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第27話

横腹にめり込む足に身体が魚のように跳ねてズンッと焼けたように熱を持つ 「ほんとお前はどうして他人に迷惑を掛けることしか出来ないんだ!この碌でなしがっ!!」 悲痛な叫び声と振り上げられた脚がもう一度腹部に命中して嫌な音を立てる 「俺が嫌いだからか!?当て付けか!? お"いっ!」 頬に触れていた冷たい床が頭皮に走る痛みによって離れていく 「聞いてんのか!?」 鷲掴んだ頭髪からブチブチと髪の毛が切れる音がする 「学校にも行かずバイト先にも電話したら辞めたらしいな?どこほっつき歩いてたんだ!」 かっぴらいた目は相変わらず充血して顔色が悪い、盛大に飛んでくる唾に目を細めた 「あ"?謝罪も出来ねぇのかクソガキッ!」 ドスドスッと何度も爪先が鳩尾に食い込む度噎せ返って呼吸が荒くなる 「すみません、、もう迷惑掛けません」 「それだけか?他にもあんだろっ!」 警察で虐待を疑われたからか珍しく平手打ちが何度も勢いよく飛んできて顔が強制的に横を向く、頬に走った鋭い痛みと水が垂れる感覚に爪で皮膚が切れたんだと確信した 「学校へ毎日行きます」 先を促すように膝が顎を蹴りあげた 「お金もちゃんと稼いできます」 それだけ聞くと満足したのか空中で掴んでいた手を離した、俺は死んだ蛙のように床にペシャッと潰れて視界に入る足を見る事しかできない 「今日の所は許してやる、次同じ事したらただじゃ済まさねぇからな覚えてろよ」 プッと唾を吐くような音が頭上でして足音が去っていく 「あっ、言い忘れてたけど学校意外外出んじゃねーぞ」 遠くから聞こえてきた声と扉の閉まる音考えていたよりもずっとあっさり腹の虫が納まったなと冷たいフローリングに額を擦り付ける (いってぇ) 全身がズキズキと悲鳴を上げるよりも心の方が何億倍も痛かった (あのクソ親父馬鹿みたいに蹴りやがって) 蹲るように縮んでから起き上がると台所で水を汲んで血の味広がる口内を洗浄する 唾液と血が混ざった水がゆっくりと排水溝に流れていく (警官もあんなベタベタ触る必要あんのか?) 思い出さなくていい事まで思い出してしまいゾワゾワと背筋が震えて気持ち悪さが湧き上がった 「う"っ、、」 咄嗟に口を手で覆うと手に持っていたグラスが滑り落ちてフローリングに叩きつけられる 「はぁ」 驚きに引っ込んだ嫌悪感、膝をついて乱雑にガラスの破片を拾い集める (いっ、、) 拾ったガラスが再び床に散らばってパラパラと高い音を響かせる ヒヤッとした指先から流れる赤い液体がガラスを濡らしていく、その光景をなんの感情も湧かない頭で見ていた ブーッブーッ (誰?) 等間隔で振動するスマホがテーブルを揺らして、誰かからの着信を教えている 集めた破片をシンクに置いてスマホを手取った (ッ、、桜) 名前が表示された画面、無機質な書体なのにどうしてこんなにも心が苦しい 震える指先で通話ボタンを押す 「、、、俺」 煩いバイクのエンジン音、風の音、外の喧騒 凄く聞こえにくいはずなのにその声だけがクリアに聞こえる 「今どこ」 喉が詰まるようにグッと熱いものがせり上がって震えた心臓はぐわんぐわん揺れてるようだ 「眞秀」 鼻の奥がツーンと痛くて唇を強く噛み締めると血の味がした 「、、、眞秀」 「うん」 長い沈黙を破った聞こえない程小さい声 それが精一杯できっと口を開けたら溢れてしまうから 「まーほろ?」 「桜、、」 大きく開いた瞳の縁に涙が溜まる、滴が頬を伝う頃には視界がぐしゃりと歪んだ 「会いたい」 無意識に玄関へ向かっていた身体が雪崩のように崩れ落ちて床に手を付く 「お願い、、会いたいよ」 もう壊れた蛇口のように溢れ出る水滴が床に水溜まりを作ろうと関係なかった まるで小さな子供みたいにしゃくりあげながら叫ぶ俺をあいつはどんな風に思っただろう 「、、、待ってて」 鼻が詰まって息が出来ない 「必ず迎えに行くから、、、」 それからお互い何も話さず、電話口で泣き続ける俺に数分間通話は繋がったままだった ガチャッ玄関の扉が開く音、空いた隙間から入ってくる人影に身体は重くて痛かったのも忘れて飛びついた 受け止めてくれた身体は温かくて甘い甘いバニラの香りがした 「遅くなった、ごめん」 背中に回った腕が俺の頭を撫でる、それだけで良かった、だから否定するように胸元に顔を擦り付ける 「帰ろ」 その言葉が嬉しくてでも切なくて苦しい 「無理」 「なんで」 駄々を捏ねるように俺を抱き締めた身体が揺れるものだから俺も一緒になってゆらゆら左右に揺れている 「外出るなって言われてる」 「あっそ」 強く締め付けてた物が離れていくそれが怖くなって咄嗟にシャツを握りしめた 「おいで」 ヘッドロックを掛けるように強引に肩を組んで足元だけで靴を脱ぐと縺れるようにリビングに連れてかれる パシッ 「、、、何これ」 「100万」 テーブルに叩き付けられた白い封筒 これがどうしたと言うんだと横目で見上げると表情1つ変えずこちらを向くこともなく言い放った 「は?」 「変な金じゃないから安心して、俺が稼いだ」 一点を見詰める仏頂面に対して俺の眉間にはどんどん皺が寄る 「稼いだって、、そもそもお前の金じゃっ、」 「いーよ、金なんてまた稼げばいい」 いつに無く真剣な表情にそれ以上俺は何も言えなくなる 「まぁ親父帰ってきてもこんだけありゃー流石にすぐ騒ぎ立てる事は無いだろ」 落ち着いていた涙腺がまた緩んでジワジワと目頭を熱くする 「なに〜惚れた?かっこいい〜?」 俯いて目を擦る俺を覗き込む悪戯気な顔がかっこよくて悔しい 「惚れたカッコイイ」 「ぼー読み〜」 ケラケラ笑う桜が半回転して出口を目指すその横顔を盗み見てドキドキ脈打つ心臓が伝わってたらいいかもな、なんて思っていた その日、家に帰った俺をテンションの高い桜がいつも以上に甘やかしてお風呂に入れようとしたり髪の毛を乾かしてくれたり、ギャーギャー文句を言う俺を上手い事丸め込んで、それでもお気に入りのマグカップで飲むココアは美味しいし、俺の手にじゃれつくアカが可愛い 幸せを感じる度に大きくなる絶望を俺達はきっと見ない振りをしていた

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