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第9話
いつものようにコンビニで食料を買って帰っている途中、秀人の母親らしき人が男と歩いているのを見かけた。
男の方は良く見えなかったが恐らく秀人の父親だろう。
それにしても、仲睦まじく腕を組んで歩いているとは相当なことだ。
何となく嫌になったんで近くの公園のベンチに腰かけて時間を潰す。
雪は降っていなくとも、もう冬だ。
ベンチも冷え切り、吹いている風が容赦なく体温を奪っていく。
そろそろ帰ろうか。
そう思って立ち上がろうとした時、聞きなれた声がした。
「幸~!今日会えると思ってなかったからすごい嬉しい!それにしても、なんでここにいるの?風邪引くよ?」
「お~、いや、お前の父さんと母さんが歩いててな。何となく避けた。」
「お、とう…さん?」
さっきまで満点の笑顔が俺の言葉によって一気に曇りだす。
こんな顔の秀人を見るのは初めてかもしれない。
俺は何かまずいことでも言ってしまったかと思わず謝罪した。
「あ、すまん。…あんま家の事聞かれんの嫌だよな。」
「いや、別に大丈夫。そろそろ出張から帰ってくる頃だったから…、知ってたんだ。」
秀人は俺の隣を歩きながら話し始める。
「僕、お父さんに好かれてないんだ。お母さん、僕に対して凄く過保護でしょ?それが気に入らないみたいで…。でも、お父さんがいる時はお母さんの気持ちはお父さんに全部行っちゃって、それは良いんだけど…、僕がいるのに二人で…その…。」
エレベーターの中で、暫く沈黙が続く。
その先は何となく分かる。
俺は秀人の頭を恐る恐る撫でた。
こういう時、どうしたら良いか分からない。
だから頭を撫でることしか出来なかった。
秀人は話を続けた。
「でも、今は幸が居るから耐えられるよ!」
「そっか、まぁそれなら良かった。」
そう言うと、秀人は子供らしく笑う。
その顔を見て俺は少しだけ安心して、部屋に戻った。
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