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第41話
「ここって、、」
「家何だけど、、寄ってかない?」
帰り着いた場所は見ず知らずのマンションで尋ねた割には有無を言わせない調子で圭介さんは車を出ていってしまう
「あの、俺」
「大丈夫大丈夫、お茶したら家まで送ってくよ」
慣れた様子で暗証番号を押してエントランスを通り抜ける
「その辺座ってて〜今淹れるから」
自分に好意を持った人間の家にズカズカと上がり込むのはどうなのだろう、しかし圭介さんは大人で余裕があるしこういう物なのだろうか
「はい、どうぞ」
湯気を立てるコップを俺に手渡して俺の隣に腰を下ろす、男の一人暮らしという感じの1Kには必要最低限の物が詰め込まれてるようで俺はベッドを背にしてラグの上に体育座りをしていた
「なんか見る?サブスクとか」
目の前のテーブルを挟んだ向こうのテレビは中々の大画面で見応えがありそうだ
「これ見た事ある〜?」
「この前金ローでやってたよね、見てないけど」
去年流行った映画が流れ出す
「金曜はいつも仕事だもんね」
「そうだね」
映画も中盤でここが山場という時、手に触れる熱を感じて俺は肩をビクつかせた
その熱はスルッと俺の指先を絡み取ってくる
思わず視線を横に向けるとその目は真っ直ぐテレビを見詰めてるだけだった
(まぁ、手くらいいいか、、)
酔っ払いに絡まれてケツを揉まれる事も酷いスキンシップだってあるが圭介さんは俗に言う太客なのにそういった絡みがなく偶にはいいかと甘くみていた
「まほろくん」
「なっ、、に」
映画も終盤、数々の謎が解けていく感動シーン
名前を呼ばれて振り向くと唇にフワッと何かが触れて離れていった
「圭介さん」
驚きに目を見開いてその顔を見詰める
「僕ずっとまほろくんが好きだよ」
眉間に皺を寄せた苦しそうな顔でそう告げて再度顔が近付いてくる
「ごめん」
唇が重なり合う前にか細く震えた声が飛び出す
「そっか、でも拒絶しないのは受け入れてくれるって事?」
目の前の大きな身体が俺の身体を包み込む、フルフルと震え出すのは緊張か不安か恐怖なのか俺には分からなかった
「駄目だよ、そんな事したって俺は、、」
「分かってる」
スルッと裾から入ってきた冷たい指先が背筋を駆け上がっていく
「ッ、、、俺の事好きなんでしょ身体だけなんて傷付くのは圭介さんだよ」
ビクッと揺れてしまった身体が恥ずかしくて捲し立てるように言い訳を並べるとピタッと指が止まった
「優しいねまほろくんは、でも僕は悪い大人だから君の身体だけでも欲しいんだ」
いつもの明るい声色は何処へ行ったのかシンとした室内に淋しそうな声が響くと圭介さんが離れていった
「はい」
「ッ、、、何これ」
目の前に跪いて差し出された5枚のお札をみて目を丸くする
「そういうのが面倒臭いなら割り切ってやるっていうのはどうかな?後腐れないし君の気分次第でいい」
「でも、、」
「あんなにバイトしてるのはお金に困ってるからじゃないのかい?」
君にならもっと出してもいいよと付け加えられて次々に提案されていく条件は俺に有利なものばかりでここまで言われてしまうと今の俺には断る道理がなかった
「2つ約束して」
「君と出来るなら何なりと仰せのままに」
更に条件を追加するのかと気を悪くする様子もなく跪いた圭介さんは王子のように俺の手を取って甲にチュッとキスを送った
「1つ、する時は後ろからして」
「バックが好きなの?エッチだね」
(違うけど、、そういう事にしておこう)
未だに人に触れられるのが怖い俺は一々身体をビクビクさせて表情に出てしまうのでそんなのを見られたら最早セックスどころでは無くなってしまうだろう
「2つ目、キスはしない」
「えぇ、それは残念だなぁ」
別にしても良かったのだけれど1度触れ合った唇が不変的なものだと気付くと俺はその行為だけを求めた、目の前の彼は眉を下げて困ったように笑ってその条件を了承した
「あと俺インポかもしれないんだけど大丈夫?」
「えぇ、そんなに若いのに!?大丈夫なのそれ」
「穴があれば大丈夫でしょ」
ムードの欠片もない下品な言葉達、しかしこれは相手にとったら重要な事かもしれないので初めから忠告しておいた方が良いだろうと簡潔に分かりやすく教えておく
「そういう事じゃないんだけどなぁ、、」
「?、、もしかして俺に突っ込まれたかった?」
だとしたならどういう事なのだろう、俺はセックスをするのには穴に棒が突っ込めれば成立するものだと思っている
「いやいや、俺はバリタチ専門だから抱く側しか出来ない」
「そっか、よく分かんないけどそれなら問題ないでしょ?」
その言葉をどう受け取ったのか圭介さんは善処しますと静かに呟いて顔を真っ赤に染めていた
「ローションとかある?」
「うん、ここにってどうするの」
立ち上がった俺は引き出しから出てきた下手したらワックスなんかと間違えそうなチューブ型のローションを受け取る
「お風呂借りるね」
「、、、うん、バスタオルとかその辺の使っていいから、着替えは置いとくね」
流石に言ってる事が分かったのか多少の間を空けていつものような笑顔を浮かべた
「ッ、、、」
シャワーの打ち付ける音と粘着質を持った水音が浴室に響く
(いってぇ、これほんとに入んのかな)
男とセックスするのは初めてじゃない1度体験した事が2度出来ないわけがないので腹を括って内蔵をグチャグチャと掻き回す
「う"っ、、、」
胃に込上げる嫌悪感を手の甲で塞ぎそろそろいいかなという所で中から指を抜いた
(こんなんが気持ちいいとか可笑しいよ)
桜を好きになってから男同士の恋愛というものについて調べるとやはりそう言った記事にぶつかるわけで俺も健全な男子中学生、当たり前にある性欲を吐き出す為に興味本位で後ろを弄ってみたりもしたが今の所1度も気持ち良くなれた試しがない
(やっぱAVって架空って言うしそーゆー事なのかなぁ)
ササッと身体を洗って浴室から出ると大きめのスウェットが用意されていた
(圭介さんのかな)
嗅ぎ慣れない服に手を掛け着替えてみると、なで肩の俺には少々襟元が緩すぎる気もするしウエストなんかはガバガバで裾も長い
(まぁ、どうせすぐ脱ぐんだしいいか)
そう思いながら脱衣所を後にした
「ハハッ、ぶかぶかだね、ごめんねそれしかなくて」
「いいよ別に」
風呂場から出てきた俺をフワッと抱き締めると額にキスを与えた
「口以外ならいいのかな?あとちゃんと髪の毛乾かしとくんだよ」
水が滴る毛先を触って颯爽と風呂場に消えていく圭介さんは可愛いのに何処か大人の色気を纏っている
(あ、これが言ってたミニトマトかな)
耳元で煩いドライヤーの音にボーッとしながら部屋を見渡しているとベランダに置いてあるプランターが目に止まった
(桜なら風呂上がり髪乾かすの面倒くさがって一旦一緒にアイス食ってから大分乾いた頃にドライヤー掛けてくれたな)
俺の家のソファで半裸になってアイスを咥える桜が頭に思い浮かんでクスッと笑う
(いやいや、俺は今から圭介さんとセックスするんだし)
頭に浮かんでくる回想シーンを振り払ってドライヤーを片付けるとベッドに乗り上げる
(知らない場所ってただでさえ落ち着かないのに他人のベッドとか無理すぎるっ)
ゴロゴロと落ち着かず寝返りを打っていた俺はヒヤッとしたフローリングに足をつけ着てきた上着を手に取る
(外から着てきた物をベッドに持ち込むのは申し訳ないが許してくれ〜)
そんな懇願の末ガチャッと浴室の扉が開く音が聞こえてきた
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