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第31話

2月7日、学校が終わり校舎を出ると門辺りが何やら騒がしい事に気付いた 「誰誰〜」 「何か前にも1回うち来てなかった〜?ほら!藍くんと一緒に居た子!」 「うっお〜すげ何あの単車」 ザワザワと遠巻きにされる噂話に高田でも来てんのか?と思いながら門に向かう 「よっ」 壁に背を預けて待っていたのは赤い髪 口から煙を吐きながら煙草を挟んだ手を挙げている 「うちの教師見付かると煩いぞ」 弾んだ心がバレないように敢えて冷たい態度を取る 「ねぇねぇまほろ〜」 甘えた態度で高い声を出し肩に腕を組んでくる今の状況を周りの生徒はカツアゲだと勘違いしないだろうかと心配になる 「なに」 「俺猫飼ってるんだけどさ〜家くるぅ?」 「いや、知ってるし、何そのマッチングアプリの誘い文句みたいなやつ」 冷静なツッコミに横で桜がお腹を抱えてゲラゲラと笑う 「じゃあ〜俺がめっちゃ美味いカレーを今晩作ります、くる?」 「行く」 即答で返事した俺に食い物で釣られるなんてお兄ちゃん心配〜とか何とかほざきながらバイクのエンジンを掛ける 「スーパーに出発進行〜」 情けない声掛けと共に風景をどんどん追い越してカレーの食材を買い込むと久しぶりの桜の家に帰宅した 「ただいまー」 「おかえりっ」 「何で桜がおかえりって言うんだよ」 クスクス笑ってスーパーの買い物袋を一旦台所に置くと足元でミャーミャー鳴くアカがお出迎えしてくれた 「アカぁ〜会いたかったよ〜」 「ほんとにまほろはアカにデレデレだよね」 台所で手を洗って大分ずっしりしてきたアカを抱き上げる 「まほろココア飲む〜?」 「飲むー」 俺が元気に返事をすると真似したように鳴き声を上げたアカが可愛くて買い物袋からおやつを取り出すと桜が渡してくれたココアと一生に移動した 「ほら〜アカもおやつだよ、お前はほんとに可愛いなぁ」 一生懸命食べているアカの頭を指先でチョイチョイっと撫でて見守る 「ていうか何で急にカレーなの?」 「んー何となく〜?」 台所に立つ背中に問い掛けると疑問形が疑問形で返ってきた 「俺手伝う事ある?」 「いんや、アカと遊んであげなよ〜あんまり会えなくて寂しいだろうし」 会う度大きくなった気がする仔猫の成長速度は時の速さを感じさせる 料理をする音が聞こえる中、来る途中に印刷してきた新しい写真をアルバムに仕舞って見返すと早朝の写真と桜の写真が増えている事に気付く (今までは朝バイトしてたしなぁ) 新聞配達に慣れた身体はまだ陽も上がらない早朝に目を覚ます、暇な時間を潰す様に散歩に出掛けるフォルダはすっかり朝の光景ばかりだ カシャッ (スマホに転送しよ) レンズを台所に向けて揺れる赤髪を映すとシャッターを切って温かいココアに口を付ける 風景ばかりだった写真がすっかり人物と猫を映す事が多くなってそれが少し嬉しい 「あとほっとくだけ〜」 料理を終えた桜が手を拭いながらこちらに歩いてきて広げていたアルバムに目を落とす 「あっ、ちゃんと入れたんだ」 すっかり増えたページをペラペラと捲ると嬉しそうに色々な写真にコメントを付けてく 「うっわ、これ懐かしっ」 指差した写真を覗き込むと夏に初めて桜の後ろに乗って連れて行って貰った海が写っていた 「びしょ濡れの桜ね」 「あの時はまほろも濡れてたでしょ〜」 「お前のせいでな」 夏休みの三者面談で親父がブチ切れて突き飛ばされ当たった先の窓が割れて怪我をした (あの時の担任の顔やばかったなぁ) 他人からしたら最近の話でも既に遠い過去のような気がしてくる 「暗闇でなんも見えないのにパンイチになって服洗ってんのまじ笑えた〜」 ケラケラと可笑しそうに笑う桜が居れば嫌な過去でも振り返るのが楽しい アルバムを閉じて本棚に戻すとお決まりの小説を抜きとる 「それ面白い?」 「ん〜微妙」 そんな事を言いながらもペラペラと紙を捲る音が部屋に響いてソファに横になった俺の胸でスヤスヤ眠る仔猫が温い (眠い) 普段不眠気味の俺でも桜と一緒だとどうしてか瞼が重くなる、フワッと身体に毛布が掛けられ落ち着く匂いに包まれるとそのまま意識を手放した 「んぅ、、」 頬をザラザラしたものが執拗く舐め上げる 脳が1番に理解したのはカレーの良い匂いで、薄く開けた瞼から真っ黒な毛に包まれたオレンジ色のビー玉が覗いている 「アカ、、」 小さな身体を抱き寄せてもう一度眠りにつこうとするとニャーンっと大きな声を上げた 「まほろ、アカが飯食いたいって」 前髪を上げるように額に手が触れて微睡んだ意識はその手を押し返すようにグリグリと動いた 「はいはい、流石にそろそろ俺らも飯食お?」 分かった分かったというように頭を撫でる手が離れていってその手を追い掛けるように瞼を開けた 「ニャーッ」 起き上がった膝の上から催促するようにアカが鳴く、俺はカーペットに足を降ろして台所に立つ背中に向かった 「やっと起きた〜、まだ眠いのかい甘えたちゃん」 ドンッとぶつかるようにお腹に手を回して甘えると笑った桜の背中が震えた、左右に移動する背中に引き摺られるようにくっ付いると下から苦情の声がする 「ニャーン」 「はいはい、アカもご飯上げるよ〜」 俺らの脚にゴンゴン額を体アタックしてスリスリと動く猫に返事をする 「横で食べる?」 テーブルに用意されたカレーは対面していて俺らは今ピッタリくっつくようにカーペットの上に座っている 「ひっつき虫だなぁ、食べさせてあげようか?」 それは遠慮というようにスプーンを手に取り1口運ぶと口内をカレーの丁度いい辛さが刺激した、桜が俺の食べたお皿を少し横に寄せて目の前から別のお皿を引いてきて手を付ける 「ふつ〜」 「美味しいだろ」 「そ〜?ならいいけど〜」 食べ物が喉を通り胃を満たすとエネルギー供給された身体が覚醒し始め脳が回り出す 食べ終わる頃にはすっかり元気を取り戻していた 「今何時ー」 「23時過ぎ〜」 お皿を洗う桜の背中でくっつき虫継続中の俺は暗くなった外に時計を見ないでいた、あば良くば時間のサバを読んでくれないかなという淡い期待は簡単に打ち砕かれる 「ばかっ、今何時」 「だから23時過ぎたってば〜」 「ばかぁ〜まだ17時だよ」 な訳あるかぁ、と手を拭きながら返されて背中でぶつくさとブー垂れているとお腹に回った腕を外してソファに腰掛けた桜の膝の上に乗せられる 「カレーって2日目が美味いと思わない?」 「?うん」 突然何の話だと今はもう帰らなければいけない時刻に先程まで馬鹿みたいに寝こけてしまった過去の自分を呪ってる所だと不満気に見上げた 「俺美味しいカレー作るって言ったよね?明日が本番だと思うんだけどどう思いますか?」 「そうだと思います」 似合わないカタコトの敬語にハッと目を見開いて激しくうんうんと同意する きっと今の俺の目は仔犬にも負けないくらいキラキラしていると思う 「泊まってく?」 「泊まってく!」 欲しかった言葉に飛びつくように首に腕を回して抱きしめた 「アイス食う人〜」 「食べるー」 沈んでいた気持ちも嘘みたいに舞い上がってルンルン気分で食後のアイスを頬張った

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