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第4話

翠と鷹生はココアを飲みながらマスターにバイトの話を詳しく聞いていた。 マスターは近くにあった木製の椅子を寄せまたがって二人にそれぞれ指を指しながら言う。 先に指されたのは鷹生だった。 「俺の事はマスターでいいぜ、みんなそう呼んでる。んで、名前は?」 「た、鷹生です。」 「鷹生な、お前はさっきみたいに習ったことあるやつだけでもいいから弾いてくれ。足らない技術があれば俺がちょっとなら教えてやれる。」 「わ、分かりました!」 「良い返事だ。で、お前は…」 「翠です。」 「翠か、お前はうちのカウンターに入って皿洗いをして貰う。うちは丁度夕方の六時に喫茶店からバーに切り替わる、喫茶店を経営してる内は珈琲の淹れ方でも教えてやるよ。」 「わかりました。」 「よし!」 パンッとマスターが手を叩くとカウンター横の扉を開け、二人に手招きする。 片方の扉を開け電気を付けると小さな部屋が露になるとそこは物置のように使われているようで、ロッカーや段ボールが積まれている。 マスターは段ボールの山の中の一つを取りだし、中から布を引っ張り出す。 「おーこれこれ、さすがに学ランのまま働かせるわけにはいかないからな。だからこの蝶ネクタイと…鷹生にはベスト、翠にはエプロンだな。ワイシャツとズボンは学ランの使って、これを着てくれな。今日からここがお前らの更衣室だ、ロッカーはこの二つを使ってくれて構わない。あと、うちの店は定休日が火曜と水曜。祝日は基本開いてる。」 そう言って二人にそれぞれ蝶ネクタイと制服を渡すと、翠と鷹生は顔を見合わせる。 一度着てみるよう促され二人は上着を脱ぎ渡されたものを身に付けると、鷹生はピッタリだったのに対し、翠は少しだけ大きいのか腰エプロンが脛の下辺りまであった。 元は大柄なマスターの制服のスペアなため仕方がないとは言え少し不格好になってしまうことに翠はムスッと顔をしかめる。 それを見たマスターは数秒悩みながらも適当に応える。 「あ~、まぁ許容範囲だ。セーフセーフ。とりあえず、明日の夕方五時から七時までよろしく頼むぜ。」 そう言うと、マスターは翠と鷹生の二人の肩を軽く叩いて笑う。 その後、翠と鷹生は喫茶店を出る。 外はすっかり日が傾き空は赤く染まっていた。 翠は自分の帰路に向かい歩き始めるのに対し、鷹生は慌てて呼び止める。 振り返った翠は少しだけ微笑んで言った。 「また明日な。」 「…!はい、また明日!」 鷹生は少しだけでも自分に微笑みかけてくれた翠に対しよほど嬉しかったのか満面の笑みで返し、帰り道を軽い足取りで帰っていった。

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