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第19話

翌日、鷹生と翠は納屋で動画を撮影しようとしていた。 鷹生はお面を被り、ピアノの鍵盤が見えるか正しく運指が出来るかのチェックを、翠はピアノと鷹生が画角に収まるように位置を付けていた。 いよいよ撮影をはじめる。 鷹生が翠の方に目配せをすると翠は頷く。 ゆっくりと弾きはじめたのはドビュッシーの「月の光」。 ピアノの音が部屋に広がる。 鷹生の大きなゴツゴツとした指が繊細な音を奏でる。 物悲しげなメロディーと時折の少しだけのテンポのアップダウン。 相当練習したのだろうか、翠の耳からでは完璧な演奏に聞こえる。 鷹生の眼差しは真剣そのものだった。 弾き終わり、動画の撮影を止める。 二人で撮影した動画を再生してみる。 スマホで撮影したものだから多少の雑音も入っているが上出来なものだった。 あとは編集をして投稿するだけだ。 翠が鷹生に話しかける。 「よし、じゃあこれを今から編集してみよう。」 「ここで出来るんですか?」 「もう編集アプリは雀に聞いて入れてるから直ぐ出来る。少しだけ待ってろ。」 そう言うと、翠はあの日メモをした手帳を見ながら慣れないながらも少しずつ編集をいれていく。 最初はカットから入り、次に文字をいれる。 二、三時間かかっただろうか、ようやく編集が終わり翠が伸びをする。 鷹生が興奮気味に話しかけた。 「早速見てみましょうよ!」 「わかったわかった。」 二人でまた小さな画面を共有して見る。 字幕が入り本格的な動画になっているのをみて感動する。 何度も最初から最後まで見る鷹生は夢中になって見ているが、翠は確認のためだろう。 見終わると翠はスマホから目を離して鷹生に話しかける。 「よし、確認も終わりだこれならいつでも投稿できるぞ。」 「じ、じゃあ今投稿しましょうよ!二人の共有アカウント作って、名前は何が良いですかね?」 「そうだな、僕たちは雨の日に音楽室で出会った。だから、それをもとに英語にしてrainでどうだ?」 「rain…。いいですね!格好いいです!それにしましょう!」 翠は動画投稿サイトのアカウントに「rain」と記載し、動画を投稿した。 あとは今後の反応を見つつ動画を投稿するのみだ。 二人はそのまま喫茶店へ出向き、丁度居た雀とマスターに動画を投稿したことを伝えた。 「お、さっそくかぁ。アカウント名は?」 「rainだ。」 「雨かぁ、格好いいじゃん。お、出てきた~。早速聞いちゃお。」 「お、いいな俺も聞かせてくれよ。」 翠と鷹生の目の前で動画を見始める二人。 動画が終わると二人はそれぞれ褒め出した。 「鷹生、いい演奏するようになったなぁ。日々の練習のお陰じゃねぇか!」 「翠もちゃんと編集できてて偉いな。グッジョブ!」 褒められ照れる二人に雀が言った。 「それなら、次の目標は学校祭だな!」 雀の言葉にビクリと肩が跳ね上がる鷹生。 翠は少し考えた末に話し始める。 「まぁ、今は動画投稿に集中して、鷹生が学校祭に出たくなったらその時はサポートするさ。」 「お、俺に出来るんですかね…。」 不安がる鷹生に翠は微笑んで言った。 「出来るさ、お前なら絶対。」 微笑む翠に雀とマスターはニヤニヤしながらお互い目を見合わせていた。 その様子をみて、翠はムッと顔をしかめて話しかける。 「何が面白い?」 「いやぁ、翠も随分と物腰柔らかくなったなぁとねぇ?マスター?」 「そうだな、最初の仏頂面より全然いいぞ。」 そう言われ、恥ずかしくなったのか少しだけ頬を染める翠だった。

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