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第7話

珍しく昼頃に起きていると、また珍しく誰かがインターホンを押した。 誰が来たのかは大体予想が付く。 鍵を開けて扉を開くと、嘘で塗り固められた笑顔をはっ付けた男が目の前にくる。 「こんにちは、福島さん。」 「あ…ども。」 「最近のご様子を伺いに来ましたが、調子はどうですか?」 この人はサイトウさん、俺の担当ケースワーカーだ。 香水に隠れて、ほんのりと電子タバコの臭いがする。 「あぁ、まぁ…いつも通りです。」 「そうですか、病院には行かれていますか?」 「まぁ、なんとか…。」 「そうですか。」 俺の何時も変わらない返事を聞いてただ笑顔でそう言うと、書類を一枚取り出した。 何時もの収入だのなんだののやつだろう。 俺はそれを受け取って記入する。 もう何年も繰り返しているから慣れたもんだ。 俺が書き終わるとサイトウさんはさっさと玄関をでる。 「なにか困ったことがあれば、お電話くださいね。」 「うす…。」 サイトウさんは俺が生活保護を受けてから大分長く担当してくれている。 一年経つと本当は担当が変わるんだが、いつからかサイトウさんがずっと担当になっていた。 俺としては大いにありがたい。 他のケースワーカーは「外に出てみないか」だとか余計な話を持ちかけてくる。 それが仕事なのだろうが、その話が尚俺を苦しめていた。 外に出たくても苦しくてダルくて動かない身体、出たら出たで近所のババァ達が俺を後ろ指差して笑い者にする。 そんな外に出たいと到底思えない。 短いやり取りだったのにも関わらず、俺の身体は疲労を感じて身体がダル重くなる。 ふらふらとゾンビのように布団に倒れ込むと、丁度秀人が来たみたいだ。 鍵の掛かってないベランダの窓を開けると肌寒い風が入る。 もう秋も深まってきたようだ。 「やっほ、幸。」 「さっむ…。」 「そうだねぇ、最近はもう寒くて長袖じゃないと風邪引いちゃうかも。…さっき、誰が来たの?」 「あぁ、さっき役所のおっさんが来てな。疲れた。」 「そっか…お疲れ。」 そう言って俺の髪の毛を撫でる秀人。 コイツと出会ってからもう二週間くらい経つが、出会ったばかりの強引さが今はない。 どっちかと言うと俺の体調を気にして、こうして俺が布団に入っている隣でただ座って宿題をする。 宿題が終わると、ただ俺の隣で俺の髪を撫でていた。 全くどっちが年下なのか分からない。 正直言ってコイツは完璧な奴だ。 宿題で悩んでいるところを見たことがないし、暇さえあれば俺の部屋のゴミをまとめてくれる。 コイツ曰く 「幸と僕の部屋だから。それに、纏まってる方が歩きやすいでしょう?」 いつのまにか、この部屋は俺だけの物じゃなくなったらしい。 いつまでも俺の髪を撫でる手掴むと、首を傾げて話しかけてくる。 「なぁに?」 「寒いだろ…、その、入れば…?」 「やったぁ!じゃあお言葉に甘えて~。」 そう言って俺の布団の中に入ると布越しに皮膚の温度が分かる。 本当に寒かったのか冷たい。 「お前、身体冷えてんなら先に言えよ。布団貸してやったのに…。」 「ん~?だって黙ってたら幸がこうして入れてくれるでしょ?そのためだよ。」 「…策士だな、お前。」 「へへへぇ」とだらしなく笑う幸の仕草は子供そのものだった。 こういう子供らしい表情を見て、俺は少しだけ安心する。 普段の秀人は何処か大人びていて、子供らしい一面が見られない。 でも、こうして俺といる時だけ子供らしく笑ったりする。 それが俺の中で何処か特別なように思えた。 布団の暖かさに目を瞑っていると、口に何か触れた。 多分、いや絶対秀人の唇だ。 コイツは俺が目を閉じるとキスを催促していると勘違いしているのだろうか? 手を間にはさんでそれを阻止すると、不貞腐れながら言う。 「なんで邪魔すんのさ。」 「お前が俺のとこに来る度にキスばっかしてくるからだよ、このマセガキ。」 「別にマセガキでもいいもん、幸の事好きなんだから。幸だってそうでしょ?」 「はぁ?俺はちが…、っ?!冷たぁっ!!」 秀人が俺の服の隙間から手を差し込んできた。 脇腹に冷たい手が触れて身体が跳び跳ねる。 秀人の手が俺の上半身を行ったり来たりして肌を撫でる。 こそばゆくなって手を出させようとすると、急に衝撃が走る。 「んんっ…!おま、…!」 「幸の乳首発見、気持ちいい?」 「や、やめ…、っ…!」 五歳以上離れた年下に乳首を弄ばれて俺はなんなんだろうか。 抵抗しようにも、身体から段々と力が抜けて熱くなってくる。 口から漏れ出る声を必死に押さえても、喉すら俺の言うことを聞いてくれない。 情けない声が響く。 「んん、やぁ…め…んんっ。」 「かわいいね、かわいいよ幸。気持ちいね、気持ちいよね、かわいいね。」 耳元で囁く秀人に俺は縋るしかなかった。 感じたことの無い気持ち良さに恐怖を覚えて思わず秀人を抱き締める。 すると、さっきまでいやらしく動かされていた手は直ぐに引っ込められ、俺の頭を撫ではじめる。 同時にキスをしてくるが、それを嫌がる事無くむしろ俺も求めた。 口の中を這う舌が俺の舌と絡まってお互いの唾液でドロドロになる。 気持ちいい、 アツイ、 もっとシたい、 もっと、 もっと、 もっと、 気づけば口が離れて、秀人は帰る準備を始めていた。 そしてベランダに出る時に俺の額にキスを一つ落として言った。 「また明日ね、幸。だいすき。」 そこから俺は意識を飛ばして眠った。

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