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第13話

気付けば夕方になり、二人は納屋を離れ喫茶店へ出向いていた。 扉を開けると、マスターと雀が話していたところで店内に入る二人と挨拶を交わした。 「お疲れさまです、マスター。」 「おうお疲れ~。」 「よっ!今日も聴きに来たぜ~。」 雀が緩く手を振ると、翠は思い出したように話しかける。 内容はもちろん、動画撮影についてだ。 鷹生の家にあるピアノを使って撮影できることを伝えると、雀は「おぉー!」と喜んだ。 「遂にやる気になったんだな鷹生君!チャンネルとかはいつ作るんだ?」 「それを雀に聞こうと思ってたところだ。」 「ん、なんだ?お前ら、動画投稿すんのか?」 「えぇ、そうなんですよ。もう鷹生の保護者には話をしたので、次は撮影の技術を雀に教わろうと。」 翠がそう言うと、マスターは疑問を投げ掛けた。 「でも、撮影はどうすんだ?スマホでやるにも限度があるだろ。」 「そうだなぁ、二人はカメラとかパソコンはあるんか?」 そう聞かれた二人はハッとする。 どうやら鷹生の祖父に直談判することに必死になり先の事を考えていなかったらしい。 その様子に雀は「あちゃあ」と声を漏らした後、すぐに慰めの言葉をかける。 その間、マスターはバックヤードに移動した。 「まぁ、簡単な編集とかだったらスマホで十分出来るし大丈夫じゃない?」 「それもそうだな、とりあえず撮影場所を押さえれたのは大きな一歩だな。」 「確かに、そうですね。」 「翠、ほらよ。」 三人が話していると、マスターがバックヤードから帰ってくると翠に茶封筒を渡した。 不思議に思い中身を確認をすると、千円札が数枚入っている。 驚いた翠は思わず聞き出す。 「何って、バイト代だ。」 「ピアノを弾かせてくれる代わりの約束だったのに…これは受け取れません!!」 翠が慌てて封筒を返そうと差し出すと、逆に押し戻される。 マスターは翠を指差し話す。 「俺は鷹生が弾きたがってたピアノを『店のBGMにするのが条件』で弾かせてただけだ。それは翠、お前の皿洗いのバイト代だ。」 「でも…。」 「こういう時は素直に受け取っておけ、な?」 そう言って翠の頭を優しく撫でると、翠は頬を少しだけ赤くしながら封筒を見つめていた。 鷹生はまるで自分の事のように喜んでいる。 「先輩、良かったですね!」 「そうだな。これからちょっとずつ貯めて、機材を揃えていこうか。」 その日、鷹生の演奏は何処か軽やかで翠も仕事のやりがいを見つけたようだった。

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