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第22話side藍
養護教諭の先生が気を使ってタクシーを呼ぶか確認してくれたが迎えが来るので大丈夫と断った
(あいつマジでくんのかな)
お門違いに早く打ちつける鼓動は不安か緊張か
(殴られたりしないよな、、)
焚き付けてしまった手前らしくないネガティブなシチュエーションが頭に浮かんでは消えていくのでフルフルと首を振って追い払うと全てはまほろのせいにしようそうしようと自己完結して流石の赤だって病人には手を出さないだろうと高を括る
親友が苦しんでいる傍らで百面相を繰り広げていると空調の音しか聞こえなかった保健室にスライド式の扉が勢いよくぶつかる音が響いた
「ちょっとここは保健室よ、病人だっているんだからもう少し静かに、、、って、あら?貴方うちの生徒さんじゃないわね?」
保健室のおばちゃん先生が戸惑いの声を上げる
それにハッとしてカーテンから顔を出すと何とも目立つ赤髪が入口に立っていた
「せんせーそれ迎えだからー」
「あらあらそうなのね、高校生かしら学校は大丈夫なの?」
別の制服というだけで上手い具合に勘違いが起こりお陰で問題にならずに済みそうだ
一切変わらない表情でカーテンの仕切り内に入ってきた人物をベッドに腰掛けて見上げる
「まじで来たんだ」
「来いって言ったのそっちでしょ、で、何?保健室で喧嘩する奴とか見た事ないけど」
ヒョロっとしてる割に威圧感のある男だなとは思うが人間実際に顔を突合せて話すと絆されるもので刺々した口調も可愛く感じた
「君さー話は最後まで聞いてよねー、そんでそんな馬鹿な事するわけないだろこれ見ろ」
親指で背後に横たわるまほろを指差す
「誰、、、ッまほじゃんどーしたのこれ」
まほろの顔を覗き込むと瞳が動揺に揺れるのが見えてなんだそんな表情も出来んのかとホッとした
「39°以上熱出してぶっ倒れたんだよ」
「は?なんで学校にいるの」
信じられないものを見る目で見下ろす赤にそれが正しい判断だと激しく同意したくなるが意気投合して盛り上がってる場合ではないので抑える
「1ヶ月も一緒に居たなら分かんだろ、今日のこいつ無茶苦茶で、、、、」
本日起きた出来事を簡潔に私情も混じえて報告すると話が終わるまで静かに聞いてくれてた赤が盛大な溜め息と共に頭を抱えてしゃがみ込んだ
「いやぁ分かる分かるよ頭抱えたくなるよな、なんだよ携帯壊れたって」
そこかよっと自分にツッコミを入れるが目下の赤が微動だにしないので小首を傾げる
「ごめん、、それで急に呼び出したんだけど迷惑だった?出来れば1日でいいからまほろに付いててやって欲しいんだけど、、、」
恐る恐る申し出た2度目の依頼は遮られはしなかったものの返答はない
ジッと赤い頭を見ているとそれが小刻みに震えてる事が分かった
「おっ、、おい大丈夫かよ」
「なんで、、、何で俺なの、あ"ー違うそ〜じゃなくて」
くぐもった覇気のない声が要領を得ない単語をポツポツと話す
「俺何にも出来ないよ」
「そんなの分かってるよ」
いつも飄々としてて悪さばっかりしてる俺らの中でも一際大人に見えるこいつが大して仲良くもない俺に泣き言を零すのが意外だった
「自分勝手だし無神経で他人の事なんかちっとも分かんない」
「赤くんの破天荒さは既に承知済みー」
泣き出しそうな震え声から一転して次に聞こえてきたのは何とも投げやりな言葉達
「ほんとに分かってる?どうでもいいんだよ、、、自分も他人も」
腕から覗いた不信感と戸惑いに満ちた目が真っ直ぐ俺を射抜く、その奥にピンッと張り詰めた糸みたいな物が少しでも触れたら消えてしまいそうな繊細さと純粋さを見え隠れさせて俺は後ろで寝息を立てるまほろの寂しそうな目が頭に過った
「いいよ、大丈夫だよ、お前らどうしようもないけど、他人の俺が何勝手な事言ってって思うかもしれないけどさ、お前らが出会わない方が良かったのにって思ってたそれは多分エルも」
ベッドから降りると地面に膝をついて捨てられた仔猫みたいに震えてるそいつに小さい子に言い聞かせるようにゆっくり一言一言大切に話し掛けた
「だってお前ら2人にしたらどうなっちまうか想像付くだろー考えるだけで恐ろしいわぁ」
クスクスと笑ってその額にデコピンをお見舞いしてやる
「でもさ、周りがそうやって思う程お前らって特殊っていうか特別っていうか似た者同士なんじゃねーの?」
依然とノーリアクションで聞き続ける赤に俺は言葉を続ける
「もうそういう運命だったんだってお互いのその一生塞がらない穴が少しでも埋まるならそれでいいじゃん」
不器用なこいつらが一緒にいることで少しでもその優しさを自分に向ける事ができるならそれでいいと思った
「その謎のプライドエベレスト辞めて許してやれよ」
人差し指で腕に埋める額をグリグリと押し付けるとやっとゆっくり顔を上げた
「ムカつく、、、」
「はぁ!?」
ジトッとした目を向けてボソッと悪態をつくがその目尻はほんのり赤く染まっていて俺はつい吹き出してしまった
「いやいや!!今良い事言ってたでしょ俺!」
「うるさ〜い、、、ほんとにいいの」
ムスッとした表情で不安気に尋ねてくるのが何だか可愛くて俺は思わず赤の髪の毛を掻き回した
「桜くんって案外可愛いんですねぇー」
「辞めろっ」
やいのやいの言い合っていると後ろで苦しそうにまほろが呻いたのをきっかけに立ち上がり問題も解決したし起こしますかーと決意して華奢な肩に手を掛けた
「まほろっまほろ、、まほろ起きて」
眉間に深い皺を寄せて開けようとしている瞼が眉毛を揺らす
「ほぉら行くぞー」
激しめに揺すってもこのままじゃ起きそうにないので強引に上体を持ち上げると寝ぼけ眼で意識を取り戻したみたいだった
「らん、、俺ねむい」
「ハイハイぽやぽやちゃんかぁ?ま、30分も寝れてないからなー俺送ってったげるから家で寝なよねー」
まだ眠そうに舌っ足らずな口調でぼんやりとしていて強制的にベッド縁に座らせても足をふよふよ漂わせて一向に立つ気配がない
寧ろほっといたらまた布団に逆戻りしそうだ
(しょーがねぇな外までおぶってくか)
そこで俺が連れて行っても良かったが折角丁度いい人材がそばに居る事を思い出し俺は悪戯な笑みを浮かべて桜に目配せした
「ほい乗って」
9割閉じてる瞼は殆ど何も見えていないのか何も不審がらず首に腕を回すと大人しく背中に体重を預けた
この時点で声を上げて笑いたいのを何とか堪えて肩を震わせていると横から鋭い視線が突き刺さったので自重する
「ほんじゃ、帰りますかー」
その合図と共に廊下にでると丁度休み時間と被ってしまったのか沢山の生徒の間を通り抜ける
「うっわぁフード被せといて良かったな」
そこら中でヒソヒソと噂される声にうんざりしてまほろには聞こえない声で桜と会話する
「何あれ」
「2年の藍くんじゃない?」
「横の子誰?他校かなぁ、かっこいい〜」
桜の背中に顔を埋めていたまほろが突然の喧騒にビックリしたのか嫌嫌と肩に顔を擦り付ける
「てか西中の制服分かりやすいんだよ何とかなんねーの?」
「それが出来るならこっちがお願いしたいねぇ〜」
さっきまでのしおらしさは何処へ行ったのか返ってきた軽口にイラッとしたのでゲシッと脚を蹴っておく
「おまっ、、起きたらどぉすんの」
「てか寝てんじゃねまほろ」
コソコソと行われてた会話を中断して肩を覗き込むがフードで顔が見えないので耳元で少し大きな声を出す
「おーい走ってる時は頼むから寝んなよー」
聞こえてるか定かでは無いがバイクで走ってる最中に寝られるのは危険なので忠告して校舎を出た
「ん、これまほろの」
「ねぇ何かすっごい掴まれてるんだけど」
バイクの前で保健室に置いていた鞄を手渡していざ出ようという時に困った顔で桜がおずおずと言ってくるので視線の先を辿ると握り締めてしわくちゃになったワイシャツが目に入る
「ちょっと離してくれないとバイク乗れないんですけどー」
あくまでも俺が背負ってる体になってるので勿論話し掛けるのは俺なのだが力の入った拳は一向に緩む気配がないので遂に声を上げて笑ってしまった
「じゃー俺が出して支えてるから頑張って乗れよ」
まほろの頭を2回ほど優しく叩くと桜にだけ聞こえる声でそう告げた
「じゃっ行くからちゃんと掴まっとけよー」
桜がエンジンを吹かして出る準備が整うと俺がまほろに最後の声を掛けるのを前で聞いてた人物がバイクを走り出させる
(はぁー疲れた、大丈夫かなあいつら、後でエルに桜くんの連絡先貰おーっと)
やれやれと伸びをして頭上で腕を組むと去っていく後ろ姿を見送った
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