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第5話
最悪な夢を見た。
昔の記憶だ、小学生くらいの頃。
まだこの頃は何もかもが楽しかった。
外で友達と遊んで泥だらけになって帰ってきたら夕飯の匂いがして、「ただいま!」と言う俺に対してエプロン姿の明るい母さんが俺を軽く叱る。
『またそんなに泥だらけで帰ってきてー、本当にあんたって子は~!』
『えへへっ!今日もいっぱい遊んだんだ!』
そんなことをしている間に父さんが帰ってくる。
父さんは町工場で働いていていつも油にまみれて帰ってくる。
俺を見た父さんが言う。
『おっ、お揃いだな!よっしゃこのまんま風呂入るぞ~。』
『うわぁ!父さん急に抱き上げんなよ~!』
三人で、かつては家族の幸せで満ちたこの部屋で、俺達は過ごしていた。
でも、そんな日々は俺が中学に入る頃に突如として消え失せた。
まるで水に触れた綿飴のように。
父さんの働いていた町工場の経営が傾いて、父さんの収入だけでは家計を支えることは出来なかった。
それでも最初は諦めていなかった。
何度も色々な場所に仕事を応募しては断られて、その度に父さんの父親としてのプライドと責任が崩れていく。
母さんもパートを始めてなんとかやりくりしていた頃、父さんは酒に溺れた。
何処かで呑んで帰る度に俺や母さんに暴力を振るった。
俺は必死に母さんを守ろうとした。
その分殴られて、蹴られて身体はボロボロになっていった。
母さんは家事にパートをしていたものだから、心は既に疲弊していた。
もうとっくに母さんの心の余裕は無かったんだ。
ある日、学校から帰ってくると俺の部屋に置き手紙が置いてあった。
『 幸へ、
ごめんなさい。 』
それだけだった。
他には何も書いていなかった。
急いで探しに行こうとリビングに出た瞬間、何かがベランダの外を一瞬通りすぎる。
刹那、
パンッ
と言う破裂音と共に人の悲鳴が聞こえた。
ベランダから出て下を見る。
そこからの記憶は曖昧だった。
ただ覚えているのは、父さんが俺を捨てて何処かへ行ったこと、俺は親戚の誰にも引き取られず、一人で暮らしはじめたこと。
そして今、そんな糞みたいな記憶を毎日夢で思い出して起きていること。
今日も目を覚ました直後トイレへと駆け込む。
「ゴ、ゴボッ…、おぇ…。」
水を流して、キッチンに行って、コップに水を注いで、口の中をゆすぐ。
そろそろ彼奴が来る頃だろうか、それなら先に風呂に入っておいた方がいいか。
服を脱ぐと、過去に暴力を受けた傷と浮き出た肋が目に入る。
「きも。」
鏡にそう吐き捨てて、風呂に入った。
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