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第6話

比較的新しく出来たマンションの四階の一室、翠は鍵を開け中に入るが誰もいない。 「……。」 靴を脱いだ翠はまっすぐ自室に向かう。 扉を開けると、学生にしては物が少ない部屋が翠を向かえる。 机に鞄を置いてポケットのスマホを取り出すと、二件のメッセージを受信していた。 それぞれ翠の両親とのグループメッセージでどちらも同じ様な内容で綴られていた。 「すまん、今日父さん遅くなる。」 「お母さんも遅くなる!ごめんなさい…。」 「大丈夫、作り置きもあるし冷蔵庫の余り物で作れるから。二人ともお疲れさま、頑張ってね。」 メッセージを送信すると、すぐに既読がついた。 それぞれから可愛らしいスタンプが送られてきたときに翠はふと、思いだし両親に綴る。 「そういえば、通学路の商店街にある喫茶店で二時間だけバイトすることになった。」 「あら、お小遣い足りなかった?」 「お金は足りてる。音楽室で知り合った後輩と喫茶店に行ったんだけど、色々あってバイトすることになったんだ。お金の代わりに喫茶店のメニューを奢ってくれることになって。」 「そうか、仲良くできる友達が居るようでなによりだ。行っても良いが、バイト先やお客さんに迷惑をかけるんじゃないぞ。」 「明日にでも良いからお店の名前と住所と連絡先は教えてちょうだいね、なにも起こらないのが一番良いけど…。翠にやりたいことができてよかった、頑張ってね!」 「うん、わかった。ありがとう。」 そのメッセージを最後にし、翠はキッチンへ向かい簡単な夕食を手際よく作り始めた。 三人分の夕食を作り、一人分を一人で食べた後食器と共に弁当箱を洗う。 その後風呂に入り、黙々と宿題を済ませ翌日の準備をしてベッドへ潜った。 眠りにつこうとした時、翠の頭の中には鷹生が楽しそうに弾くピアノが鳴り響き、いつもより心地よく意識を手放した。

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