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第60話

「あ"ー、まじ休み明けの学校って何でこんなにだるいんだろーなー」 「お前のクラスあっちだけど?」 「へいへい、そんじゃーまた後でなー」 暑い日差しが照りつける中、ただでさえ夏休み気分が抜けずバテている生徒達は中学とは違い夏休み前とあまり変わらない光景が広がっていた (全校集会か、、、) 「おはよ、まほろ」 席に着いて鞄を横に掛けると前方から歩いていた高田に声を掛けられた 「おはよー」 「何、疲れてんの?昨日はバイト休みだったじゃん」 普段と変わらない調子で交わした挨拶も常時明るいとは言い難いのにも関わらず目敏く尋ねてくる高田はやっぱり凄い 「そんな事ないよ、夏バテしてるだけ」 「そお、お前ヒョロガリだもんな、行きは藍のケツ乗ってんだろ?」 「きょーはチャリだけどね」 ここ最近暑さにやられて食欲が出ない、もっぱら主食が枝豆とそーめんになっている 「うっわ、朝からニケツしてくるとか逆に藍が元気すぎるだろ、お前の気力奪われてんじゃね」 「それ、たまに俺も思う」 冷えた机に突っ伏してカタコト呟く声もガラガラと音を立てて入ってきた人物に教室が静まり各自が席に着く事で途切れた 「はーい、そんじゃ今日は〜」 教卓に立ち始まる夏休み明けお決まりの言葉達を右から左へ垂れ流し窓の外を占める入道雲を眺める (あの中に某島があったりすんのかなぁ) そんな訳はないけれど、もしもあるとするならばキツネリスとやらに会ってみたいものだ、そしてあばよくばその身体をモフモフさせて欲しい 「よーし、じゃ、各自体育館で列に並ぶよーに」 担任の言葉に皆が一斉に解散していく、廊下は他のクラスメイトと談笑する声や別の学年が移動する喧騒に包まれ静かだった校舎が生き返るみたいだ 「いこーまほろ」 「あぁ」 一々鍵を締めなければいけない教室は学級委員に迷惑をかけまいと速やかに居なくなる生徒に釣られるようにして席を立つ 「藍課題やったんかな」 「やってないだろ、あいつは」 「ハハッ、確かに」 人波に乗って体育館に向かう道中、流れるように靴を履き替え後方に並ぶ1年の列に向かう 「終わったら皆でどっか行こーぜ」 「うん」 この全校集会が終われば課題やらなんやらを集めて午前中で学校は終わる、そう思えば退屈な時間も乗り切れると各々の定位置についた 「ふぃー、校長話長ぇー」 「どこの校長も話が長いのって何でなんだろ」 「それな」 空調が効いてるからといって体調不良が絶たない集会なんて誰も聞いていないのだから簡潔に纏めて欲しいと皆思っているだろう 「っうぁ」 「おーすっ高田」 背中に衝撃を受け重心が後ろに傾いていく、視界の端に白いツンツンしたものが見えて耳元で上がった声にホッと肩の力を抜いた 「藍、、辞めて」 「釣れねーなー」 ケラケラと楽しそうな笑い声が響いてスっと身体が離れると相変わらずの仏頂面で藍の横に立つ茶髪が目に止まった 「まじお前元気だな」 「お前らがジジ臭いだけだろ、男子高校生だぞ俺ら」 「確かに藍は異常」 高田の呆れた目に同意するような哀れな目を向けるエルくんの総攻撃を受けている 「助けてまほろー、俺虐められてるー」 「先制攻撃仕掛けたのお前だけどな」 胸に縋って泣き真似をする丸い頭を撫でて無謀な戦に負けた男を慰める 「ほら、授業始まるから行くよ」 「うわぁーん」 首根っこを捕まれ教室に引き摺られて行く姿はまるで飼い主と犬のようで俺と高田は涙が滲むほどゲラゲラと腹を抱えて笑う 「あ、まほろ」 「ん?」 「良かったね」 教室に戻る前に立ち止まって振り返りその綺麗な顔をフワッと綻ばせて一言告げると颯爽と去って行ってしまった 「何がだよ」 「ま、何か上手いことやってるみたいだし良かったじゃん」 「手網握られてるって感じだけどな」 思い出してしまうと笑いが止まらなくなり俺達は酸欠になる前に自分達の教室に戻る (いや、普通に気になる、何だったの、良かったねって何が!?) エルくんがあんな風に笑うなんてレア中のレアであんなのはSSRだ、どうしても気になるのは最早仕方の無い事だと言える (後で聞けばいっか、、) どうせ学校が終わればまた皆で集まるんだ、聞くタイミングならいつでもあるだろうと俺は立てていた肘が徐々に崩れて行きもう一度冷たい机に頬を預けた ガラガラッ 「あー、課題集める前に、、」 一瞬静まった空気に見なくても担任が入ってきたのだろうと確信する、そのままお決まりのように話が始まっていくと思っていたのも束の間でクラスメイト達がザワザワと色めき立つ 「見て分かる通り彼が今日から新しくこのクラスに加わります」 一段と盛り上がる教室内、こんな時期に転入なんてどんな生徒だろうと重たい頭を持ち上げる 「彼は少しの間休学しててね、元々このクラスなんだよ、勝手は分かるから安心しろー、じゃ、自己紹介いいかな?」 俺の目にその色が映った瞬間から誰の声も喧騒も届いていなかった、ジッとその顔だけを見つめて薄い唇が微かに開く所まで一語一句聞き逃さないと全細胞を集中させていた 「赤 桜です」 ジンジン指先から身体全体が痺れて微塵も動かせない代わりに心臓だけが口から出てしまうと思う程激しく打って苦しくなる 「おっけー、後ろの空いてる席使っちゃって」 歩く度サラサラ揺れる髪の毛は綺麗に赤く染ってあの頃を思い出す、鞄も制服も上履きも俺が使っていたものだろうか、彼の足音だけが鼓膜に届いて目が離せない 「ッ、、、」 目の前まで来た桜が机をなぞるように俺の手を通過して驚いて顔を上げると片側の口角を少しだけ釣り上げたしたり顔が俺を見下ろしていた (あいつっ、、、) 魔法の解けた身体がバッと後ろを振り返って去っていく後ろ姿を睨みつける、それからはもう担任の話何か上の空で次の休みがきたらどう問い詰めてやろうかと作戦会議に変更された 「赤くんってどこ中なの〜?」 「桜くんって呼んでいい〜?」 「クラスRINE入ろうよ〜!」 50分という長い時間が過ぎやっとこさありつけた休み時間、俺が行く前に取り囲まれた転入生あるあるに長いため息が零れる 「いいの、あれ」 「しょうがないだろ」 「にしても、まさかうちのクラスにくるとはねー」 びっくりびっくりー、と大して驚いても無さそうなリアクションを取っているが驚きたいのはこっちである 「うわぁ、何か廊下の外にも人来てね?」 「はぁ?」 「てか、桜くん病み上がりでしょ、大丈夫なの?」 確かに他クラスの生徒が廊下に塊うちのクラスを覗いている気もする、桜の方を見ても人集りに囲まれて顔色さえ窺えない 「このままだと放課後まで占領されちゃうかもねぇ」 ニヤニヤとこんな事を言っているが本当のところは焚き付けるように背中を押してくれてるんだと分かっていた、俺は覚悟を決めて席を立ち人混みを分け入って赤いブレスレットが輝く手首をやっとの事で握りしめた

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