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第7話

次の日、二人は約束することもなく音楽室で再開した。 翠はいつものように一人で弁当を食べようとしたところに鷹生も大きな弁当箱と大ぶりのおにぎりを数個抱えて持ってきたのだ。 鷹生は翠の机にもう一つ机をつけて弁当を広げる。 あまりの量の多さに翠は開いた口が塞がらない。 逆に翠の弁当の小ささに驚愕しているようだ。 「それ一食なのか…?体のどこにしまうんだそんな量…。」 「翠先輩こそ、そんな少なくて授業中腹減らないんですか…?俺のおかず分けましょうか?俺のばあちゃんの作るブリ大根めっちゃ旨いですよ、あとこの山菜の和え物とか…あとこれも。」 「僕はこの量で充分だ。あ、こら馬鹿!勝手に僕の弁当におかずを追加するな!~~っ…、し、仕方ないから僕のおかずをかわりにお前にやる…。本当に十分な量だから、今度からはポンポンと勝手に置くなよ。」 翠がそう言うと、鷹生は目を輝かせ体も前のめりになる。 「今度からってことは、明日も一緒にご飯食べて良いんですか?!」 「べ、別に僕は一緒に食べたくないなんて一言も言ってない。勝手に決めつけるなよ…。」 そう言いながら鷹生から貰ったおかずの大根を口に含むと、翠は目を見開いて話し出す。 すると鷹生は自慢げに胸を張る。 「これ、旨いな。お前が食べ盛りになるのも納得だな…。」 「そうでしょ?!俺のばあちゃん料理上手で、なに作っても旨いんですよ!」 「これも、はじめて食べるけど結構いけるな。」 「へへへっ、なんか照れますね。」 「ははっ、お前が照れるのかよ、可笑しいやつだなぁ。」 頭をかく鷹生に対し翠はクスリと笑った。 はじめて笑いかけてくれた翠に鷹生は嬉しさと恥ずかしさの混ざる感情を抱き、居ても立ってもいられず手に持ったおにぎりを頬張りはじめる。 翠も食事を再開した時何かを思い出し、ポケットに仕舞い込んでいたスマホを取り出し鷹生に画面を見せる。 それはQRコードのようで、いきなり目の前に突きつけられた鷹生はそれがなんなのかピンときていないのか首をかしげた。 「ん。」 「スマホ…が、どうしました?」 「何って…連絡先、交換してた方が楽だろ?」 「え、いいんですか?」 「別に、良いよ。…、それに…。」 急に会話の歯切れが悪くなると鷹生が不思議に思いじっと見つめる。 翠は口元をスマホで隠し、小恥ずかしそうに小さな声で言った。 「な、仲良くしたいと言ったのはお前じゃないか…。」 「……。」 意外な反応をみてポカンとする鷹生に翠はムッとした表情で怒りだしスマホの電源を切る。 「なんだ、連絡先要らないなら教えてやんないぞ。」 「い、いります!いります!是非!交換させてください!…あっ!」 慌ててポケットから取り出すと、鷹生の手から滑り落ちたスマホは画面に小さな亀裂を残していた。 落胆する鷹生に対し翠は呆れたように話す。 「あ~…入学祝いで買って貰ったのに…。」 「慌てるからだよ、馬鹿。それより……ほら…。」 翠は再度鷹生に画面を見せる。 鷹生は向けられた画面に映るQRコードを読み込むと一つのアカウントが表示される。 セーラー服を身に付けたペンギンのぬいぐるみの写真に「翠」と書かれていた。 (す、翠先輩のアカウント…!) 正真正銘の翠のメッセージアカウントに感動しながら友達登録すると、翠のスマホに鷹生のアカウントが表示される。 アイコンには大きな犬とサビ猫が仲良く日向ぼっこをしている写真をみて翠は少しだけ顔を緩めた。 (まだ知り合って数日もしてないのにな…、なんだか鷹生らしい。) 翠が画面を眺めていると、いつの間に食事が終わったのか鷹生がピアノを弾きはじめる。 昨日と同じ曲なのに、今日はなんだか心が踊る。 今日は小雨で窓を滑る雨粒は少なく、雨音もいつもとは違い心地が良い。 音楽室にはピアノの音色が充満する。 しかし、鷹生の耳にはほんの微かに鼻唄が聞こえる。 自分にしか聞こえないその歌声を噛み締めながら指を運んだ。 予鈴が鳴るまで、二人は自分達だけの小さな音楽の世界に浸っていたのだった。

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