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第14話
日曜日、翠と鷹生は雀に案内され彼女の家に訪れていた。
雀の家族は祖父母だけらしく、茶の間での挨拶を早々に二階の部屋へ通される。
和室には似合わない大きなパソコンとモニターが無駄に目立っていた。
「飲みもん取ってくるからそこら辺座っといて~。」
そうは言われたが、女性の部屋だ。
二人は緊張しながらその場で正座し雀が戻るのを待っていると、今時見ることが少ない瓶に入ったサイダーを3本と栓抜きを持って戻ってきた。
緊張している二人をみて雀は笑っている。
「そんな緊張しなくても大丈夫だって~。ほれ、サイダー。栓あけてやるから飲め飲め~。」
蓋をあけると、中のサイダーがシュワシュワと泡立った。
口を付けると甘い炭酸が口の中を刺激して喉を潤す。
まるで大人が酒をあおるように、雀がゴクゴクと飲み干すと大きな噯気(おくび)を出し本気で思っているのかも分からないことを言った。
翠は呆れ果てているように雀をみる。
「ゲッフ、おっと失礼。」
「お前なぁ…」
「ゲフッ…。…、すみません…。」
翠の言葉を遮るように鷹生も盛大な噯気を出した。
「お前もか」という顔を翠がして見せると、鷹生は申し訳なさそうに口を押さえた。
「でもこの飲み方が一番うまいんだよ、君もやってみ。グイッと、グイッと!」
「ちょ、やめっ!」
雀に瓶を奪われ口に流し込まれ炭酸が次から次へと通っていく。
空になった瓶が口から離れると、胃から一気に空気が押し上がり翠が慌てて口を押さえる頃には虚しく噯気の音が響いた。
「ゲフッ…。」
翠は初めての経験に顔を真っ赤にさせる一方、雀がニッコリしながら翠に問いかける。
「な?うまいだろ。」
「…、たしかにうまい…かもな。」
翠がそう言うと、二人は顔を見合わせて笑った。
雀がデスクに向かうと、モニターを起動する。
画面が映りカーソルを編集のアイコンに合わせクリックすると、雀は話し始めた。
「本当はスマホで教えてやりたいんだけど、ワシのスマホ容量いっぱいで編集アプリ入れれないんだよねぇ。こっちで簡単な編集を教えてやるから、覚えてくれな~。あとでおすすめの編集アプリ教えてやるよ。」
「どうせスマホゲームで容量食ってるだろ。」
「バレた?」
「てへ」と舌を出しながら言う雀の手は慣れた手付きで編集前の動画を表示すると、雀の説明が始まった。
「編集はまず切り抜きから始まるぞ。皆に観てほしい部分だけ残して、逆に観られちゃまずいものを切り取る。」
雀が実際に操作しながら説明をしている中、翠はスマートフォンのメモアプリで真剣にメモを取っていた。
鷹生も静かにみている。
「次に字幕だ。ワシの場合は喋っている言葉を文字に起こせばいいけど、君たちは曲名と作曲者とかがいいかもな。」
「なるほど、他に気を付けなければならない事はないか?」
翠の質問に雀は少しだけ考えた後、すぐに答える。
「うーん、勿論の事本名は使わない。ハンドルネームを使うといいな。あと、実写は顔がピアノに反射して見えるから、気を付けなね。編集が終わっても最低三回は動画を最初から最後まで目を通す。」
翠が納得してメモを残していると、鷹生が思い出して話しかける。
「じゃあ、制服も個人情報になるんですかね。」
「そうだな、上着は脱いでワイシャツになった方が安全だ。」
「やるじゃん」と雀が褒めると鷹生は嬉しそうに笑顔になった。
翠がメモを取っている中、雀は黙々と編集を続ける。
一通り終わると、体を伸ばしてストレッチをしていた。
「まぁざっとこんな感じかなぁ、分かんないとこあったぁ?」
「いや、分かりやすかった。」
「そりゃ良かったぁ。」
雀はそう言うと、パソコンの電源をおとした。
翠は自分が残したメモをみて呟いた。
「どれも簡単なことだが慎重にしなきゃ駄目だな。編集って大変なことだとは頭で分かっていても、実際にやっているところを見ると地味で大変そうだ。」
翠がそう言うと、雀が新しく持ってきたサイダーを飲みながら話をした。
「そりゃあ大変だけどさ、その大変な編集で良い動画になるんだ。ま、そこそこに頑張れよ!ワシは来年の大学受験が控えてるし、皆もう少しでテストだぞ!」
雀がそう言うと、鷹生だけが絶望をした顔をする。
どうやらここ最近ピアノの事しか考えていなかったようで、自分の本業を忘れているようだ。
翠が呆れた顔をして鷹生の頭に軽くチョップする。
「まさか勉強をしていないんじゃないだろうな?」
「う、うぅ…。」
「いやぁ青春だねぇ。」
翠と鷹生のやり取りを雀は何故か達観して微笑ましく眺めていた。
翠はため息をつくと、鷹生に話す。
「とりあえず、この先の事はテストが終わってからだ。わかったな?」
「…、はい…。」
鷹生は肩をすぼめ小さく返事をした。
雀は「まぁまぁ」と二人に二本目のサイダーを開けて渡した。
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