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第26話
桜の家で過ごした2ヶ月近く、スクスクと育ったアカは両手に乗らないサイズに成長した
学校は冬休みに入り、継続して夜な夜な家を空ける桜やお互いに友達と出掛ける日もあって余り顔を突き合わせない日もあったけど、年明けにはお互いの友達皆で初詣に向かったり、何も無い日は引っ張り出した炬燵で2人して寝落ちすることもしばしば、2週間の休み期間なんてものはあっという間に過ぎ去って始まったばかりの新年も既に2週目を迎えていた
〜♪
「藍からだ、学校のはずだけど、、」
流石に自由奔放と言えども授業中に掛けてくる事は滅多にないので何かあったのか心配になる
「もしもーし」
「あ、○○警察署の佐藤です渕咲くんかな?」
昼時のバラエティが流れるいつもの日常、窓辺では体を丸めて日向ぼっこするアカ、その全てを壊す一言に俺は頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る
「何ですか、、」
自分でも驚く程低く暗い声が出た
「いや〜君に家出の捜索願が出てて今何処にいるか言えるかな?」
小さい子に言い聞かせるような幼稚な口調に無性に腹が立つ
「地元にはいません」
はっきりとそう口にした、この日常を何も知らない大人に取り上げられるよりも怖い事は無かったからだ
「そっかぁ〜じゃあちょっと話してもらおうか」
それだけ言うと俺の耳に聞き馴染みのある声が届いた
「ごめんまほろ!何か警察が学校きて教師に俺の事聞いたみたいでさ逃げようと思ったんだけどこいつらちょっと反抗するだけで公妨とか言いやがんのー」
何だか大事になってるみたいで藍が早口に捲し立てる
「しかも何か見知った顔も居ちゃってさー本当最悪、今迄の行いがどーのこーのとか誘拐でしょっぴくぞとか脅されてるわけ」
そこで話が途切れる続いた沈黙を破ったのは俺だった
「佐藤だっけ?そいつに変わって」
「、、、ごめん俺何も出来なくて」
電話口の向こうで珍しく汐らしい藍の声が聞こえるので俺は笑ってみせた
「何言ってんの藍は何も悪くないじゃん、寧ろお礼を言うのはこっち」
「でも、、」
「大丈夫だって!家帰るだけなんだからさ、逆にここまで大事になってる方が可笑しいよ」
折角明るく振舞おうと思ったのに言葉は段々尻窄みになってしまった
藍の後ろで急かせる警官の声がする
「変わって藍」
俺と警官の板挟みにされたらもう渡すしか残されていないので電話口の人物が切り替わった
「で、教えてくれるね?」
「はい」
俺は大人しく桜の家の住所を伝えると暫くして玄関のインターホンが鳴り響いた
「○○署の佐藤です渕咲くんかな?」
本日二度目の自己紹介、してくれなくても分かるよと内心悪態をついて警官服を身に纏って玄関に立つ男を見上げる
「荷物それだけかな?」
爽やかな笑みをニッコリ浮かべるが俺の心はドロドロと汚い感情で溢れていた
「23日は何してたか分かる?」
「じゃあ24日は?」
パトカーの後部座席で日を追って事細かに何をしてたか聞かれる
(そんな毎日毎日何してたか何て覚えてねーよ、おっさんだって昨日何食べたか覚えてんのかよ)
窓の外を流れる景色を見ながら信号機で止まる度にパトカーに乗る俺は通行人からしたら何かやらかしちゃった少年に見えるんだろうな、なんて呑気な事を考えている間に警察署に到着した
「何で家に帰らないの?」
「帰りたくないからです」
学校の教室のように入口上部に出っ張った白い看板がありそこには少年なんたら室と書かれていたが掠れていて読めなかった
実際中身はドラマで見る取調室みたいなものでそこに座らされて繰り返される押し問答を続けていた
(めっちゃ机の足へこんでる、落書きも凄いな、、)
上の空で同じ事を繰り返す俺に痺れを切らしたのか女警官は盛大な溜め息をついて出ていってしまった
「はーい、で、君は何でお家に帰らないのかな?」
暇つぶしに先代が残してきたのであろう痕跡を見つめていると今度は扉からガタイのいいおじさんがにこやかに入ってくる
「帰りたくないからです」
何度聞かれても同じだと繰り返し答えるとカシャンッとパイプ椅子を鳴らして目の前から立ち上がる
「そーかそーか、その理由が知りたいんだけどなぁ〜よし立とうかっ」
明るい口調も今の俺にはウザったく聞こえて顔を見上げると警官は、ん?と首を傾げて早く早くと俺の腕を引っ張り起こした
「はい、そんじゃ服脱いで」
「は?」
突然の事に眉間に皺を寄せてしまうが気にした様子もなく腰に手を当ててこちらを見ている
「んー?脱げないのか?おじさんが手伝ってやろーか?」
気色悪い事を言って俺の服に手をかけようと伸びてきた手が触れる前に自分でバサッと服を脱いだ
「ッ、、、」
目を細めて食い入るように見るものだから気まづくなって顔を逸らすと知らぬ間に近づいて来て腕を掴まれたのでピクッと身体が強ばる
「これは自分でやったのか?」
「そーですね」
撫でるように上に伸びた手が肘の内側辺りを入念にチェックする
「よしよし、薬物はやっちゃダメだぞー」
「やってないし」
腕のチェックが終わると今度は胴体をペタペタと触り出す
「ちょ、まじできもい」
「はいはい、後ろ向いて」
肩を掴んで半回転させられると後ろから感じる人の気配に今度こそ鳥肌が立って小刻みに震え出す
「この痣は親からのもの?」
「、、、違う、喧嘩」
後ろでサワサワと動く手に耐えられそうもなく俯いて口を手の甲で抑える
「喧嘩かー元気だなぁ、いじめとかではない?」
「ない」
早く終わってくれと願いながら今にも嘔吐きそうな胃を堪えてなんとか返事をする
「そっかー君の友達も派手だったもんねーあんまり暴れないように、よしっ服着ていいよ」
やっと終わったという安堵と早くトイレで胃の内容物を吐き出したいという気持ちで一杯だった
「トイレ何処ですか」
「出て右に真っ直ぐ行ったところだよ」
早足で不審がられないようにトイレに駆け込むとすぐさま胃がひっくり返る
(はぁはぁ、、最悪)
水道で口を濯ぎながら顔色の悪い自分を見て警察署のトイレで俺は何をやっているんだろうとまだゾワゾワする身体を抱き締めて目に涙が浮かんだ
「出てきたか、もうちょっと話聞かせてね」
トイレの外で出待ちしていた警官が俺に先を歩くよう促す
「で、居たのは先輩の家と、、」
取調室に舞い戻って来た俺はまた同じ席に座らされて話を聞かれていた
「その先輩も迷惑なんじゃないのー?」
お前に俺達の何がわかるんだと言ってやりたいがある意味言われてる事も図星なので言い返せない
「もう中学生なんだからしっかりしなきゃ、大変な事があっても世の中もっと大変な人がいっぱい居るんだからさ」
こうやって一方的に説教を受けてるとその全てが正しくて間違ってるのは自分の方なんじゃないかと勘違いしそうになる
「とりあえずまだこれからなんだから明日からはちゃんと学校行く事、分かった?」
「はい」
「じゃあ今日はもういいから写真撮ったらお父さんと帰るんだよ、もう家出しない事」
締め括りの最後の一言が俺に絶望を与えた
そこからの記憶はとても曖昧で犯罪者のように正面と背中の写真を警官に撮られ、父と対面すると各方面に謝罪を入れて警察署を後にした事は覚えている
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