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第54話
「、ろ、、まほろ」
「んん"〜、、、」
他人の声で起こされる目覚めが嫌いだ、何故ならやっと眠りにつけたつかの間の睡眠を邪魔されるから、真っ暗で音のしない部屋で1人じゃないと安眠できない、アラームならば自分でセットして分まだ許せる、でもこいつの声は特別
「おはよ」
「、、、さくら?」
「ほんとはまだ寝かせてあげたいけど風呂入りたいでしょ?」
優しい声を聞けばまだ夢の中だとふわふわした気持ちになれる
「お風呂沸かしたからおいで」
「うん」
重力を無視してふわふわ浮いた身体が気付けば温かいお湯に包まれて本当はまだ夢の中何じゃないかと勘違いする
「フフッ、ぽわぽわしてて可愛い」
チャポンと揺れる水音と浴室に反響する声に徐々に意識が覚醒していく
「今何時、、」
「7時半過ぎ〜洗ってあげたいけど自分で出来そう?」
「できる」
俺の事を何歳だと思っているのか目を完全に覚ますために両手でお湯を掬って顔を濡らした
「身体とか痛めてない〜?」
「大丈夫」
「よかったぁ」
湯船の縁に腕を置いて顔を預けると浴室にしゃがんでいた桜が腕を伸ばして俺の頭を撫でる
「どしたぁ?」
「なんでもない」
顔を見てると昨日の事を思い出して恥ずかしくなり顔を伏せたら心配したように覗き込んでくるのでプイッと顔を背けた
「身体洗うから外で待ってて」
「はいはい、何かあったら呼んでね〜」
自分が言い出した事なのにパッと立ち上がって出ていった後ろ姿が少し寂しい、ザバッと湯船から這い出してシャワーを頭から被る
(何かケツじんじんする)
昨日の影響か後ろだけじゃなく胸部にも違和感を感じるが不自由する程でもなく恥ずかしさを振り払うように髪の毛をガシャガシャと洗った
「っていうか制服ないじゃん!」
「俺の着てけば?」
「鞄は?」
「初日だし許されるんじゃない〜?」
風呂から出ると着替えをするのに1つの事に気付いた、制服が無いのだ
「どう考えても初日だから許されないだろ」
「鞄持って式出る訳じゃないしだいじょぶっしょ〜」
「、、、上履きは?」
「、、、兄弟がいる〜って事で!」
明らかに間のあった回答に絶対確信犯のそいつは明後日の方向を向きながら俺の髪の毛を乾かしている
「まぁ、そんな皆見てないって〜」
「初日から呼び出しとか俺やだ」
何故こんなに揉めてるかというと制服はまだしも鞄や上履きには学年カラーがあって俺と桜のは色が違うからだ
「呼び出しなら君の友達のほうが掛かりそうだけどねぇ」
「確かに」
常に会ってるから忘れていたが色問題なら頭髪の主張が強いやつが何人かいた、そう思えば俺の存在感も薄まるだろう
「ほら、髪の毛も乾いたし着替えなぁ」
「はーい」
立ち上がってさっきまで寝ていた部屋に戻るとぐちゃぐちゃだったシーツなんかが綺麗になっていた
(そういえば洗濯機回ってた、片付けてくれたのか)
俺が風呂に入ってる間にやってくれたんだと思うと胸がキューっと苦しくなって顔に熱が集まる
「なんか桜のブレザーデカくない?」
「肩幅じゃない?」
「馬鹿にしてる?」
「い〜やぁ?」
大して体格は変わらなかったはずなのに上着の着せられてる感が出てしまう、やっぱり全ての元凶は撫で肩なのか?と姿見を睨みつけた
「ネクタイってどーやんの?」
「貸してごらんなさぁい」
学ラン生活を送った俺にはネクタイと縁がなく結び方が分からないので素直に差し出すと空中でみるみると形を成しいく布切れに感動する
「流石!」
「惚れた?」
「めっちゃ!」
「こんなんで好かれるなら毎日結ぶ〜」
テンポのいい軽口に2人して笑い出して顔を見合う
「ブレザーも似合ってるね」
「ん」
「入学おめでとう、まほろ」
桜と通いたくて目指した志望校、そこに桜はいなかったけれど、こうして一緒にいられるのならそれもいいかな何てあんなに苦しんでいたのに俺は単純だ
「カメラ持って帰りたいけど、どうしよう、、」
「いいじゃん、持っていきなよ〜」
「だって学校なんかに持ってって失くしたら俺死ねる、、」
1日経ってもその興奮は覚めやらず朝日を浴びるカメラも一段と輝いて俺の目に映った
「すぐ死ぬとか言わなぁい」
「だって!また壊れるかもしれないよ」
「大丈夫、あのカメラだってちゃんと直すよ」
その自信が何処から来るのか分からないけれど桜の大丈夫には信じてしまう力がある
「タオルに包んで入れる、、」
悩んだ末に行き着いた考えをケタケタ笑いながらフェイスタオルを色々持ってきてくれて俺は厳重に包むとそっと赤い鞄に仕舞った
ピンポーンッ
「はーいっ!」
8時過ぎに呼び鈴が鳴ると待ってましたと言わんばかりに玄関に飛び出てその存在を迎える
「うぉっ、ビビったぁ、何だ元気じゃん」
「元気だよ?」
「桜くんちにいるって言うからまたメソメソしてんのかと思った」
「1回もメソメソはしてねぇよ」
初めて見る制服姿で登場した藍の言い掛かりを訂正して家に招く
「ほい」
「神〜」
こっちに来がてら朝食調達を頼んで、渡されたコンビニ袋から菓子パンを取り出して封を切る
「てかお前それ自分の?」
「いーや、桜の」
「だと思った」
一緒に買ってきたのか紙パックのジュースを啜って制服を指差すので答えると眉間に皺を寄せてマジかお前という顔をされた
「鞄それでいくの?」
「まー、これしかないからね」
「強者だなお前」
「藍とたかしにだけは言われたかないねー」
上げた名前に察したのか更に顔を顰めて煙草に火を付ける
「まほろさんも襟足がお赤いですけどねぇー」
「全頭の奴らに比べたら可愛いもんですぅ」
立ち上がって洗面台に向かうとコップに並んだ歯ブラシを1本取って歯磨き粉を乗せた
「てか普通にギリギリじゃね?」
「まにあうでひょー」
何とか言葉になってる発言をしてシャカシャカ動かしてた手を止めると口を濯ぐ
「煙草1本吸ってい?」
「いーけど、遅刻したらまほろのせいなー」
カシッカシッと石を削る音と葉っぱが燃えて煙が立ちこめる、藍はこんな事を言っているがこいつのせいで俺は何度も授業に遅刻した事があるのでお相子だ
「あれ、戻したんだ」
「んー、やっぱ赤マルかなってさ」
「へぇ、いいじゃん」
すぐに気付かれた目敏さに苦笑いしながら返すとフワッと笑って肯定されたので少し驚いて固まってしまう
「ってマジで遅刻するから!」
「えー飛ばしたら間に合うでしょー?」
「お前は俺を何だと思ってるわけ?」
結局はそれでも俺のわがままに答えてくれるお陰で入学式は無事に間に合い結局俺らは初日から呼び出される事となった
「エルまで呼び出されてんのはマジうけるとばっちりで」
「笑い事じゃないんだけど」
皆してケラケラ笑っているが1人嫌そうに顔を歪ませてそれが更に笑いをヒートアップさせる
「まっ、1人呼び出しに引っかからなかったやつがいるけどー」
「俺ゆーとーせーなんで」
「何処がだよ、髪暗いだけでどーせいつかボロでんだから後で覚えとけよ」
ただの八つ当たりに何をどう覚えとけというんだと藍に冷めた目を向けた
「自称ゆーとーせーさんと同じクラスで良かったぁ、平和な日常が送れそう」
「まほ〜それは誰を味方に付けようとしてるの〜?」
たかしの鋭いツッコミに高田が深く同意の相槌を打つ
「それにしても見事にクラス別れたなー」
「藍とたかしとかエルくん大変そ」
「子守りだな」
俺と高田の2組コンビが哀れな目でエルくん心配オーラを出す
「まほろ寂しいからって妬むなよ、、」
「妬んでねーよ」
「俺、2組に移籍しようかな」
「4組に疲弊したらいつでもおいで」
だる絡みしてくる藍を引き剥がそうとする俺、
既に移籍を検討するエルくんに救済措置を提案する高田、俺達の高校生活は何だかんだ楽しく始まった
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