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第32話
泊まることが決定してお風呂に入った後のんびりベッドでスマホを眺めているとアカが猫じゃらしで遊ぶ鈴の音と共に枕元に置かれたもう1つのスマホが激しく鳴り出した
(え、何何、壊れた?)
ブーブーブーブーと絶え間なく鳴り続ける携帯に心配になって風呂場を見る
まだ風呂から上がる気配の無さそうな桜に知らせるべきかどうか悩む
(うわ、なんか電話も鳴ってるけど)
こんなに届く通知に緊急事態かと思いスマホを手に取ると部屋のインターフォンが鳴った
(だっ誰!?)
時刻は12時を回って普段なら呼ばない限り誰も来ない夜更けだ
ガチャッ
「おっ、まほろくんだ」
恐る恐る開けた玄関の隙間から見知った顔が登場する
「エルくん」
「やー、今日めっちゃ急いで帰ったから何かと思ったけどまほろくんの所行ったんだね」
何の話か意図を掴めず首を傾げるだけの俺に紙袋をズイッと突き付けてきた
「え?何これ」
「1人だったら慰めてやろーかと思ったけどまほろくんが居るならいいや、じゃぁね」
慌てて引き留める俺に耳も貸さず嵐のように去っていったエルくん
手に残った紙袋に視線を落とす
(うっわ、キルフェボン?)
有名ケーキ店の分かりやすい紙袋に益々謎が深まっていく
「なんで玄関にいんの〜誰か来た〜?」
半裸の桜が髪の毛を拭きながらやってきて俺の手に持ってるものを見ると納得したように背中を向ける
「エルか毎年ご丁寧に良くやるよねぇ〜」
「毎年?」
そのフレーズとケーキに1つの答えが思い浮かぶ、慌てて背中を追ってリビングに戻ると慎重にテーブルに紙袋を乗せて胡座をかいてスマホを眺める桜を問い質した
「は?え?お前もしかして誕生日!?」
「そ〜」
超重大イベントをあっけらかんと告げられて中々のショックを受ける
(俺が聞かなかったのが悪いけど、悪いけどさぁー!)
なんで教えてくれなかったのと聞いても自分から別に言わないでしょ〜と言われてしまえばそれまでだ、しょんぼりして横に着席するとスマホから顔を上げた桜が俺の頭をポンポンと撫でる
「ケーキ一緒に食べて」
お願いする言い方が俺を慰めてるようで誕生日なのに気遣わせてる事が更に情けなくなる
「ごめん俺何にも用意してない」
「そんなの気にしなくていいよ、一緒に居てくれるだけでいいし〜」
箱からケーキを取り出す桜の横顔を見て俺は本当に色んな物を桜に貰ってしまってるのにな、と思う
「欲しい物ないの?何でも買ってあげる!ドンキ行く!?何か俺にして欲しい事とか!」
この時間に空いてる場所と言えば思いつく限りあの場所しかなくて早口に捲し立てるが動きを止めた桜が考える素振りをする
「うーん、何でもかぁ、じゃあ君の身体で」
ニヤニヤと試すような顔で俺の顎を掬って視線がかち合う
「え!いいのっ?そんなんで」
「ばーかっそんなんとか言わないの、怒るよ」
逆にグイッと顔を寄せると呆れた顔をした桜が眉間に皺を寄せてデコピンを食らわせてきた
「いったぁ」
「お仕置、まほろの変態〜」
私の体が目当てなのねぇ〜なんて甲高い声を出してケーキに蝋燭を刺していく
15本刺さったケーキに手持ちのライターで火をつけて電気を消す
「蝋燭消した後の匂い俺好き〜」
「それわかる、ほら早くしないと溶ける」
仄かな淡い光に照らされた顔を見合わせて促すように視線をケーキに移す
「暗っ」
「ほら〜電気消す必要あった?」
「あるだろ!」
フッと一息で消えた灯火、こうも一瞬だと少し淋しく感じるがスマホのライトで照らしながらパチッと付いた電気に眉を顰める
「これで本当に年上面できるね、おめでと」
「んん?それは祝ってくれてるのかな?」
約半年の差で1つ歳の違う俺達はついさっきまで同い歳だったのに、この差が大きい
「高校とかどうするの」
「誕生日に嫌な事聞くね〜」
ケーキを切り分けずにそのままフォークで突きながらずっと聞きたかった事を聞いた
「まぁ内申はそんな良くないけど、こ〜見えて案外テストで点数取れるタイプなんだよ俺〜」
学校が違ければ学年も別でお互い詳しく掘り下げる事がない話題
「相学行こうかなって」
「は?」
予想だにしていなかった名前に桜の顔をジッと見る
「まじ?」
「まじ〜」
表情を変えずに黙々と苺を頬張る横顔を見て上がる口角を抑えられなかった
「嬉しい?」
「嬉しい!」
あまりにも視線を感じたからか振り向いた顔が俺を見てニヤッと口角を上げた
「毎日近くなっちゃうね〜」
それもそのはず相学基相川学園は俺の家から徒歩数分の距離に鎮座する高校だからである
「桜は清学行くもんだと思ってた、下手したら高校行かないとか言い出しそうだし」
「流石に高認は欲しいからさぁ〜、てかそれってどうなの」
可笑しそうに笑いながら俺の口に苺を運んで流れるように租借すると甘酸っぱい味が口内に広がった
「まぁ確かにエルはブーブー文句言ってたけど〜」
桜の家はどちらかと言うと繁華街に近いので家からもバイト先からも近い似たようなレベルの清学を差し置いて何も無い俺の地元の学校に来る理由が無い
「めんどくさくないの」
「どうせ単車転がしてくし大差ないよ、めんどくなったらまほろの家泊めてよ〜」
常識的に考えればそんな意気込みで3年間を過ごす学校を選んでいいものかと思うが踊り出したい程の嬉しさを心が代わりに飛び跳ねて喜んでくれた
次の日、俺は温かい腕の中で目が覚めると桜にお願いしてバイクを出してもらった
「何買うの〜」
「秘密」
後ろでえ〜と漏らしている男をショッピングモールに内装されたカフェに押し込んで少し待ってて貰う
「あの、、」
「は〜い!」
煌びやかな店内に気後れしつつも店員さんに声を掛ける
「何かお困りですかー?」
お姉さんが愛想の良い笑顔を振り撒いて俺に尋ねる
「数珠玉を2つ選びたいんですけど」
「成程!どういった物がいいとかはございますか?」
ハンドメイドなどを取り扱う装飾品店で目の前に広がる石の海に右も左も分からず助けを求めた
「実は何も決まってなくてすみません」
尋ねておいて要件をはっきりしない事に申し訳なく思い視線を手首のブレスレットに移す
「お洒落なブレスレットですね」
明るいお姉さんは持ち前のコミュ力で俺のブレスレットを言及してきた
「貰った物で、実はこれを分解して2本にしたいんです」
「くれたお相手さんと一緒に付けるんですか?」
分解したいなんて申し出に臨機応変に対応してくれて本当に有難い
「とっても大切なんですね!そのブレスレット」
フフッと笑ってどれにしようか考え出すお姉さん、ほんの少しの会話だけで何故大切だと分かったんだろうか疑問に思いつつもカラフルな石に目を向ける
「やっぱり定番は誕生日石ですかねー、お客様とお相手さんのお誕生日月はいつか分かりますか?」
「2月と7月です」
つい昨日知らされた本日の誕生日、お姉さんは2月と聞くとハッとした顔をした
「あら、もしかして今日ですか?」
その言葉に苦笑いを浮かべると察したのか素敵なプレゼントですね、と言ってくれた
「それではまず2月の誕生日石のアメシストです」
お姉さんが1粒持ち上げて見せてくれた淡い紫色の球体は所々斑に見えて手の平に乗せると存在感を発揮する
「アメシストは絆を深める愛の守護石とも呼ばれてるんですよ?ペアアクセサリーにぴったりなんです!」
活き活きと石について教えてくれる熱意がこの仕事が好きだ全身で伝えてくる
「すみません、こういう事になると熱くなっちゃって」
「いえいえ、楽しいですありがとうございます」
何も知らない俺からしたら詳しく教えてくれる事にデメリットは無い、寧ろ助かっているくらいだった
「そうですか?では7月ですね!」
7月と言って手に取った数珠玉を見て俺はグッと惹き込まれる
「ルビーです!ルビーは宝石言葉に怖いと言われてしまう事があるんですが」
「何でですか?」
飛び出しの良かった声が段々と尻窄みになり思わず口を挟んでしまう
「実は愛の疑惑という言葉がついているんです」
「愛の疑惑、、」
何だか花言葉や石言葉は明るいイメージが強かったので少しダークな印象を受ける
「実際の所は愛の疑惑を消し去るというもので他にも身に付けると深い愛情に恵まれるなんて言われてるんです」
「へぇー詳しいんですね」
はにかんで笑ったお姉さんは少し照れ臭そうにしていた
「それ1つずつ下さい、あとブレスレットにするレザーの紐ってありますか?」
「はいっ!」
製作材料を見繕って貰ってレジカウンターで纏めてもらう
「フフッ、、お客様のブレスレットを見る目があまりに優しかったのできっとお相手さんも凄く喜ぶと思います」
「、、、ありがとうごさいます」
最後にお姉さんが嬉しそうに笑うので俺は恥ずかしくなってお礼を言うのが遅くなってしまった
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