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第31話

「な、何を急に…。」 不思議に思う翠を見つめ話し続けた。 「先輩と出会って、ピアノを楽しく弾けるようになって、夏祭りにも行ったじゃないですか。俺、人と一緒に何かするのがあんなに楽しいのって知らなくて、毎日が特別なもののように感じたんですよ。」 翠は静かに鷹生の話を聞いていた。 鷹生は続ける。 「これって、他の誰かじゃない先輩だったからだと思うんです。先輩が修学旅行に行ったときはすごく寂しかったし、買ってきてくれたお土産のキーホルダーすごく嬉しくて、その日俺寝れなかったんです。」 「…。」 鷹生は言った。 「俺、先輩の事が好きです。」 少しの沈黙の後、翠が口を開いた。 「それは、ただの勘違いだ。」 鷹生は目を見開いた。 目の前の人物が、ひどく冷静に突きつけた言葉だったからだ。 翠は続けて言った。 「お前は今までからかわれてきて、人が怖かっただけだ。僕はただ僕の思ったことを言って、それがお前の心に響いただけだ。旅行期間中の寂しさだって、ただいつもいた人間が居なくなっただけの一時的なものだ。もう少しすればその気持ちも無くなる。」 「先輩は俺の事、好きじゃないんですか。」 「…好きじゃ、ない…。」 「じゃあ、どうして泣いてるんですか?」 翠はひどく驚いた。 目から大粒の涙が溢れかえっていたからだ。 慌てて拭うも、涙は止まってくれない。 続けて鷹生は言った。 「俺の気持ちは勘違いなんかじゃありません。少なくとも勘違いだなんで言葉で片付けたくない、俺は本気です。この先の人生で、先輩の隣に俺以外の人間が立っているのを想像すると酷く落ち込むんです。先輩のとなりに俺がいたらって思うんです。」 鷹生は翠の隣に座り抱き締めた。 慌てて押し返そうとするも、力が入らなかった。 涙声で翠は話す。 「この先、僕のせいでお前の人生が潰れたらどうするんだ…。僕は、僕のせいでお前の人生を潰したくないっ…。」 「俺は貴方がいないと潰れます。」 翠から離れると、鷹生はもう一度翠を見つめ言った。 「先輩、俺は先輩が好きです。この言葉に嘘偽りはありません。」 「っ…!僕も…、僕もお前が好きだ…。」

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