27 / 32

第27話

数週間後、翠は修学旅行で京都へ赴いた。 翠は色んな場所の写真を取って周っていた。 昼時、写真を眺めて考える。 (鷹生に見せたらテンション上がりそうだな…。) 「いつか一緒に見に行きたいですね!」 頭の中で鷹生が笑顔でそう話す。 ハッとして頭を振る。 (何を考えてるんだ!でも、アイツならそう言ってくれるかな…。そういえば、今日から4日間僕が居ない中でアイツはピアノを弾けるのだろうか。…一応連絡しておこう。) 音楽室で弁当を寂しそうに食べている鷹生のスマホにピロンとメッセージが来る。 急いで確認する。 『バイト、安心して弾くんだぞ。』 たった一言、飾り気無いその一言でさえ鷹生は嬉しく思った。 急いで返信を返す。 『はい!頑張ります!先輩も修学旅行思いきり楽しんでくださいね!』 鷹生からの返信を読んだ翠はフッと軽く微笑んだ。 夕方頃、鷹生はマスターに心配されていた。 「鷹生、お前大丈夫か?」 今回初めて翠が居ない中でピアノを弾かせるのだ。 相当緊張しているのではないかと心配をしているマスターをよそに、鷹生は自身に満ち溢れたようにマスターに答えた。 「大丈夫です!俺には翠先輩が付いてますから。見えていなくても、俺の事をきっと考えてくれている筈です。」 鷹生は宣言通り、ピアノを弾いてみせた。 翠が居ない時でも心配されないように、そう思っていつも翠がいる場所を確認する。 しかしそこには翠は居ない。 それでも、鷹生には見えていた。 翠がこちらを見て自分の弾くピアノに聞き入ってくれている姿を。 その日も大盛況で幕を閉じた。 マスターが鷹生に話しかける。 「ずいぶん自信がついて弾けるようになったじゃねぇか!」 「ありがとうございます。でも、まだこれでも緊張はしているんです。でも、先輩から安心しろってメッセージが届いて…俺、今ならやれるかもって思ったんです!先輩のお陰です。」 そう話す鷹生に酔っぱらった常連が話しかけてきた。 「お前そりゃ恋っつうもんじゃねぇか?いやぁ!青春だねぇ!」 その言葉にみるみる顔が紅くなる。 やはり自分が翠の事が好きであると明確に自覚したのだ。 鷹生はそそくさとバックヤードへ逃げすぐに着替える。 マスターからいつものサンドウィッチをもらい一人公園の東屋で食す。 いつもなら向かいの席に居る翠が居ない。 今は居なくて良かったと思う反面、一人で食べる食事がこんなにも寂しいものなのかと実感する鷹生だった。

ともだちにシェアしよう!