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第29話
「だってさぁお互い学校行って仕事行って忙しいんだもんー」
「お前は恋する乙女かっ」
机にうつ伏せた俺の頭上に藍がチョップを落とす、家に戻った俺はちゃんと毎日学校に通い出した、好き放題遊んでいても周りに迷惑を掛けるだけでいつまでも逃げ続けた所で家庭問題は変わらない事を俺達は知っていたから
「やばいかな、キモいよね、俺って可笑しい!?」
ガタッと勢い良く立ち上がって藍に詰め寄る
あれから桜はよく連絡をくれるようになったし時間が合えば会いに来てくれる、それでもやっぱり何処か物足りなくて寂しさを感じてしまう
「まーまー、いいんじゃね、ちょっと異常だけど、、」
動じる事なく紙パックのジュースを飲みながらカタカタと椅子を揺らす度にふわふわ動く白い髪の毛を着席して眺めた
(藍にも凄い迷惑かけちゃったしな、、、)
俺が警察に連れて行かれたあの日、桜に連絡をしてくれたのは藍だったそうだ
「そんなに浮かない顔すんなって、あっ、そーだ、今日の放課後西中乗り込むってのはどー?」
久しぶりに再会した藍や高田達には、おはよう逮捕おはよう逮捕と馬鹿にされたが、実際問題を起こさないには大人しくしているのが1番だ
ちなみに馬鹿にされる件に関しては逮捕でも何でもないので否定済みだ
「駄目だよ、平和な日常、それが一番」
「何じじ臭いこと言ってんだよ、桜くんに会いたくねーの?」
誘惑の言葉と分かっていてもそのセリフは今の俺には毒のように魅惑的過ぎて惹かれてしまう
「しかもそろそろ卒業だろー、何処行くか知ってんの?」
「、、、知らない」
忘れていた事実を突きつけられて伏せていた顔を上げる
「下手したら学生してるとこもう見れないかもよ〜」
ケラケラ笑っていうがとんでもない脅し文句だ
「ずるい藍!もうっそんな事言われたら」
「言われたら〜?」
ニヤニヤと得意気な表情が癇に障って俺はバッと席を立った
「どこ行くんだよー」
「トイレ!6限終わったら行くから!」
言い逃げるように前方の扉まで来る背中に呼び止める声も無視してトイレへ向かった
「とーちゃーくっ」
元気な藍の声と共にバイクから飛び降りる
「さっすがに港より目立つなぁー」
「冬服だと尚更ね」
自分達の学校以外でよく行くと言えばやはり高田達の港中学校だろう
「てかなんで西中ってブレザーなん?」
「知らないけどジャンボでヤンチャな奴が多いから他と見分けつくようにって聞いた事ある」
へーっと相槌を打つ藍は質問した割にさして興味が無いようだ
「港も学ランだからなぁー」
頭上で腕を組んで堂々と歩いているが制服が違う分中々浮いている
この辺の中学じゃ学ラン、セーラー服が当たり前で西中の制服は本当に分かりやすい
「てかまじ立地最強だよなー」
「だからヤンキー多いんじゃないの」
交通の便に関して何処に行くにも不便の無い大通りの目の前に立った学校は東に数分行くだけで街中の繁華街に着く、逆に西に15分程走れば俺らの地元である
「目の前にラウワンあるとかやばいよなー」
「溜まり場になってそ」
厳密には斜め前であるが娯楽施設の近さに治安が心配になるが改善された結果がこれかと制服を見て思う
「って言っても高田んとこも大して変わらんけどー」
「あいつら出禁にされて反省文だろ」
少し懐かしいエピソードを思い出して笑いが込上げる
「てか思ったより見つかんねぇーし、電話掛けるぅ?」
「サプライズにしよとか言ったの誰だよ、もう帰ったんじゃないの」
広い校内をグルグル散策して校舎に入ったが流石の大所帯なだけあって迷子のようになってきた
「あのさ〜3年の教室って何処か教えてくんない〜?」
藍が女子生徒に話し掛けるとその子は快く場所と簡単な構造を教えてくれた
「はぇ〜この学校渡り廊下とかあんの凄〜」
言われた通り校舎と校舎を繋ぐ廊下を渡ると
3-8の書かれた看板が目に入る
「うっわ、8クラスもあんのぉ、そりゃこの人数だわー」
1クラスずつ順々に覗いていく
教室に居るとは限らないけれど心臓はクラスが減る度にドキドキと音を立てた
「おっ、あれじゃね」
腰を曲げて閉まった扉を窓から覗く
「ほら、エルもいんじゃん」
騒がしい教室内を藍が急かすようにほらっと言うので肩から覗くと机に腰掛けた細い後ろ姿が見えて心臓が甘い悲鳴を上げた
(赤い髪、、分かりやすい)
「どーする?入る?」
派手な集団で見知った顔もチラホラ見えるがここに来てサプライズという事が緊張を齎せる
「やばいめっちゃ緊張してきた、死ぬかも」
「何でだよ」
語彙力が欠如した俺にも軽いツッコミみしてくれる藍が今は有難い、浮き立つ心をどう静めればいいのか分からないからだ
「だってだって、何か逆に一緒に居すぎて離れると推しみたいな感覚になるんだもん」
「もん言うな、あんたら飽きもせず毎日電話してるやん」
藍の背中に縋り付いて泣き出しそうな俺に呆れた目を向けて盛大な溜め息をつかれるがその押し問答は長く続いた
「ほーら、推し君達何か盛り上がってるぞー」
馬鹿にするような棒読みに顔を上げる
「桜しか推してなっ」
「あっ」
抗議の声を上げようと話していた言葉が途切れて藍も思わずといった様子で声を上げた
「何あれ、桜くんあの子と付き合ってんの?」
すぐに俺に質問してきた藍と違って俺の脳みそはフリーズ状態だ
(まほちゃんが、、まほちゃんが桜にキスしてた、、)
「おーい、まほろー?」
一瞬止まった時が再開すると今度は忙しい程にグルグルと周り出して呼び掛けられてる声は聞こえない
「あー、推しのキスシーンに壊れた?、、あっ、エルこっち向いた」
近づいてくるよ〜と、一々実況してくる目の前の男が憎らしい
「なーにしてんのっ、てかまず何でいんの君達」
エルくんが藍に隠れる俺までも見ようと覗き込んでくる
「柊誰と話してんのー?」
「んー桜のお気に入りくんー」
中から聞こえてきた友達の声にエルくんが声を張って楽しそうに答える
「フフッ、桜来たよ」
色んな感情が綯い交ぜになったこの感情が何なのか分からなくて気付いたら藍の手を取って走り出していた
「あっ、逃げた」
「は?ちょ、追いかけろ」
「え〜俺が捕まえたら慰めのチューしていい?」
後ろで何やら聞き馴染みのある声が言い合ってるのを感じたが今は一刻も早くここから脱するのが先決だった
「チッ、何でここも開いてないんだよ、この校舎可笑しいだろ」
端にある小さな校舎に迷い込んだ俺らは呼吸を荒げながら昇降口と思わしき場所で足止めを食っていた
「窓から出ちゃうー?」
「いや、他校でそれは不味いだろ」
いい提案を思いついたかのように言っているが即答で却下する
「戻るしかないかぁー」
「あいつらに遭遇しそ」
「そもそも何で逃げるんだよー」
自分でも何で逃げてしまったのか分からないので適当にスルーしておいた
「お前らってほんとよくわかんないねぇ」
全力疾走に疲れた俺らはトボトボと校舎を歩いて出口を探す
「は?行き止まり?怖っ何この校舎ー」
兎に角1階に行く為に階段を降りて行くが突き当たりに打ち当たる
「みぃ〜つけた」
背後から聞こえてきたハスキーボイスに肩がビクッと跳ねる
振り返って見ると赤い髪を少し乱した桜が壁に寄りかかって立っていた
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