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第17話
翌日の放課後、翠と鷹生はピアノのある納屋へと向かった。
今日、喫茶店は定休日だ。
早速動画を撮るつもりなのだろう、鷹生をピアノの前に座らせてスマホを向ける。
「顔が写らないように真横からの撮影がいいよな…。うぅん、難しいな…。」
「それか、なにか被り物被った方がいいですかね?その方が編集も楽になるかな。」
「手元が見えなくなったらどうするんだよ、…でも確かにそのほうがいいか…。」
鷹生の言葉に翠は顎を擦った。
暫く考えた後に鷹生は思い出したように話し始める。
「そういえば、来週末に神社祭りあるんですよ。そこでお面とか見てみません?」
「お、それいいな。」
「じゃあじゃあ、浴衣着ていきましょ!」
「…、お前遊びに行きたいだけだろう?」
ジトッとした目で見つめるとギクリと肩を竦める。
どうやら当たったらしい、「だめですか…?」と申し訳なさそうに聞く鷹生は何処か犬のように見える。
「駄目も何も、僕は浴衣を持ってなんか無いんだ。着るならお前だけ着たら良い。」
「そんなぁ!俺先輩の浴衣姿みたいです!」
「そんなこと言ったって浴衣を買うお金は無いんだ!我慢しろ!」
落胆した鷹生に翠はため息をついて話す。
「僕たちに今必要なのは機材だ、決して浴衣なんかじゃない。」
「分かりました…。」
二人が納屋から母屋へ行くと、鷹生の祖母が茶と菓子を出した。
しょんぼりとしている鷹生をみて不思議がる祖母に翠が事情を説明すると「あら」と口に手を当てて話し出した。
「そんなことでしょんぼりしてたの?」
「そうなんです、お金を無駄に使うわけにもいかないので…」
「作っちゃえば良いじゃない。」
………
……
…
「え?」
鷹生の祖母の一言に暫くの沈黙と気の抜けた翠の声が出る。
反対に鷹生は声をあげた。
「ばあちゃん作れるの?!」
「あら、あんたの小さい頃の浴衣もおばあちゃんの手作りよ?」
忘れたのかと聞かれる鷹生は必死に記憶の棚を探る。
靄のように隠れていた記憶が徐々に甦り、色が戻る。
鷹生がまだ年が十もいっていない頃、鷹生の祖母が昔ながらの足踏み式ミシンで作ってくれたのだ。
思い出し、懐かしむ鷹生に祖母は言う。
「今年の夏祭り、翠君と行くの?」
「うん、お面を買いに。」
「あらぁ、そんなお面を買いに行くだけ~なんてつまんないことするもんじゃないわよ。おばあちゃんが作ってあげるから、二人でお祭り楽しんじゃいなさい!」
祖母の言葉に二人が驚く。
翠が申し訳なさそうに話しかけた。
「そんな、迷惑をかけるわけにはいきません!日頃からお家の仕事だってあるのに…。」
「あら、おばあちゃんを舐めないでちょうだい!これでもお裁縫は得意中の得意なんだから!こうしちゃ居られない!二人ともちょっといらっしゃい!」
そう言うと、祖母は二人を自室に連れ込んだ。
自室と行っても祖父と同じ寝室だ。
襖を開け押し入れから幾つもの布地が引っ張り出されてくる。
可愛らしい花柄から渋い紺色まで総数は二十を越えるだろうその光景をみて二人は唖然とした顔で立ち尽くしていた。
祖母は布地を見比べながら話し出す。
「おばあちゃん裁縫が大好きでね、小物とか浴衣なんかを趣味で作ってるのよ。この前もお友達にお誕生日として浴衣を作ってプレゼントしたの、すごいでしょ?」
「本当に…すごい…。」
二人が呆けている間にさっさと採寸をする。
その手際の良さも趣味だけで納めて良いものか疑う程だった。
採寸が終わると、部屋を片付け二人を追い出してしまう。
「出来上がりは、お楽しみ!」
鼻唄を歌いながら台所に向かう祖母に一切口を挟めなかった翠と鷹生であった。
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