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第61話

「おっ前なぁ〜!」 「連れ去るなんてやるねぇ、まほちゃ〜んかっこいい〜」 惚れそう〜いや、もう惚れてたっけ〜なんて阿呆な事ばかり後ろで抜かしている人物の手を絶対離さないとばかりに強く握りしめていた 「何で教えてくれなかったの」 「サプライズ?ど〜?嬉し?」 大人しく引き摺られて人気の無い踊り場まで辿り着くと掴んだ手を解いて振り返り詰め寄るように睨み付けて迫る 「う、嬉しいけどっ!そーじゃなくて!」 「嬉しぃ〜んじゃん」 最近ベッドの上に横たわる桜しか見ていなかったからか何だかこうして面と向かって制服に袖を通している所を見ると大きく感じる 「はぁ、もういいよ、、桜ってそういう所あるよな」 この先どうなるか何て桜の人生で俺が口出しする事じゃないと分かっていても心配なものは心配でそもそも目の前で元気そうに生活しているだけで俺からしたら感動ものなのだ 「そんな怒んないでよ〜ごめんね、だってまほろにかっこ悪い所とか見せたくないしさぁ〜」 「格好付けなくたって桜はいつもかっこいいよ」 いつも1歩先で俺の喜ぶ事を考えている、横に並んでいるかと思えば見えるのはいつも後ろ姿ばかり、子供みたいな俺が悪いのかもしれないがやっぱり等身大で対等でありたいと願ってしまう 「何処でそんな口説き文句覚えてきたの〜っ」 「ぉわっ」 飛び付くように重なったその身体はしっかりと重さを持っていて温かくて甘い香りがする 「体調は大丈夫なの」 「バッチリバッチリ〜!何ならセックスも出来る〜」 間近にある顔を覗いて顔色を確認すると少しだけ悪いような気がしてそれでも軽口を叩くのは癖みたいなもんなんだろうか 「ばぁか」 「まぁ、でもあの人混みは流石にキツかったから助かったぁ〜」 「人混み苦手だもんな」 普段からヘラヘラ笑いを絶やさず卒無く何でもこなしてしまうこいつが意外と大人数が嫌いな事を俺は知っている 「嫉妬した?俺が囲まれて」 ニコッと上がった口角も細められた目も期待するような笑顔を保って覗いてくるのが俺の反骨精神に火を付けていつもなら素直になれない 「嫉妬した」 たまには大人しくこいつの話に乗って驚いた顔を見るのも悪くないかと恥ずかしさが勝つ前に勢いで口から言葉を吐き出した 「、、はぁ?可愛いんですけど」 ジッと見つめ合う沈黙が訪れてじわじわと顔に熱が集まる、不意を突かれたという顔から口角が徐々に持ち上がり俺は耐えきれず胸元に顔を埋めた 「くるしっ、、くるしぃ桜」 「はぁ〜これから毎日一緒だね」 身体を抱きしめる腕に力が篭って息苦しいけど安心する 「ねぇ、キスしていい?」 「そんなの許可取ったことない癖に」 「フハッ、真っ赤」 俺の顔にサラサラ触れる赤い毛先がカーテンのように顔を覆って二人だけの世界みたいだ、吹き出すように笑った顔も鳴りを潜めて溶けだしそうに甘い瞳が近付くにつれそっと目蓋を閉じた 「3年も一緒なら留年して良かったかも〜」 「何言ってんだよ、てか桜って2組だったんだ」 「そだよ〜」 チュッと軽いリップ音を立てて離れていった顔を名残惜しく見つつも聞きたかったことを質問する 〜♪ 「、、、予鈴」 「あと2限長ァ〜」 次の授業を知らせるチャイムを人生1煩わしく思った瞬間かもしれない 「ん?」 階段を降りて行こうとする後ろ姿を無意識に掴んで引き留めると振り返った桜が首を傾げて優しく微笑んだ 「もう1回、、もう1回だけキスして」 ここが学校な事も分かってはいるけれど病院というのは案外接触出来ないもので砂漠に1滴でも水が落ちればもっともっと、と求めてしまう 「これでい?」 顎を掬った人差し指にお互いの伏せた瞼から覗く視線が絡み合ってそれだけで気分はふわふわと昂揚していく 「フフッ、まほろさ〜ん?授業始まるんですけど〜」 離れる身体を引き寄せるように抱き締めてクスクスと楽しそうに身体を揺らしながらも俺の髪の毛を撫でていく指先 「あと少し」 「初日から遅刻ってど〜なの」 「入学式遅刻よりマシだろ」 「確かに〜」 つい最近あった俺達だけにしか分からない事、それを桜も思い出しているのだろうか、ここまでの長かった道のりも確かな存在が傍にいれば昇華されていく気がする 「んじゃ、行きますかぁ〜」 「学校終わったらさ、、一緒に帰ろ」 「当たり前でしょ」 そう言って揺れる赤い髪の毛に追い付くように駆け出して俺達は遅刻した授業に堂々と乗り込んだ 「いやぁ、まじでうちの学年に桜くんが復活するとわなぁー」 放課後授業が終わると共に囲まれた桜を救出してMでお馴染みのバーガーショップで昼食を取っている 「益々1年の治安が悪くなったね」 「「お前が言うな」」 エルくんの言葉にハモった桜と藍が顔を見合わせて被んなよとかワーワー言い合いをしているがこいつらはいつの間にこんなに仲良くなったのだろうか 「でも丸く収まって良かったなー」 「?」 フライドポテトを口に放り込みながら主語なく呟かれても皆頭にハテナを浮かべている 「だって離れてるとまたピーピー泣くだろ、そいつがー」 「は?俺?」 「他に誰がいんだよー」 ポテトの先端が俺に向いてから呆れた顔で口元に運ばれていく 「確かに、寂しいとすぐフラフラするから」 「エルくんまでそーやってっ」 「まほろはほんと問題児ちゃんだよねぇ〜、そんな所も可愛いんだけどさぁ」 横から伸びてきた手が頭をワシャワシャ撫でるので恐る恐る横を向くと暗い目をした笑顔を浮かべて背筋に汗が流れる気がした 「けど、そんな事はもぉさせないから安心して〜?」 「こっわー、人を殺す目してるよ、あれ」 「重いね、まほろも大概だけどこれはこれでバランス取れてるのかもね」 ズズズッとストローを啜って冷めた視線が突き刺さるがどうかこの状況だけでも助けて欲しい 「そぉいえばさぁ〜、あの時の事まだ完全に許したわけじゃないんだよねぇ〜、勿論覚えてるよねぇ?」 「っ、、覚えてる!覚えてるから!」 「ほんとに〜?」 「ほんとだってば!何で近付いてくんの!?ここ外だからぁ」 ワーキャーと押し問答を繰り広げ、もはや面白がってる桜を押し返すも案外力強くて引き返さない、そんな2人のじゃれ合いを見ながら対面の席では藍とエルくんが気にした風もなく談笑している 「今日はとっても愉快だね、明日からはも~っとバイオレンスな日常になるのかな?ねっ藍太郎」 「突然のネズミアニメのエンディングやめろ、しかも目が死んでるし棒読みだし幼児が見たら泣くぞ」 「ハムスターの事ネズミって言うタイプ?女の子に嫌われるよ」 幼児が泣くとか女の子に嫌われるとか耳に入ってくる単語に何の話をしてるんだと言いたい所だが今は目の前の悪魔と戦うのが先決だ、新しく始まった高校生活初日からこんな事で持つのかと心配しつつ動き出した時の流れはキラキラと輝いていた

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