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第30話

次の日から、鷹生は翠に接する距離を縮めた。 翠はそれを拒まずいつも通りに接したが距離の近さを口に出した。 「なんか、距離近くないか?」 「ん?嫌ですか?」 すぐ近くで話す鷹生にドキリとする。 「べ、別に嫌じゃないが…。」 頬を赤くして言う翠に鷹生はいたずらに話しかける。 「もしかして、恥ずかしいんですか?」 「ば、バカ!誰がそんなこと!」 「じゃあ良いじゃないですか。」 そう言って翠の肩に顎を乗せる。 端から見れば人懐っこい犬のようで、仲良しな先輩後輩にしか見えない。 それでも翠にとっては心臓に悪いものだった。 せっかく押し殺した気持ちが少しづつ膨らんでいく。 それは鷹生も一緒で、気持ちが膨らみ続ける。 昨日決意したのは、翠へのアプローチをはじめることだった。 少しでも自分の気持ちを形にして表そうとしているのだ。 それは確実に翠に届いているようで耳が赤くなっている翠を抱き締めたい気持ちでいっぱいになる。 そんな鷹生をよそに、翠は次の動画投稿について話し始めた。 ようやく投稿が安定してきたrainも少しずつではあるが、チャンネル登録者数が増えてきている。 「そうですね、次の曲何にしましょうか。」 「僕の楽譜渡すからそれ覚えてきてくれ。明日にでも渡す。」 「わかりました!」 それから数週間後、動画は完成し喫茶店で雀とマスターから感想をもらっていた。 今回の動画も好評だったようで、良く褒められた。 バイトでもピアノを聴きに来る常連が増え、マスターも喜んでいた。 いつものようにサンドウィッチを公園の東屋で食べていると、鷹生が口を開いた。 「先輩と知り合ってから、俺すごく幸せな気がします。」

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