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第34話

「ありがと!藍」 「あいよ」 停車したバイクから勢い良く降りて飛び出すように1歩2歩と駆け出す 「、、、どした?」 感謝を告げて飛び出した割りにすぐ立ち止まった俺の背中に不安気な声が上がった 「ねえ男が男に花貰って嬉しいかな?」 その問い掛けに一瞬時が止まるとブッと吹き出すように笑い出す 「お前今更かよ」 ヒーヒーお腹を抱えて笑う藍を見て俺は眉間に皺を寄せた 「だってそれ以外口実思い付か無いし、、」 「はいはい、餞って言葉があんだろー、折角の門出だし贈ってやれよ」 確かに嬉しいかどうかは別としてお祝いの気持ちが大切なんだと悟される 「ヤンキーの癖に良いこと言うな」 「お前もうケツ乗せてやんねーぞ」 前のめりでハンドルに両肘を掛けてジトッとした目を向けられているが結局何だかんだ言ってこの男は優しいのだ 「行ってくるね」 「おー行け行け」 素っ気ない態度に笑って背中を向けると他校の校内に足を踏み込み後ろでバイクのけたたましいエンジン音が遠のいて行った (生徒多すぎて見つけられるのかな) 犇めき合う生徒達の中には胸ポケットに造花のブローチを差して写真を撮ったり親と思わしき人物と歓喜して涙したり兎に角和気藹々とした空気が所狭しと満ちている 「あっエルくん」 見知った後ろ姿を見付けて声を掛けると日に当たって一段と明るい髪の毛がフワッと振り返った 「来たんだね」 「うん」 少し疲れてる様子で朝からの出来事を教えてくれた 「でさー行かないとか言う桜を無理矢理引っ張ってきたのに」 うんうん、と相槌を打ちながら人混みに後ろ姿を探す 「桜なら秒でどっか消えちゃったよ、相変わらず人混み嫌いだから」 「そっか、もう帰ったのかな」 猫みたいな生態を分かってはいたけど会えないかもしれないと思うと手に握った包み紙がカサっと音を立てた 「俺も撤退したいけどー流石に先輩達も最後だしここに居ないとだからなぁ」 「確かに、先輩達盛り上がってるな」 2人で視線を向けた先には派手な集団が盛大な笑い声を上げてこの真冬の中何故か服を脱ぎ出して踊ってる所だった 「ほんとに馬鹿」 「でも見てる分には面白いよ」 苦笑いを浮かべて手先に篭もる熱はお家で渡せばいいか、と考える 「桜なら多分屋上にいるよ、行っておいで」 腰を曲げて寒そうにポケットに両手を突っ込み震えてるエルくんがそう言った 「え」 「早く行かないとほんとに帰るかもよあいつ、それ渡すんでしょ」 見上げるような視線とぶつかって凍える気温が1度上がるようなフワッした笑いに固まっていた身体が軽くなった 「迷子にならないようにね〜」 飛び出した俺の背中に追い風が吹いて、もう寒くない気がした ガチャッ 「う"っ、、寒っ」 重い扉を開けると外から雪崩込んできた寒風が前髪を後ろに吹き飛ばす (まだいるかな、、、) マフラーに顔を半分隠して広々としたコンクリートの上に出る 「桜」 白に近いグレーのツルツルしたコンクリートに冬の空が反射して寝転ぶ桜の赤い髪と対比してる 首にぶら下げたカメラのファインダーを覗いて1度シャッターを切った 「キャンバスみたいな屋上だな、、、」 呟いた独り言と共に白い息がマフラーの隙間から抜けていくのを見上げる 「フフッ、、、」 澄んだ空気を揺らす微かな笑い声 ゆっくり起き上がった身体が振り返って柔らかい掠れ声が耳に届いた 「そ〜だね」 「なんだよ」 未だに震える肩に文句を付けるように広い屋上を横断して傍まで来るとその場にしゃがみ込んだ 「エルくんが怒ってたよ、最後なんだし一緒に居なくていーの」 「い〜のい〜の、どうせまたすぐ集まんだから」 皆別れの感傷に浸ってるのに何ともあっさりしてる奴だ 「寂しくないの?」 「え〜寂しくないよ〜」 「なんで?」 卒業式なんて人生でそう何回もある物じゃないのでこの場に便乗して質問する 「なんでって、まぁ早く大人になりたいし〜」 「そう」 大人というワードから逃避するようにマフラーに深く顔を埋める 「まほろは大人になりたくない?」 まさかの質問返しに目線だけを高く上げるとニッコリと優しい笑顔が覗いていた 「、、、想像つかない」 「そっか」 本当の所大人になるのが怖いというのが正しい意見だった、揺れた瞳を隠すようにもう一度伏せた頭、桜は何も言わずに俺の頭に手を乗せた カシャッ 「え?」 頭から滑った手が首に降りてカメラを持って行ったかと思ったらシャッター音が聞こえて顔を上げる 「可愛い」 構えていたカメラを下ろして俺の好きな甘い笑顔を浮かべながら撮った写真を見返す 何も分からないまま膝をついて側まで来ると一緒に液晶モニターに視線を落とした 「?」 何の変哲もない俺が写った写真に首を傾げる 「頬っぺたも鼻も耳も真っ赤」 「しょーがねーだろ、冬だし寒いし」 楽しそうにケラケラ笑って奪い返そうとする手を上手く躱す 「早く暖かくなるといいねぇ」 「うん」 冬は嫌いな筈なのにその言葉が少し寂しい フェンスの向こうに広がる校庭は名残惜しい者達の喧騒で溢れる 「てかさ〜それ俺の花?」 握り締めていた包装がグシャッとした数本の花束、結んだリボンの先が風に煽られてヒラヒラ揺れてる 「うん」 「まじ〜?やったぁ」 贈る花だと判明しても差し出さない俺に桜が不思議そうな顔をする これは新しい門出を御祝いするお花だから、そう思うと中々手放せずにいた 「、、、おめでと」 「わーい、ありがと〜」 渡された花を見て喜ぶ桜、元々学校も違ければ学年も違う俺達の形は変わらない、なのにどうしてこんなに不安に感じるんだろう 「1本吸ったら行こ〜っと」 傲慢にも俺は桜も同じだと決めつけて慢心していたんだ、その勘違いがいつの間にかこんなにも距離を開けて襲ってくる 「まだエル達馬鹿やってんのかなぁ〜」 初めて見た時細くて小さいと思っていた後ろ姿それが今、赤い髪靡く背中が大きく思える (桜ってこんな大きかったっけ) ガシャンッとフェンスに手を掛けて校舎を見下ろしながら煙草に口付けて煙を吐き出す (あぁ、、いいな) 吸い込む度に燃えていく灰を見てそう思った 煙みたいに取り込まれれば俺と桜は1つになれてこんな勘違いも本当になったのに 「そんじゃ、帰りますかぁ〜」 空に向かって1度伸びをすると出口に向かって去っていく 「ねぇ、桜、、、」 「ん?」 馬鹿だって笑うかもしれないけど俺か桜が女の子だったなら俺達が出逢った事を運命の赤い糸何て物で結んで離れないようにできたのかな?それならこんな寂しさは感じずに済んだのかな 「どした?」 黙り込んだ俺に桜が心配そうに戻ってくるのが分かって俺はとびきり明るい声で返す 「なんでもない!帰ろっ!」 潤んだ瞳を振り払うようにフルフルと首を振って駆け出す、好きだから零れたんだ でも溢れたから好きだと気づいてしまった 桜は知ってるのかな、俺は初めて恋をしたみたいで分からないから 炭酸はペットボトルを振らなくても自然と時間が経てば抜けてしまう物だけど恋だって振らなくてもいつかは消えて無くなるのかな 俺はそのいつかが怖くて堪らないんだ

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