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第30話

逃げ出そうにも奥は突き当たりなので横をすり抜けて行くしかない 「どこ行くの〜」 ピッと走り出そうと足を出すと明らかに笑っていない目が俺を見る 「じゃ、ちょっとお兄さんと一緒に来ようかぁ 藍くんまほろ借りてくねぇ〜」 「へいへい、誘拐犯かよ」 確かに台詞は誘拐みたいだが苦笑いで見てないで助けて欲しい 桜のその目に見られると何も出来なくなる俺は手首を引っ張られて着いてく事しかできない (藍の裏切り者〜) 何も言わない桜に引き摺られて美術室らしき教室に押し込まれる 「で、俺に会いに来たんじゃないの?」 詰め寄るように近付いてくる桜に後退ると机にぶつかって少し乗り上げてしまう 「そうだけど」 怒っていそうな桜の目を見ないように逸らすと机に手を付いて距離が更に近づく 「だよねぇ〜」 素直に答えたのが功を奏したのかいつもの口調に戻った桜にホッとして顔を上げる 「でさぁ〜何で逃げるの〜お手て繋いじゃって〜」 ニコニコとした顔が首を傾げて伺って来る 「黙りさん、寂しーなぁ〜RINEも返してくれないし」 「それはっ」 連絡の返信を返さなかったのはどっかの誰かがサプライズにしようとか言ったからで計画が見事失敗した理由は1部桜のせいでもある 「それは〜?」 目と目が絡み合い鼻が触れる距離に意地悪な笑みを浮かべる男 「ねぇ見てたんでしょ」 責めるような物言いにモヤッとする 「嫉妬した?」 俺の唇を擦る指、何も言わないのを肯定と取ったのか可愛いと言いながら唇同士が触れる寸前 「やだっ」 ドンッと桜を突き放して下から転がり出るとそのまま教室を飛び出した 今度こそ捕まらないように闇雲に走っていたら何かにフワッと包まれる 「キャーッチ、前見て走んないと危ないよ」 優しい柔軟剤の香りが鼻に広がる、声の出処を探るように視線を上げると柔らかく笑うエルくんが居た 「ごめん」 「何かあった?」 雰囲気を察してか、それとも顔に出ていたのか心配そうに顔を覗き込む綺麗な顔 「フフッ、、桜から隠してあげようか」 今、桜にもう一度会ってしまうのは心の整理が追いつかず、俺の目尻を優しく撫でて去っていく指に一度だけコクリと頷いた 「ここならとーぶん見付からないはずだよ」 連れてこられたのは埃っぽい物置みたいな部屋で両面に並んだ本棚には資料がビッシリ詰まっている 「で、そんな顔してどうしたの?」 部屋の真ん中に鎮座した皮のソファがひび割れて古臭さを伝える、俺はその端に腰掛けてエルくんは窓際に押しやられたグレーの事務机から回転椅子を引き出し背もたれを前にして座った 「そんな顔ってどんな顔」 質問に質問で返した事で顎に手を当て考えるようなポーズを取る 「傷つきました〜って顔?」 「そんな顔してないよ」 どうだ?と言うように小首を傾げるものだから反射的に否定してしまった 「ちなみに〜桜とまほちゃんはほんとに付き合ってないよ」 どうしてそんな事を今教えてくるのか、微塵も表情を変えないので考えが読めない 「好きなんじゃないの」 「誰が?」 「まほちゃん」 その名を呼ぶのは自分の事を呼ぶようで気が引ける 「まぁ、まほちゃんはそーだろうね」 「は、って事は桜は違うの?」 「あいつにそんな感情ないと思うよ」 質問攻めを切り捨てて行くような回答は心地好くてエルくんなら何を聞いても応えてくれそうだと思った 「好きじゃなくても、、友達でもキスする?」 「んー、どうだろ人によるんじゃないかな」 視線を手元に落として手首で輝くブレスレットを擦る、どんな回答が欲しくてこの言葉を言ったのか自分でもよく分からなくなっていた 「試してみる?友達同士でキスをするのか否か」 何を言ってるんだろう、と顔を上げるとサラサラの茶色い前髪と端正な顔立ちがドアップで目の前に広がる 「どう?わかった?」 一瞬触れ合った唇はリップ音すら立てない程の掠める接触で近付き過ぎた顔が間違って触れてしまった事故なんじゃないかと思うような物だった 「フフッ、、フリーズしてる?」 鼻で笑った息を微かに感じて再び合わさった唇はしっかりとその柔らかさを感じていた 押し付けられた唇にヌルッと濡れた感触がして脳が思考に追い付いた頃ガラガラッと扉が開く音が静かな室内に響いた 「うっわ、怖っ」 チュッとリップ音を立てて離れた唇が入口を見てへの字に曲がる 「何してんの」 「キスだけど?」 地を這うような低い声にエルくんは飄々と返す 俺も声に釣られて振り返るとそこには長い前髪で表情が読めない桜が立っていた 「そー、眞秀、、、おいで」 俯いた顔はよく分からないけれど目が合った気がして桜が腕を軽く広げる 「はやく」 催眠術に掛かったように腕の中に吸い込まれて バニラと煙草の香りが俺を包む 「エル席外して」 「はいはい、虐めんなよー」 扉が閉まる音と同時に掌が両頬を包んで上を向かせるとチュッチュッと何度もキスの雨が降ってきた 「ちょ、桜」 足下を縺れさせながら背中からソファに沈んでいく 「んっ、、」 開いた口の隙間から舌が差し込まれて口内を好き勝手暴れ回る 「ぁッ、、、」 舌先から上顎を擽るように舐められて閉じない口は2人の唾液で溺れそうだ ジンジンと痺れる舌先がゾワゾワと腰辺りに集まって燃えるように熱くなった下腹部から全身に熱を放つ 「んぅっ」 行き場の無いもどかしさに脚をスリスリと持ち上げるとゴリッと硬い物が太腿に当たった (桜も勃ってる、、) 段違いの甘い口付けが唇だけじゃなく顔中に降って耳や首をも犯していく 「腰、、揺れてるよ」 耐えられずに腰が上がって桜の太ももを押し上げていると注意された 「だぁめ、スボン汚れるよ」 掌が俺の腰を掴んで浮いた腰をソファに沈める 「ねぇ、エルとキスした事俺も我慢するから眞秀も許してくれる?」 叱られた仔犬のような目で下から覗いてくるのは反則だ、紅くなった顔を誤魔化すように口を隠してコクコクと頷くと桜が事切れたように上に倒れ込んできた 「あ"ーー嫌われたかと思ったぁ〜、てかまじ最悪、何してんのエル」 「桜だってまほちゃんとしてたじゃん」 お互いの腹辺りに当たってる硬いものが気になるが張り詰めた空気が一気に緩んで言い合いになる 「あれは勝手にあっちが盛り上がってただけだし〜しかも俺はあんな公の場でえっろいキスなんてしてませ〜ん」 「えっろいって」 「密室で口ぺろぺろされてた癖に〜」 なんだがチクチクと刺さる嫌味ったらしい言葉達に俺も反論した 「俺だって突然キスされましたぁー不可抗力ですー」 「不可抗力だと〜男子中学生だろっ!反撃しろ反撃〜」 「それを言ったらお前もだろ!馬鹿!」 2人して伸びていた身体が桜が擽り攻撃を仕掛けてきたことによって暴れ回る 「てか俺らって仲直りしたんじゃないの〜」 何がなんでも擽る桜と暴れて逃げ回る俺、その攻防は長く続いて2人でちんこ勃てたまま何してるんだろうと思った 「もう1回チューしてくれたら許す」 「え〜何それ可愛い」 そう言いながらもう一度近付いてきた顔に大人しく目を閉じる 「まほろキス好きだよね」 別に誰とでもするキスが好きなんじゃない、桜がしてくれるキスが特別なだけ 「なんで」 「なんでって夏休みのあの時から俺がキスする度にもう1回〜って顔してるもん」 素直じゃない俺が聞き返すと何とも恥ずかしい答えが返ってきた 「そんな顔してない」 「してるよ、、もっとしてって顔」 顎を掴んで強制的に瞳が絡み合うと桜は妖艶な笑みを浮かべて見せる 「じゃあ何でしないの」 キスだけじゃなくその先を、あの夏の日のように体温が溶け合う事は1度も無かった 含みを持たせた言葉にきっと桜も気付いてる 「俺って案外マテが出来る男なんだよねぇ〜」 要領を得ない応えに呆れた目を向けた 「うわ、何その信用出来ないみたいな顔〜傷つくわぁ」 項垂れたついでにおれにそのまま上体を預けて凭れてくる 「言っとくけど俺あの日からそーゆー事誰ともしてないよ」 あの日とは夏休みの事だろうか、耳元で囁かれた真剣な声に心臓がドキドキと早鐘を打つ 「アッハ、心臓ドッキドキ、嬉しい?」 楽しそうに笑って悪戯に聞く答えの代わりに目の前の肩口をグリグリ額で擦って顔を埋めた そのままソファで抱きあったまま寝てしまった俺達は桜のやっべ寝てた〜という声で目を覚まし藍から入っていたRINEで帰る手段を失った事を知ると桜の4フォアに跨り寄り道でアカと戯れてからお家に送り届けて貰った

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