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第37話
「また今度さご飯行こーよ」
「いいねー何食べようか」
親しくなった俺達は店前に何度か食事に行く事があった
蒼士さんも来客に繋がるなら全然OKという方針で仲良くなったお客さんとは連絡先を交換したり店外で会うのも良しとしている
(まぁ、許可が出た人だけだけど、、)
殆どが常連客で年齢層も高い落ち着いたうちのバーにもたまに変な奴が紛れ込んでいたりする
そんな時は蒼士さんの持ち前の接客スキルで追い払ってしまい二度と店に入れる事はないのだがその中でも圭介さんは従業員皆にとても気に入られていた
(綺麗に飲んでくし金払いもいいし)
嫌われる理由が何一つない
「割烹料理とかどう?あっさりしてるし、まほろくん好きそう」
「俺ちょっと脂ぽいの胃に来るから助かる」
それでも俺だけが知ってるこの人の秘密
「まだハタチなのにそんな事言ってー」
「年齢とか関係ないよ」
「いやぁ、おっさんになるとね」
眉間に皺を寄せて歳を取ることへの身体の劣化について語り始める圭介さんは説教染みている
「おっさんって圭介さんまだ若いじゃん」
「若い子からしたら10以上も離れてたらおっさんでしょー」
笑うと童顔な顔が更に可愛い雰囲気になって若々しく見えるのに可笑しそうにケラケラ笑う
「でも、まほろくんに若く見られてるならいいや」
三日月に細められた目は甘い響きをもってカウンターに置かれた俺の指先にそっと触れる
「はいはい、水飲む?」
「もぉーまだ酔ってないよ〜」
ムスッとした顔も子供みたいで、街中の女の人に聞き回ってもこの人に惹かれる人は多いはずなのに何故か俺に好意を寄せられている
「圭介さん絶対モテるのに」
「何それ嫉妬〜?嬉しー」
約半年前傷心中の俺を心配した蒼士さんと圭介さんで気分転換にお店の外に出掛けてきなと言われた先でこの人に告白をされた
(俺男が好きでまほろ君と真剣に付き合いたいか、、、)
引くかもしれない、嫌なら店に行かない等々の過大な前置き省略されているがこんな感じの言葉に告白よりも周りに意外と同性愛者が居るものなんだと関心した
「全然そんなんじゃないです」
「クールだねぇ、でもそんな所が良いよね」
肩肘ついて俺の顔を眺める圭介さんに気まずくなってドリンクに手を付けた
(この人ほんとに俺なんか好きなのかな)
実の所桜が交通事故にあったあの日から片時も傍を離れずに憔悴しきった俺を藍が何とか立ち直らせようと奮闘して、その時に桜が好きなんだと藍にはカミングアウトしていた
(何か勘違いされてるけど、、)
勿論絶賛絶望中の俺に好きだのなんだのが届く訳もなく丁重にお断りさせて頂いた訳だが、それを藍に報告した時からずっと推されている
「まほろ〜ちょっとこっち来いよ〜」
ボックス席から上がった声に返事を上げカウンターを出て行く
「稲葉さんーどうかしました?」
「呼んだだけだがまぁ、座れよ〜」
酒癖の悪い顔見知りは今日も既に何件か行ってきたようで顔を真っ赤にして出来上がっている
「今日も飲んでますね」
「そうなんだよ〜酔っ払い過ぎだよな」
お連れの方はまだ酔いが回っていないのか俺に肩を回して撓垂れ掛かって来るおじさんを呆れた顔で見ていた
「ちょっと重いんだけどー」
「お前良い匂いするな〜今どきの男の子は女みたいに細くて折れそうだぁ」
幾ら酔っ払っているとはいえそれが酒の席という物なのでふざけた調子で押し返そうにも相当酔ってるのか胸元に顔を埋めて腰に手を回す
「稲葉さーん、水持ってきてあげるから一旦離してくれー」
「んん"、、」
未だに自分から近寄る以外の接触に反射的に揺れてしまう身体を誤魔化すように肩に手を掛けて押し返す
「ヒッ、、、」
まさか寝てしまったのではないかと背筋に走る悪寒を押し込めどうしようかと考えあぐねていると首筋にヌトッとしたものとアルコールの微かな息が吹き掛かる
「まほろく〜んシャンパン入ったからカウンター行って〜」
その言葉と共に身体が軽くなる
「も〜稲葉さん飲み過ぎだってば!はいっ、水飲んで!」
転がるように下から抜け出て鳥肌と共に胃がひくつくのを口元に手を当てて落ち着けた
「え、こんな高いシャンパン、、なんで?」
「良いんだよ君が戻ってくるなら、それより大丈夫だった?」
営業中だと態度を引き締めてカウンターに戻ると俺にお酒を入れてくれたのは圭介さんだった
「うん、ありがとう」
「はぁー、僕だってまだ抱き締めた事ないのに、、、悔しい」
そんな事を言いながらもニコニコ笑ってお酒に口を付ける姿は余裕に満ち溢れている
(俺この人の事振ってるのにな、、)
「圭介さんって大人の余裕って感じだよね」
俺の言葉に目の前の少し垂れた大きな目が少し見開かれる
「君の前で格好つけたいだけだよ」
フワッと微笑む顔はやっぱり何処か大人で引け目を感じる
(俺なんかがこの人の横に立っても釣り合わないのにな)
趣味や性格も全く違う俺の何処に惹かれたんだろう
「う"ーごめんなさい、俺がしっかりしてないばっかりに」
取って付けたような優しい嘘にペールの中で冷やされる花柄の瓶に目を向ける
「気にしなくていいのに、でも、そんな申し訳なく思うなら僕と今度デートしてよ」
「え!逆にそんなんでいいの!?」
俺とのデートにこのシャンパン程の価値もあるとは思えずビックリして顔をズイッと近づけた
「そんなんって、、君ねぇ、、俺は心配だよ」
はぁ、と長いため息をつかれてしまい俺はまた何かやらかしてしまったかと心配していると入口の扉が開く音がした
「やっほ〜ん、来たよ〜」
ツカツカと高いヒールを鳴らして入ってきた金髪お姉さんはカウンターの1席を引いて腰掛ける
「まほろん今日もビジュいいね〜」
「ももちゃんいらっしゃい」
クルクルしたふわふわ髪はしっかりセットされており兎みたいな顔が良く際立つ
「今日仕事休みなの?」
「そーそー、友達と飲んでたから寄ったの、私カンパリ〜」
「ソーダでいい?」
コクンと頷いた顔を見て赤いリキュールを炭酸で割って出す
「今日のお通しポテサラッ!?やったぁ〜」
大袈裟に喜ぶ無邪気な顔にそうだ男性はこういう女の子を好きになるものなのだと再認識する
「まじ客がね〜」
近所のキャバクラ店で働くももちゃんは日頃溜まった鬱憤を晴らすようにマシンガントークを始める、俺は結構その話が嫌いじゃなく楽しく相槌を打っていた
「私もピュアな恋がしたい〜純愛てきな!」
「ももちゃんならすぐ出来そうだけど」
いつの間にか恋バナに切り替わっていた話に思わず笑ってしまった
「そんな事言ってさぁ〜まほろんはどんな子がタイプなの〜?」
「え?俺?」
まさかこの話が自分に回ってくると思って無かった俺は一緒に飲んでいたカンパリソーダを机に戻す
「赤が好きな人かな」
「何それ〜!まさかの色!?やばいおもろい」
まほろんサイコーと陽気に手を叩いて笑うと
キラキラ光る指先でグラスを持ち上げて中のアルコールを煽った
「まほろんって何か恋人と絶対王政築き上げてそ〜」
「何それ、怖っ」
「俺の命令はぜったーい!みたいな?」
それを亭主関白かDVと言うんじゃ無いだろうかとそんな男に見えていて大丈夫かと心配になる
「実際ど〜なの〜?」
「、、、俺は案外好きな人の言う事は何でも聞いちゃうタイプだよ」
それが例え一緒に死んでくれだとしても、きっと桜が言うのなら俺は実行するだろう
「え〜まほろんが甘々なの想像つかない〜」
恋バナが楽しいのか飲むペースがいつもより早いももちゃんに新しいドリンクを作って、そこから夜が更ける度忙しくなる店内に脚をパンパンにさせながら働いた
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