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第17話
現在ほぼハンズアップ状態の俺は藍に尋問されるが如く詰め寄られている
「どう考えても可笑しい!赤丸が売り切れるわけないでしょ!」
「いやいや、そんな事ないだろ」
とんでもない暴論に冷静な呆れ声で横槍をいれる高田
「だってだって何この甘い香水!今まで付けてなかったじゃん」
「気に入った香水見つけただけかもしんねーじゃん」
ここまでくると詰められてる俺を高田が擁護する連携プレーが生まれている
「ちょっと高田は黙って」
「はいはい」
「う〜ん確かに〜ほんのりクレープ屋さんみたいな匂いする〜」
反対側から覗き込んだたかしがスンスンと鼻を鳴らしてそんな事を言うものだからまたヒートアップしてしまう
「ほら!絶対夏休み中に捕まえた女だぁあ、だから俺らと遊んでくれなかったんだ」
泣き真似をして両肩を捕まえるとゆさゆさと激しく揺すって口答えも許されずにいると横から高田がよしなさいと制止している声が聞こえた
「まほろそんな束縛強そうな女辞めときなよ!」
「お前は遊べなくなるのが嫌なだけだろ、藍だって女遊びひでぇ癖に」
「どんな子どんな子?」
迫真の顔で訴える藍とそれを仲裁する高田にワクワクと楽しそうにクエスチョンマークを浮かべるたかし最早漫才の域だ
「高田はまほろと遊べなくなってもいいの!?変なソクバッキー女に監禁されてもいいって言うの!?」
「流石にそこまではしないだろ、、」
「ちょっと、そもそも女じゃないし」
アップテンポで進んでいく会話に痺れを切らし灰を落とすのを口実に藍と距離をとる
「はぁ?じゃあ何があったっていうの?今日もずっと上の空だしさー」
「まぁ確かにそのブレスレットとかも誰かしらは関わってそーだけども」
流石に休みの1ヶ月間も会わなかった事が堪えているのか普段から執拗い藍は置いておいていつも見守っているような高田まで気になっているという事に俺は腹を括った
「いや、それがさーーー、、、って事がありまして、、」
つい最近起こった出来事を教えられる範囲で簡略化して伝えると4人の間に静寂が流れた
「は?」
「ちょっと待て赤 桜つった?」
藍がただでさえ大きな猫目をこれでもかと開けて俗に言う宇宙猫状態になっているのを無視し、煙草の灰が落ちるのも忘れて質問してきた高田に返す
「そうだけど?あと灰落ちんぞ」
言った時には時すでに遅し落ちた灰が指に乗り熱っ熱言いながら灰皿に落としている
「、、、それって、ヨンフォア乗った赤髪の?」
「知ってんの?」
静かに喋るのが珍しく小首を傾げながら問い返すとその小さな頭をパッと上げ大きな瞳とかち合った
「馬鹿!知ってるも何も有名人だっつーの」
「西中のアカだろ、よくそんなの拾ったな」
「まほたん強者〜」
のほほんとしてるたかしまで煽ってくるものだから何だかハブにされてる気持ちになってムスッとする
「逆になんで全員知ってんだよ」
「そんな事言ってるけどさーまほろも会った事あるはずなんだよねー」
まさかの返答に今度は俺が宇宙猫になる番だった
「まぁ覚えてないだろうと思ったけど、、」
「ほら、アマちんとかと崖走ってた時に西中の奴らと遭遇して一緒に山走ったじゃ〜ん」
やれやれという感じで新しい煙草に火をつけた高田と一生懸命教えてくれるたかしに頑張って脳を絞るが一切思い出せない
「やべぇ何も思い出せん」
「アハハやばいじゃん結構最近だよ〜?薬中?」
うんうん唸る俺を見て楽しそう笑いながら失礼な事を言うキノコ頭にデコピンを喰らわせつつ脳を回転させる
「まぁあの日もお前上の空で無理矢理藍が連れ出したみたいなもんだし」
「そ〜そ〜、ほっぺにおっきなガーゼして階段から落ちた〜とか言ってたよね〜」
そこまで言われると微かな記憶が掘り起こされる、確かあの日も父親に殴られてベッドの上に沈んでいると家に勝手に入ってきた藍が俺をあれこれ介抱すると外に止めたバイクに乗せてそこからは長い時間その背中の温度だけ覚えている
「あの日さぁまほろが目深にフード被って藍の背中から微動だにしないから周りがシャイな女の子と勘違いしてちょっかい掛けてさ」
「そんな事あったね〜それで藍ブチ切れてんのまじおもろい、めっちゃ面倒みるもんだから西中のケツに乗ってた女の子に噂にされてやんの〜」
可笑しそうに笑う2人は自分の事を話しているはずなのにそのどれもがピンとこなくて腑に落ちない
「ていうかそうじゃない!とにかく赤と仲良くすんのは辞めとけ!悪い噂しか聞かねーんだから」
「でた、過保護セコム」
腐れ縁で小さい時から一緒にいる藍はいつもこうやって俺を心配してくれるし高田もたかしも茶化してるように見えて俺の事を考えてくれている
「どんな?」
「どんなって、、クラブに浸って薬中だとか喧嘩した相手を車のトランクに放置するとか中1の時にパクられてたとか?真相はどうか分からねぇけどイカれてんだよ」
「俺ナンバープレートへし折ってんの桜の友達がネットに上げてて見た事あるよ〜」
「あー、俺も山奥に彼女置き去りにしたとか聞いたことあるわ」
次々と上がる悪行に失笑する、これだけの噂があるとすればその中の1つや2つは脚色されてようと真実な気がするしあいつならやりかねないと思った
「へぇ、クソガキだな」
「人の事言えねぇけどなエルも手ぇ焼いてんじゃね」
聞いた事のある名前が発され火を付けていた煙草を無闇に燃やしてしまう
「あの色素の薄いイケメン君ね〜」
「前に話した時にあいつは目離したら死ぬんじゃないかって言ってたし」
俺らに似つかわしくなく暗い話になってきた所を高田がパンッと1回手を合わせた事で区切られた
「1ゲームやって負けたチームアイス奢りな」
高田がボーリングのオーダー表を手にグーを突き出す、全員何も言わずに手を出して掛け声と共にジャンケンの勝敗が決まった
「「うわぁぁあ負けたぁー」」
池ちゃんがカウンターから天井に吊るされた大きなモニターに下手くそやらなんやら文字を流してこちらの勝敗を見届けてくれたがこれもいつもの事で彼は暇なのだろうか
「この自販機のアイスって何か美味いよな」
「分かるあと他人の金で食うアイスが美味い」
勝者の俺と高田が2人にアイスを奢らせ目の前のバニラをかじっている横でやけくそだとスパスパと煙草をふかす藍とたかし
「ふぁ〜もう暗いじゃ〜ん」
外に出て羽を伸ばすように伸びを1つする
俺の手元には残った炭酸がチャプチャプと音を立てていた
「そんなに人と居たなら寂しぃっしょ、俺が一緒に居てやろうかー」
顔を覗き込んだ藍が俺にだけ聞こえる声でそう言った
「遠慮しとく」
冷たく言い放った所で気にした様子もなくケタケタ笑ってガチャンッっとスタンドを蹴り上げる
「まほ〜藍〜また明日ね〜!」
特にこれといって明日会う約束をした訳でもないが高田のケツに乗って走り出す準備OKのたかしがそこら中に響く声を上げた
「おーまたRINEするわー」
「気をつけて帰れよ」
軽く手を上げて藍が声を張るとエンジンを1回吹かして高田がそう告げたのでお前らもなーっと返し単車が駐車場から出て行くのを見送った
「そんじゃ、俺らも帰りますかー」
街灯が付き始め、帰宅ラッシュと共に交通量の増えた街道を風を切って走り抜け家の前に到着すると一言二言交わして玄関を開ける
後ろで遠のいてくエンジン音が聞こえなくなる程去っていく寂しさを覚えていた
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