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第26話
次の日、鷹生のクラスでは将来の希望についての紙が配られていた。
皆が笑いあって将来どういう職業に就きたいか話している中、鷹生は考えていた。
今後、自分はどう生きていきたいのか。
出来ればピアノを弾いていきたい。
でも、その時翠は隣に居ないのだろうか?
今の鷹生にとって翠は必要不可欠の存在だ。
それはピアノを弾く時の場合であって、人生全ても翠の隣に居れるのかどうかと考えた。
しかし、翠も鷹生も人間だ。
よっぽどの事が無い限り、人生のパートナーができるだろう。
もし翠にその相手が出来たら?
そう考えたとき、ふと昨日の事を思い出した。
「翠に好きな人が出来た時」自分は素直に翠を応援できるだろうか?
「翠に恋人が出来た時」自分は「翠の中で何番目」の人間なのだろうか?
廊下を歩いている時、端に居たカップルが目に入る。
(もし、先輩の隣に他の誰かじゃなく自分が居られたら…。)
そう考えたとき、心臓が大きく跳ねた。
(俺は何を考えてんだ!先輩も俺も男だ!そんな、こ、と…。)
あるわけがないのだろうか?
現代では同性愛も認められてきている時代だ。
もし、翠も鷹生の隣にいることを願っていたら。
そんなことを考えながら鷹生は教室に戻った。
昼休み。
鷹生と翠は食事をとっていた。
鷹生は翠の事をじっと見つめる。
サラリとした黒髪に目元の黒子、小さい口元。
見つめられていることに気付いたのか翠はムッとした顔で鷹生に話しかける。
「なんだ、じっとこっちを見て。何か変なものでも付いてるか?」
そう言われ慌ててはぐらかし、目の前の弁当をかきこむ。
放課後。
喫茶店にてピアノをいつものように弾くがどうしても翠の行動が気になる。
その事について翠は東屋で休憩しているときに指摘する。
「お前、演奏に集中してなかっただろ。」
「うぐっ…。」
「何を考えているのか分からないが、ピアノを弾いているときはちゃんとピアノと向き合え。でないと良い演奏はできない。今日はどことなく様子が変だったが、どうした?」
そう言って頭を傾げる翠を鷹生は可愛いと思ってしまった。
しかしこの気持ちを相手に言ってもいいのだろうか、気持ち悪がられないだろうか?
もんもんと考えている内に翠は立ち上がり言った。
「ま、相談したくなったときで良いし、僕じゃなくてもマスターか雀にでも話せば良い。僕はもう帰る。」
帰っていく翠の背中を見つめながら鷹生は切ない気持ちになった。
自分の想いを伝えられない歯痒さに多少の苛立ちを覚えながら鷹生も帰路についた。
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