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第46話

吹く風はぬるい春を連れてきて毎朝見慣れたニュースキャスターが来週には満開だと桜の開花時期を告げていた 新しい門出、新しい春は来たのに今でも鮮明にあの頃置いていかれた背中を思い出す (あと数日もすれば入学式かぁ〜) 受かってようと落ちていようと正直さして興味は無かったが引き摺られて行った合格発表は5人揃って入学できる事を告げていた (ほんとにもう中学生じゃないなんてな) 誰も参列しなかった卒業式はレイラさんがお花を持ってお祝いに来てくれた、その後すぐに開催された合格と卒業祝いを兼ねたパーティーは全員が集まり朝まで続いてどんちゃん騒ぎになって (ぅ"ぷっ、、暫く酒は見たくもない) 思い出すだけで胃がひっくり返りそうだ (皆で同じ高校か、、、) 一緒に通える、大丈夫そんなの絶対楽しくなるに決まってる、ずっと自分に言い聞かせてきた でも、もう限界だった 「ただいま〜」 特にする事も無い春休みはお決まりの散歩に出掛けて玄関の扉を開ける音にいつも飛んでくるアカがその日は廊下の隅でか細い声を上げた 「どうしたアカ、おいで」 奥から獲物を狙うような目付きで敏感に周りを警戒しているアカの様子にどうしたのかとしゃがみ込んで目線を合わせる (あぁ、、) 手を差し出しても動く気配がないので靴を脱いで部屋に上がろうとした時散らかった左右の靴が目に付いて納得した 「どうしたの今日は」 開口1番それが当たり前というように用件があるのなら早めに済ませてしまいたいとソファに座る後ろ姿に声を掛ける 「ここは俺の家だ、、いつ居てもいいだろ」 (何だ今日は落ち着いてるのか、、) その態度に呆気に取られて俺は親父を視線の端に入れながら台所で手を洗って冷蔵庫に手を掛けた 「ちょっと何、、」 炭酸ジュースを取り出そうと伸ばした腕はピタッと止まり背中にズシッと重たい熱が加わる 「お前は、、お前は居なくならないよな」 ピーピーッと冷蔵庫の警告音が鳴る、肩口で震えた声を出す父は何処か子供のようで愛憎の間で揺れ動く震えた手をお腹に回った逞しい腕に重ねた 「俺の家はここだからね」 殺したい程憎い相手、でも世界で唯一の肉親だ 「そうか」 きっとこの抱擁は無償の愛では無くそれを求めた歪な想い 「いっ、、、」 腹に回った腕が離れていったと思うとすぐに肩を突き飛ばす衝撃を受けて背中が壁に打ち当たる 「あぁ、こころ、、こころ」 俺の耳から顎にかけて滑る優しい手は微かに震えていて鼻と鼻が付く先の瞳がゆらゆら揺れて母の名前を呼ぶ 「父さん、、俺は母さんじゃないよ」 「父さんって呼ぶなっ!!」 バシンッと飛んできた平手打ちに頬が熱くなる 「可愛い可愛いこころ、、」 「父さんやめっ、、」 密着した広い胸を押し返そうと力を込めた時にはもう唇と唇は触れ合ってしまって手遅れだった 「ッ、、金っ、金なら十分渡してるだろっ」 「そんなんじゃない」 「じゃあ何だよ!」 暴れて下から抜け出そうとする俺の首に手を掛けて徐々に圧迫していく 「んんっ」 「はぁ、、はぁ、こころ」 口内をベロベロと舐められて父が何を求めてるのかを理解する 「父さん、、そんな事したって」 「意味無いって言うのか!?」 酸素の回らない脳にズルズルと力なく座り込んだ俺の上に馬乗りになってボロボロと涙を流す父はきっと分かっていても止められないのだと思った 「お前とヤるくらいなら舌噛みちぎって死んでやる」 「ハッ、そんな事させないね」 親父と近親相姦なんてシャレにならなくなる前に本気でそう思っていたのに父は徐にポケットからラムネみたいなものを取り出す 「口を開けろ」 そんな怪しい物誰が食うかと口を固く結んでいると痛い程鼻を強く摘まれて息の退路を絶たれた 「んん"ーーっ」 酸素を求めようとする身体が限界で思わず口を開けてしまうと3錠程放り込まれて口と鼻を大きな掌で覆われる 「こころ、こころ、やっと戻ってきてくれたんだね」 逃げられないように全体重をかけて裾から入ってきた手の平が気持ち悪くて胃の内容物が逆流する 「おおっと、吐いたら薬の効き目が無くなるからね」 嗚咽に気づいた父がすかさず口元を塞き止めてまた喉に返っていく (あぁ、俺が父さんをこんなことに、、) 身体に力が入らなくなって薄れていく意識に この人も母を心から愛していて俺と一緒で悲しみに明け暮れている、身体だけでも手に入るのならそうするだろうとそれは全て自分のせいなんだと理解する (流石親子だな、似た者同士、、って事は俺も化け物なのかな) 揺れる体はもう痛みも何も感じなくて揺りかごに入れられた赤子のように暗闇に吸い込まれていった 「んん"」 人より目覚めは良い方で逆に寝付きはとても悪い、睡眠を取るのは苦手だ (あいつヤりっぱなしかよ) ビービーと泣き喚いていた頃が懐かしい、乱暴に扱われる事に慣れてしまった身体は別の魂にすり替わったようにただ義務的に作業をこなす (こんな事になってからやっと父親を理解するなんてな) 皮肉な事にセフレとの関係がこの為の準備体操みたいな物だったとは良い教訓になった (ハッ、俺って薄情な奴なのかな) 今じゃ涙1つ零さずに風呂に入って中に出されたものを掻き出してすっかり可愛げが無くなってしまったと思う 「はぁー、アカぁ、俺って可笑しいよね」 脱衣所で俺が出てくるのを待っていたアカに手を伸ばしてその頭を撫でようとするとスルッとすり抜けて脱衣所から出て行ってしまった (、、、アカにも嫌われたかな) 何も感じなかった感情もそれだけは少し悲しく出て行った後ろ姿を追うようにその場を後にした 「ニャーン」 廊下を突き当たりまで行くとリビングに入らずに玄関先で俺を呼ぶように座って鳴き声を上げる黒猫にホッとして近づいていく 「ッ、、、」 帰ってきて大事に棚に乗せた姿から無惨な変貌を遂げたカメラに声が出なかった (父さんがやったのか) 部品が所々欠けてレンズもモニターもヒビが入り玄関のタイルからそっと大切に持ち上げてるとパラパラと音を立てる (電源入らない) 暗いままのモニターに反射した自分の顔は瞳が真っ黒に染って正に死んだ魚のようだった きっと何度も何度も地面に叩き付けられたカメラを抱き締める (ごめん、俺がこんな所に置いておいたから) きっと父からしたら母から貰ったこのカメラは目障りで堪らなかったのだろう、知っていて軽率に扱った自分の落ち度だ、部品を細かく拾い集めた俺は自分の部屋にその欠片を持ち帰りそっと引き出しの中に仕舞った

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