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第10話

次の日、二人が喫茶店に入ると目の前に一人の人物が現れた。 その人物は二人が見知っているセーラー服を着ている少女で、一目で自分達の学校の女生徒だと言うことがわかった。 その女生徒は栗色の癖毛を揺らしながら話しかける。 「よっ、二人とも~こんにちはぁ。」 「……。」 「あ…、え、えっと…。」 気だるげに話しかける少女に対し、翠は苦手なのか睨み付け鷹生はこの喫茶店に他の生徒が来るとも思っておらずおどおどしている。 挨拶の返しがなかったからなのか少女は大きな声を出して挨拶をする。 少女の声に鷹生は情けない声をあげる。 「お二人さん、こんにちはぁー!」 「うるさい、聞こえている。」 「え~じゃあちゃんと挨拶しなよぉ。幼稚園かどっかで習っただろ~?」 どこか飄々として掴めない彼女に翠は更にイラつきを覚えた。 翠の怒った顔に気付いた少女は怖がりもせず更に話しかけた。 「そんな眉間にシワ寄せんなって~。おっかねぇなぁ。」 「怒って欲しくないのならその話し方を止めるんだな。生憎、僕はお前みたいにおちゃらける奴が嫌いだ。」 「まぁまぁそう怒んなって、悪かったよ。ワシは三年の雀(すずめ)、名字は渡辺だから覚えなくていーよ。それより座って話そうぜぃ、ワシはもうジュース頼んでるから二人も頼めばよかろう。ほれ、メニュー。」 マイペースな雀に流されながらも、二人はそれぞれ注文をして翠はホットココア、鷹生はコーラを受け取った。 氷の入ったオレンジジュースをストローで回し遊んでいる雀に、致し方なしと言った様子で翠も口を開いて話しを始めた。 「佐々木 翠だ、こっちは鷹生。…で、僕らに何の用だ?」 「まぁまぁそう睨むなってぇ。いやね、実は昨日六時までワシここに居たんだよ。」 「え…。」 その言葉に鷹生は固まった。 翠以外の生徒に自分がピアノを弾いているところを見られてしまったことに戦慄して冷や汗を流す。 そんな鷹生とは逆に翠は強気の姿勢で質問をする。 「だから何なんだ?僕らと一体何の関係がある?」 「いやね、昨日のピアノ凄くってさ感動したんだよぉ。本当は昨日直接伝えたかったんだけどみーんな聞き入ってるし、夢中で弾いてたからさぁ。」 そう言うと、雀は鷹生にグッドサインを送りながら言った。 「だからっ、鷹生君!凄かったから、今日も聴きにきたぜ!」 「ああぁ…あ、ありが、とう、ございます…。」 段々と元気がなくなっていく鷹生をみた雀は不思議に思い問いかけた。 「ん?なんでそんなに元気を無くすんだ?ワシ変なこと言ったか?」 「あぁ、コイツは昔『男のくせにピアノを弾くのか』とバカにされたのがトラウマで誰かの前では弾けないんだ。」 「ほう…、でも昨日はすこぶる楽しそうに弾いてたけど…?」 雀がそう言うと、鷹生は勢い良く顔をあげて話し出した。 「そ、それは翠先輩に向けて弾いてたからなんです!」 「ほぉ!つまりはなんだ?!」 「馬鹿、語弊を生む言い方をするな。このバカオ。」 鷹生の頭を軽く叩くと、翠が改めて説明をした。 昼休みの音楽室で出会ったこと、鷹生が本当はピアノを弾きたいこと、そしてバイトのこと。 その間、雀は静かに話を聞いている。 翠が話し終わると、雀は口を開いた。 「なぁるほど、だから同じ学校の生徒であるワシを見た時に警戒したのか。」 「そう言うことだ。」 「まぁ安心しなよ、ワシは誰にも言わん。」 雀がそう言うと、鷹生は胸を撫で下ろした。 雀は続けて話す。 「でも、確かに翠君の言うとおり鷹生君のピアノの才能は凄いものだ。素人のワシでも分かるくらいにな。正直もったいない、二人が乗り気なら動画でもネットにあげれば良いのに。編集ならワシが教えるぞ?」 「動画か…。」 翠がそう呟くと、雀は自信のスマートフォンを取りだし画面を見せた。 そこにはとあるチャンネルが写っているがどうやらゲーム実況者のチャンネルらしい。 有名とまではいかないが多くの人がチャンネルをフォローしている。 しかし、それを見せられた二人は首をかしげると雀が一言いった。 「これ、ワシのチャンネル。」 その言葉に二人は驚いた。 そして雀はニヤリとしながら二人に質問をした。 「どうだ?すごいだろう?」 雀の自慢に翠はムッとしながらも素直に答えた。 鷹生は開いた口が塞がらないようだ。 「たしかに凄いな…。…でも、動画投稿については鷹生の意思次第だ、それに撮影場所もない。」 「ま、そう来ると思ったぁ。とりあえず、動画投稿するならワシに連絡入れてくれぇ。」 そう言うと、雀はメッセージアプリのQRコードを見せた。 翠と鷹生がそれをスマホで読み取ったところで、マスターが二人に声をかける。 「おーい、そろそろ時間だぞ。」 「お、んじゃ二人ともバイト頑張って~ワシはここで勉強だから。」 その後、翠と鷹生は制服に着替え翠は仕事に励む。 鷹生は前日同様に翠を視界に入れては鍵盤に目線を移し、ピアノを弾いていた。 今日も来店した客には好評で多くの人が聞き入っていたが、翠は様子の違う鷹生を見て複雑な表情を浮かべた。

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