33 / 65

第33話

「ごめん、お待たせ」 「全然い〜よ〜、欲しいもの買えた〜?」 連れてこさせといてカフェに放置するなんて怒っても良いのに桜は読んでいた小説から顔を上げて俺を見た 「買えたよ、ありがと」 「それはよかったぁ」 俺もカウンターで頼んだキャラメルマキアートに口を付ける 「どっか行くとこある?」 「いんや〜特にはないかな〜」 甘いキャラメルとほろ苦いコーヒーの味がじんわり身体を温める 「じゃあこれ飲んだらブラブラして帰ろ」 そう言うと同意したように桜がカップに口を付けて喉仏が上下に動く 「ご飯食べてく〜?」 「帰ってカレー食べないと」 魅惑的な提案であるが俺らには2日目のカレーが残されている、それを思い出したのか桜がケラケラと笑ってそうだねと一言言った 「アカにも餌上げないとだし」 「俺の家に居るとほんと〜にアカ中心の生活だよねぇ、まほろは」 テーブルに肘を付いてジトッとした目を向けてくる桜にそれの何がいけないのかと疑問に思う 「そろそろでよっかぁ〜」 暫くの談義の末お茶会を締めて俺達はカフェを後にした 「ねぇやっぱ今日は休もーよー」 「駄目ですぅ」 家に帰宅してから2人と1匹で炬燵で微睡んでいると時間はあっという間に過ぎ去って休みの日の時刻を誰かが早送りしてるんじゃないかと真剣に疑いたくなる 「だめ?」 「ど~しよっかなぁ、じゃなくてそんな可愛い顔してもだーめっ」 すっかりラフな格好からカッチリした格好に着替えて俺は桜の膝の間で駄々を捏ねていた 「やだぁ」 「、、、蒼士さんってね怒ると鬼みたいにすげー怖ぇ〜んだよ」 俺が黙る説明にムッと顔を上げると伸びてきた手がムニッと強く頬を摘む 「お家居ていいよって言ったじゃん」 「独りじゃん」 散々駄々を捏ねた結果もう一泊のお泊まり許可が降りていた 「寂しがり屋めぇ、俺が帰ってくるの待っててくれないの?」 本当は無理な我儘を言ってる自覚はあるので逆に真っ直ぐな瞳でお願いされたら頷くしか出来ない 「いい子〜、まほろが居ると早く家に帰りたくなるから終わったら秒で帰ってくるよ」 小さい子に言い聞かせるように頭を撫でて額にキスをする 「そんじゃ行ってくるね〜」 「うん、行ってらっしゃい」 決まった事は覆せないと割り切って何食わぬ顔で桜を見送る 「ククッ、、」 「なんだよ」 笑いを堪えるように口元に手を寄せて肩を震わせているので何が面白かったのかと声を掛ける 「はぁ〜、、ほんとに可愛いねまほろは」 突進するように抱きついて来た身体を受け止めると身体が左右にゆらゆらと揺れる 「寂しいね」 「すぐ会えるじゃんって言ったの誰だよ」 唯バイトに行くだけなのに一生の別れレベルに悲観する俺達は可笑しいだろうか 「あっ、そ〜だ!寒いしさぁまほろのマフラー貸してよ〜」 解放された身体でリビングに向かって赤いマフラーを持ってくる 「ありがと」 「絶対無くさないでよ!」 「はいはい〜」 俺が買ったのにと呆れた顔で頭を撫でた手が離れて玄関の扉を開ける 「じゃ、ほんとに行ってくるよ」 「おー、行ってらっしゃい」 マフラーを首に巻いて出ていった後ろ姿は頭髪も赤でマフラーも赤くて何だか面白かったな、と1人で笑いながらリビングに戻った 「よーし作るかぁ」 桜が出掛けた事によりあるミッションが遂行される 「うーん、これミスって戻らなくなったらどうしよう」 腕のブレスレットを取り外して分解するのは良いけれど再度製作した時に形を保っていなかったらという不安と緊張が身体に走る 「んー、でももう決めちゃったしやるしかないよな」 始めてしまった物は後に戻れないのでレザーを解いて数珠玉と鈴をしっかり保管しておく (これをこーして、、) 編み方の説明動画を観ながら赤と白の4本を上手いこと編んでいく (おぉ、中々良いんじゃないか?) 1本目が編み上がり今度は紺と白で再び同じものを作る (俺結構才能あるかも、、) 思っていたよりも案外簡単に早く出来てしまった事に驚きつつも達成感を感じていた (最後にこれを通したら完成かぁ) 先に見た目の変わらない鈴を真ん中に通して次に楠木の数珠玉を通す (、、やっぱりこうだよな) 長く悩んだ末に赤い方のレザーにルビーの数珠玉を通す事にした、自分の腕には青いブレスレットを装着した (案外様になってるな、、桜喜ぶかな) 鈴が1個になってしまったことや数珠玉がチグハグで変になってしまわないか心配だったが想像よりもお洒落な仕上がりに安堵した (フフッ、、早く帰ってこないかな〜) また1つ楽しみが増えてお風呂に入ってしまおうとルンルンで浴室に向かった ガチャッ 「ただいま〜」 「おかえりー」 1時過ぎに帰宅の合図が聞こえてパタパタと玄関に向かう 「起きてたの、寝ててよかったのに〜」 へにゃへにゃと力なく俺を抱きしめた身体からは色んな物が入り雑じる外の香りがした 「ニャーン」 寝ていたアカも寝ぼけながら起きてきて足元にスリスリと身体を擦り付けてお帰りと告げている 「アカ〜労わってくれてるのかぁ?」 可愛い可愛いと癒しを求める桜は相当お疲れのようである 「お風呂湧いてるよ」 「うっわ、神!ほんと酒とか香水とか煙草とか俺めっちゃ臭いでしょ〜」 スンスンと自分の匂いを嗅いでそのまま浴室に向かう 「服出しといてあげる」 「嫁?天使?」 疲れすぎて頭も働いてないような会話を聞いて少しでも胃に何か入れてから寝るかな、なんて考えて台所で残り物をレンチンして置いた 「ふわ〜さっぱりした〜」 「食べる?」 犬のように駆け寄って来て着席した桜の頭をドライヤーで乾かす 「服着ないと風邪ひくよ」 真冬によく半裸で居れるなと思いながらスウェットの上を頭に被せて顔を出させる 「なんか今日至れり尽くせりじゃない〜?」 「そーかな」 小首を傾げながらソファを降りて桜の横に座り込む 「手貸して」 「ん?手?」 疑問符を頭に浮かべて惣菜を口に運ぶ反対の左手を持ち上げる 「はいっ」 紐をくるっと回して留め具を嵌める 「へっ?」 阿呆な声が聞こえてきてサプライズ大成功とばかりにクスクスと笑う 「誕生日プレゼント」 「これって、、」 お箸をテーブルに置いてジッと手首を凝視する目に少し不安になる 「ごめん勝手に」 多分桜が今思い浮かべてる答えとばかりに自分の手首を並べるように差し出す 「ありがとう〜!やっばぁ、めっちゃ嬉しい〜!てか今まで人生で貰ったプレゼントで1番」 耳元で届いた盛大な喜びは激しく鼓膜を揺すぶった、大袈裟な程喜ぶ桜にホッとする 「俺、実はこれずっと付けてたから違和感凄くて癖でよく手首触っちゃってたんだよねぇ〜」 「知ってる」 「あ、知ってた〜?」 色々な角度から照らして見ている眼差しは出会った時と変わらずやっとそこに戻って来たという歓喜まで窺える 「新しい数珠玉だぁ〜まほろが選んでくれたの?」 「まぁ」 優しくブレスレットを撫でる指先が赤い石を擦って気恥ずかしくなった俺は顔を逸らした 「なんの石〜?」 「ルビー」 詳しく話せる程俺の肝は据わっていないので簡潔に名前だけ答える 「まほろのこの紫のは〜?」 「アメシスト」 「へぇ〜調べよ〜」 スマホを手に取りタップする指先を阻止する 「俺が帰ったら!」 「え〜なんでよ〜気になる〜」 奪ったスマホを奪還しようと伸ばす手を何とか避けてやっと諦めてくれたようだ 「でもほんとに嬉しい、ありがと眞秀、絶対ずっと大切にする」 元々桜の物だったブレスレットは預けるという形でくれた物だったけれど本当はずっと桜の腕に付いていてとても大切にしていた事を分かっていた、次はその新しいブレスレットが桜を護ってくれますようにと願掛けしておく 「台無しにしなくてよかった」 「台無し所か倍々で返ってきたよぉ〜」 嬉しそうに笑う桜に心の底から良かったなと思った

ともだちにシェアしよう!