49 / 65

第49話

「で、流石に聞くけどなんであそこに居たの」 「、、、夜風に当たりたくて」 目を見て話すには居た堪れず下手くそな嘘に明後日の方向を向いた 「へぇー、夜風ねぇ」 粗方検討の付いている顔でまだ嘘をつくかと イラつかせている事は知っていたがそれをストレートに口に出すのはお互いを傷付けるだけだと分かっている 「この心配させた罰はれなちゃんの拳骨1つで手を打ちます」 「はぁ?それはせこいだろ」 出来る事ならば誰にも心配も迷惑も掛けたくない更には自分の事で大切な人が泣くのなんて自ら望むわけがなかった 「はは〜ん、心配するって分かってたわけだ」 痛い所を突いてくるなぁ、とちびちびお酒に口を付ける、あの時は勢いで飛び出てしまったが冷静になると周りが色々見えてくる 「でもさ、ちょっとだけマシになった顔してるし、明後日から毎朝迎えに来てやるなぁ」 「毎朝はちょっとうざいかも」 俺の顔を確認して口角を上げると付き合いたてのカップルかと思う語尾にハートマークが飛んだ台詞に分かりやすく顔を顰めた 「お前なぁ人が親切に、、、まぁいいか、あ"ぁ全員同クラになれたらいいんだけどなぁー」 「高確率で有り得ないと思うけど、でも誰かしら1人くらいは同じになるんじゃない?」 盛大なため息と何かを言いかけて伏し目がちに視線を落とす藍に俺は全員が同じクラスになった学校生活を想像して行き着く先は学級崩壊なのではないだろうかと今から心配になった 「でも1年のクラスは中学同じ奴が一緒にされるみたいだし俺らは一緒かもな」 「やっぱりまほろも俺と一緒がいーんだろー、素直になれよ〜」 俺の肩に腕を回して引き寄せるのはまさに酔っ払いのするだる絡みその物だ 「だから今日は二日酔いになるまで飲ませてやるー」 「だからって何だよ、そんな事言っていつも先に藍が潰れてるじゃん」 なんだと〜と言いながら襲いかかってきた藍とじゃれ合って数時間後には有言実行とばかりに机に突っ伏してたのは白い髪だった (俺案外酒強いんだよなぁ) 片手の缶をグビッと煽ってそのアルコールが強まったと感じる微炭酸に顔を顰める 「なぁー、俺が毎日一緒に寝てあげてもいいよ」 どういう風の吹き回しかくぐもった声で突然そんな事を言い出した藍にリアクションが遅れた 「藍と添い寝とかキツー」 「ハハッ、だよな、じゃーもう勝手に遠くに行こうとすんなよ」 乾いた笑いが部屋に響く、初めから変な意味合いで言ったのではないと分かってはいたけれど馬鹿にしたように返した言葉はしっかりと重い言葉になって返ってきた 「、、、うん、ごめん」 「次同じ事しようもんならうざくなる程一緒に居てやるから」 語尾に掛けて小さくなった声がテレビから流れてくるくだらないバラエティー番組に呑み込まれやがて静かに寝息を立て始めた (お前はほんと優しいよな、、、) 藍なりの不器用な慰めと心配、これ程までに他人思いで優しい幼馴染を持っていい資格なんか無いはずなのに、胸が一杯で苦しい (せめてソファで寝ればいいのに) そこまで考えると頭にポンッと良い事を思いついて俺は急いで自室に駆け込んだ 「桜!」 バタンッと扉が勢い良く開いて壁にぶつかる音がする 「そんなに慌てなくても居るって〜」 その存在にこんなにも心を掻き乱されていると言うのに当の本人は呑気にベッドで小説を読んでいた 「そんなのまたいつ消えるか分からないじゃん」 一分一秒すら惜しいのにと身体が訴えるような前のめり具合に桜は困った顔でベッドから降りる 「酔ってる?結構飲んだでしょぉ」 「なんで」 「赤くなってる、藍は〜?」 目の前まで来て俺の顔や首筋に這わすように動かす指先を目で追う 「そうだ!藍が机で寝ちゃったから動かして欲しくて、桜できる?」 「うーん、取り敢えずやってみようかぁ」 そう言ってスタスタと扉から出ていく背中に駆け足で付いて行く 「おぉ、やっぱ何か出来るようになってる〜」 ふわりと持ち上がった身体は無事ソファに着地して桜は何だかキャッキャと子供みたいに喜んでリビングの物を浮かせて遊んでいた 「前は出来なかったの?」 「そうだよ〜、2ヶ月くらいずっとただの透明人間みたいな感じだったのにまほろ浮かせてから何か力がずっと溢れてる感じなのかなぁ?」 かなぁ?と聞かれても俺には何も分からないので自室から持ってきた毛布を起こさないようにソファで眠る藍に掛けてあげて俺達は部屋に戻る 「ていうか2ヶ月って、、屋上でずっと傍に居たとか言ってなかった?」 「言ったねぇ」 ニコニコしている目の前の人物と違って異常な速度で思い起こす回想シーンにダラダラと嫌な汗をかいて顔からサッと血の気が引いていく 「、、じゃあ全部見てたって事ですか」 「見てたねぇ」 「まじ?」 「まじ」 二度あることは三度あるとはよく言ったものだ口角だけ上げるお怒りスマイルに俺の酔いも醒め、余りの怖さに敬語になってしまう 「どこら辺から?」 「俺の誕生日ちょい前くらいかなぁ〜」 悪足掻きだと分かっていても念の為に確認を取る (うわぁ絶対全部見てたやつじゃんん〜) 「なーんかどっかの誰かさんは勝手に自暴自棄になって女とヤろうとしても勃たなくて男とヤりまくっ、、、」 「もういい!もーいいからっ!分かったよ!」 口元や身体を押し返しても意味が無いので声量で押し切るように言葉を断ち切る、このまま話をさせていたら1から100まで詳細に語り出しそうで穴があったら入りたかった 「てか覗きとか趣味悪い、、」 「俺は寝盗られも覗きも趣味にありませんけどぉ?」 「じゃあ何で、、」 「んー、、戒め?てきなぁ」 暫く真剣に考えた後ポツリと呟かれた言葉を復唱するように尋ねても桜は教えてくれなかった 「でも、、、」 「でもー?言ってみな?」 責めるような視線に思わず言い訳が口から零れそうになると小さい子を叱るみたいな威圧感のある声に先を促されて寧ろ上手な言い訳が思いつかない 「桜が悪い」 「うんうん、それで〜?」 「、、、突然事故って消えるし」 飛び出しは威勢のよかった言葉達も最後は弱々しく消え入りそうな声になって伏せた瞼を横に逸らした 「眞秀、目見て」 伸びてきた手は顎に触れないのに桜の声と蘇る感覚にビクッと顔を上げてその瞳とかち合う 「ほら、ちゃんと言い訳して」 「、、、ッ寂しかったからに決まってんだろ!独りはもうやだよ、、桜」 蛇に睨まれた蛙は逃げる事も出来ず全てを見透かした目で尚自分の口から言わせたがる 自分は尋ねるばかりなのに、カッとなった俺は逆ギレするように捲し立てた 「桜、ごめん、、ごめんなさい、もう俺の事呆れて嫌いになった、、よね、、」 それでもやっぱり桜が悪い訳じゃない事も理解してて勝手に振り回されて八つ当たりしてガキみたいな自分が嫌になるのにそれでも好きの気持ちは変わらずそこにあって、ポロポロ零れる涙はすぐ泣く面倒臭い奴だと思われる前に止めたいのに壊れた蛇口のように溢れてしまう 「こっち向いて眞秀」 床に両手を付いて泣き崩れる俺は桜の胸に顔を埋めているのに吸収される事のない涙は垂直に床に滴り落ちる 「嫌いになれるわけ無いよ、こうやって泣いて縋るお前が愛おしくて仕方ないんだよ俺、どうしようも無い奴だろ、わざと意地悪してごめん」 悪魔はやっぱり悪魔のままで全てを捧げた俺にはこいつ意外何もいらなくて不安でも逃げたくても離れられるわけが無かった 「どれだけ傷付いても俺の所に返ってくればそれだけでいいよ」 「うん」 甘い誘惑は心を鎖で雁字搦めにするように俺の心臓は桜に掌握されている 「でも怒ってるのはほんとだから今はそういう事にしておいてあげる」 「うん」 飼い主のお許しの言葉に張り詰めていたものが緩んでアルコールも加わると一気に眠気が押し寄せた 「眠いんでしょまほろ〜」 「ううん、まだ、、」 まだ眠りたくない、まだ桜と一緒にいたいそう思えば思うほど重たい瞼は意思と反して閉じていく 「いいよ寝な、起きるまでずっと傍にいるから」 小さなリップ音とおやすみと言う言葉を皮切りに心地好い眠りに身を預けた

ともだちにシェアしよう!