺らが溜まってる場所の1つであった
「流石に池ちゃん怒っしょー」
そんな事を言いながら止める気が微塵もない藍はまたしても爆笑しているし伊勢海老を鷲掴みで連れてきた張本人たかしは呆気らかんとくれたから貰ってきたなどと自供している
「おい高田、俺は伊勢海老を手に持った奴をケツに乗せてきたお前もどうかと思うぞ」
「あいつらが言って聞くわけねぇだろ」
乾いた笑いと諦めの眼差しに同情するかのように1度肩をポンッと叩く
「おーい、お前らぁその手に持ってる物はなんだ〜?」
「おっす〜池ちゃん〜」
爽やかで明るい声に4人全員が視線を向ける
髪の毛をしっかり後ろに撫で付け従業員のポロシャツを着た見慣れた顔
「おっす〜じゃないよ、ここ生物持ち込み禁止なんだけど?」
「まじぃー?」
「そんな顔すんな、当たり前だろ」
オレンジヘッドに軽くチョップを食らわすと話を続ける
「全くお前らはぁ、で学校はサボりか?」
「違うよ池ちゃんー今日俺ら半日だもん」
全員の顔を見回すと盛大なため息をついて呆れた顔をするのでそれに対して藍が弁解をしていた
「あっそ、まっなんでもいいけどそのザリガニ逃がすんじゃねぇぞ、あとちゃんと持って帰れ」
「ザリガニじゃないけどりょーかぁい」
俺らは池ちゃんのこういう緩い所が好きだ
フラフラと手を振って去る後ろ姿を見届けて俺は叫び疲れた喉を癒す為自動販売機の前に立った
「「俺コーラッ」」
どれにしようか悩んでいると後ろから馬鹿2人組の主張が耳に届く
「金返せよ」
2回鳴った電子音と落ちてきた飲料を手に取り弓なりに放り投げるとしっかりキャッチした藍とたかしが同時にキャップを開けて炭酸を吹き零す音がした
「なぁにやってんだか」
「いつもの事だよ」
いつの間にか隣に立っていた高田が壁に背を預けギャハギャハと煩いあいつらの喧騒を見守っている
「高田何飲む?」
「俺?お茶かな、ありがと」
ピッと1回ボタンを押し込み冷えたペットボトルを隣に手渡すと同時に500円玉を握らされた
「は?多くね?」
「いーよ、どーせあいつら金忘れるだろうし」
「そ?じゃ、遠慮なく」
買ったばかりの冷たい炭酸飲料を1口含むとポケットから取り出した紙煙草に火をつけた
「あれ、ハイライト?」
「、、よく気づくね」
思わぬ突っ込みに苦笑いを浮かべる
「いやぁだって縁んとこの文字って案外わかるもんだろ、何ぃハイライト吸ってる男が好き〜とでも新しい女に言われた?」
「そんなわけないでしょ」
肘で脇腹をグイグイと茶化してくる高田に俺は冷たく言い放つ
「じゃー何よ、売り切れ?」
「まぁ、そんなとこ」
「へぇ、なんか意味深〜」
ニヤニヤと横目で見られているのを察知してビリヤード台で戯れる2人を見ていたが唐突に藍がつかつかとこちらに歩み寄ってきた
「そう!!そうなんだよ!!」
「は?」
爪先同士が触れ合う距離でストップしたかと思うと人差し指で俺の胸辺りを突いてくるものだから危ない火種を持った手を上に上げる
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