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第57話

「はっ、、はっ、、」 2人の荒い呼吸だけが個室に響く 走って逃げ込んだ新しい公園のトイレに絶賛立てこもり中だ 「レイラさん、、はぁっ、、待たせてごめんね」 「何言ってるのまほちゃん、、」 「怖かったでしょ」 大きな瞳から零れる涙を拭うと白い頬が赤い液体で汚れてしまって意味がなかった 「ごめん、ごめんなさい、私のせいで」 「レイラさんのせいじゃないよ」 「でもっ!こんな怪我っ」 「フフッ、平気だって、傷は男の勲章だよ?」 早い呼吸に乾燥した喉が痛んで話してる途中に噎せてしまって格好がつかないなと思いながら震える肩を抱く 「まほちゃん、早く病院行かないと」 「大丈夫だってこれくらい」 押さえた傷口がドクドクと脈打って温かい液体が冷えていく、俺はスマホをポケットから取り出すと画面をタップして通話ボタンを押した 「はっ、、はっ、、もしもし?」 『全員呼び出すなんてどうした?』 電話口のレスポンスの速さにホッと力が抜ける、もしもこれが藍ならば悪態の1つや2つつかれてるだろう 「高田もう街?」 『いるよ、青葉ら辺たかしも一緒だけど、お前なんか呼吸浅くね?』 訳の分からない言葉一つですぐ行動に起こしてくれるつくづく良い友達だと浸りたい所だがそんな場合でもないので最後の質問へのアンサーは来れば分かるそれだけだ 「わりーんだけどさ交番寄って青葉の突き当たりの公園に不審者いるって言ってきてくんね?」 『りょーかい、で?』 要件はそれだけか、と鋭い反応が帰ってきて笑が零れてしまう 「その更に奥にもう1個ちっちゃい公園あんだろ、そこのトイレ来て欲しいんだよ」 『分かったよ、何があったか知らねーけどヤバい状況なら大人しくしてろよ』 更に希望を重ねると二つ返事で心配もついてきて話がわかるやつを選択した自分を褒め讃えたい 「お前らバイクなら大丈夫だと思うけど一応変な奴歩いてっかもしれねぇから気をつけろよ」 『変な奴って、、はぁ、それも後でじっくり聞くからちょっと待ってろ』 テロンッと軽快な音を立てて通話画途切れ一旦これで一段落したと息を吐いた時息が詰まるような痛みを感じて背中を丸めた 「まほちゃん、、ほんとに大丈夫?」 「うん、もうすぐ高田がくるからレイラさんは一緒に帰るんだよ」 まだ小刻みに震えが止まらない手を取ると季節は春だと言うのに氷のように冷えていて俺は自分の体温を渡すように握り締める 「まほちゃんは一緒に帰らないの、、?」 「俺は藍と合流するよ」 捨てられた子犬みたいな目で心配そうに見詰めてくる顔を見るとやっぱり一緒には居られないと思った 「だめだよ、一緒に病院に、、」 「レイラさん、、たかしが警察に事情話して帰れないだろうから俺は藍のケツに乗ってくよ」 じゃあ4人で一緒にと言いかけるが俺は緩く首を左右に振る 「高田はあー見えて良い奴だよ、大丈夫、すぐ帰るから」 「わかった、、、」 小さい子に言い聞かせるように話し掛けるとやっと納得したのか顔を俯かせてしまった、俺はその頭を優しく撫でた 「じゃ、少しだけここで待ってて」 返事は返ってこなかったがこれ以上この場に留まるのも限界だったので腹を抑えながらトイレを後にする (やっべぇ、いってぇめっちゃズキズキする) 痛すぎるのと映画さながらのアクシデントにもはや笑えてきて、もしもすれ違う人がいたら完全に俺が不審者だと思われるだろうと思った 『まほろ藍呼ぶんじゃないの』 「怒ってる?呼ぶよ」 人の目なんて気にできる状況じゃなく何だか暗い声色を出す桜の顔色を窺う 『、、、怒ってない、何で歩いてんの』 「それ怒ってるやつじゃん」 余りの痛さに血の気が引いてきたがワーワーと言い合っている内は痛みが軽減された気がする (レイラさん高田と会えたかな、、、) 桜が何に怒ってるのかも分かっていたけれどきっと俺があそこに居てしまうと彼女は心の傷を見ない振りするだろうと思った (あいつなら適任だろ、、) そんな事も考慮して普段から皆に慕われるお兄ちゃん的なたまに親父臭い事をいう頼れる奴を呼んだ、少しでも落ち着けるならそれでいい、こんな怪我人と一緒じゃ心も休まる事を知らないだろう、女の子は笑顔が1番なんて綺麗事思わないけれどレイラさんには笑っていて欲しかった 「やっばい、まじやばい」 「やばいやばい言ってないで早く脱いで」 「いやーもうここまでくるとやばいしか言えない」 桜の家に到着して倒れ込むように玄関に崩れ落ちる救急箱を何処からともなく浮かせてきてその間に俺は藍に電話を掛けた 「あ、もしもし?」 『もしもしじゃねーよ!何してんだよ!』 開口一番怒鳴り声から始まり俺の瀕死のHPが更に削られた気がする 「あのさー桜んちにいるからぁ、後頼むね」 『お前なっ!人の話っ』 段々と喋ってる事さえ苦しく感じてきてこれ以上の会話には付き合えそうになく藍なら何とかしてくれるだろうと丸投げして強制的に通話を終えた (やばい、全部終わったらまじでクラクラしてきた) 「まほろ、、」 「何?」 「ごめんね」 「なんで桜が謝るの」 やはり先程までのハイテンションはアドレナリンのお陰だったのか1度ぐったりすると会話も単語で続くようになった、お腹にクルクルと勝手に包帯が巻かれていくもお情けとばかりでじわじわ赤く染まっていく 「俺、、、」 「桜と、お揃いだね」 痺れてよく分からなくってきた脇腹に手を添えて薄目で桜を見上げる 「あの、、男、吹き飛ばしたの桜でしょ、、」 「ごめん、、、」 「だからなんで謝るの、ありがとう」 目を大きく開けたくても苦痛で閉じていく、歪んだ顔は泣いているのかキラキラと光の粒みたいなものが発光して綺麗だった 「泣かないで桜」 「眞秀、、待ってて、必ず迎えに行くから」 前にもこんなセリフを桜に言ってもらったな、なんて幸せな気持ちで額にふわりと何かが触れた感触と共に俺は意識を手放す それが最後のおやすみのキスで巻き掛けの包帯は冷たい床を転がったままだった ガチャンッ 「おーい、来たぞ、、って」 鍵のかかっていない扉を開けて玄関に踏み入るとその惨状に目を見開いた 「はぁ?どうなってんだよこれ、あいつらから連絡はきてたけど」 寝ているのかよく分からない壁に座り込んだ人物の前にしゃがみ込む 「なんだよこれ、、」 よく観察すると腹に巻かれた包帯は中途半端な出来でそこら中に救急箱の中身が飛び出して散乱している 「救急車呼ぶか、、、」 血の滲む包帯に只事じゃないと察知してスマホをタップして初めて119という数字に掛ける事となった 「包丁持ったやつとか言ってたから刺されたのかこれ、、、ほんとに無茶しすぎだろ」 大分ショッキングな事態に自分でもよくここまで冷静でいられるな、と感心して遠くから聞こえてくるサイレンの音を待った

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