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なぜ今なのか
「は……ぁ……」
掴まれたシーツが、シラの横で波になった。
「苦しそうだね。脱がせてあげよう」
アルワーンが嬉々として、シラの服を脱がせていく。
「ああ……いつ見ても、滑らかな肌だ……。この髪もだが、まるで今しがた海から上がってきたかのような艶がある。これも竜神の恩恵なのか?君たち王家のおかげで、研究のネタがつきない。嬉しいよ」
「ぁ……ッ」
明らかに意図的に、アルワーンの指が何度も胸を往復する。
「以前よりも、少し大きくなったね。ここ……」
ぷっくり立ち上がった胸の飾りを見て、嬉しそうにそれを弄くった。
シラの足の間で既にそれが蜜を滴らせているのを知り、アルワーンが急いでガラスを被せる。
「もったいないもったいない……。王子のこれは、いくらあっても十分なことはない。勝手に取るんじゃないぞ」
それはウミガラスに向けたものだ。
「お前の胸の錬成陣は、私がいない時の緊急用なんだぞ。忘れたのか、まったく……。ボサっとしてないで、さっさと王子に奉仕したまえ……っとその前に、お前もこのワインを飲むんだ」
しかしウミガラスは、アルワーンの言葉を全く聞いていなかった。
アルワーンの指に悶えるシラを、何を考えているのか分からない表情で見下ろしている。
差し出されたワインにも、全く目もくれない。
アルワーンはこの従者に、ほとほと困り果てた。
「コイツの頭は使いものにならない。そうだな……、私が奉仕するとしよう」
「……ぁ……アっ」
ねっとりした舌に胸を舐められ、シラの体が弓のようにしなる。
捻って交わそうとした体をシーツに縫い止められ、シラはアルワーンを睨みつけた。
「そんな、潤んだトワイライトの瞳で睨んでも、効果はないよ王子。……この花 。ああ……、早くこの謎を解明したい」
「触……るな……っ」
「今度の媚薬は、意識を奪わないで体の自由だけ奪うように調合してみた。君のあの、当初の威勢の良さが懐かしくてね。いいね。こっちの方が断然いい」
「この……変態がっ」
「あーはいはい。それはもう言われ慣れすぎて、引っ掻き傷にもならないよ」
アルワーンがシラの下肢に手を伸ばす。
ガラスの被さったそこには触れず、白い尻を無造作に掴むと、窄まりを探る。
だがウミガラスの腕がそれを邪魔した。
「……なんだ」
「触らないで」
「はぁ?」
言われた意味が分からず、アルワーンが顔を顰める。
「触らないでって……触らないと、王子を気持ちよくできないだろう?何を言ってるんだ」
「アルは触らないで。俺がする」
アルワーンの眉が跳ねる。
主人をアルと呼ぶことに怒るでもなく、アルワーンはただただ呆気に取られていた。
ウミガラスのそれはまるで、初めてできた、お気に入りおもちゃを取られまいとする子どもと同じだ。
面白いものを見る目で、アルワーンは大人しく引き下がった。
だがシラの横に並び、観客として楽しむことは忘れない。
二人の行為が進めば進むほど、アルワーンは楽しくて仕方がなくなってきた。
ウミガラスの動きに合わせて、掠めたり引っ張ったり、シラの体を弄る。
しかしそのことさえ、ウミガラスは気に食わないようだった。お気に入りのおもちゃで他人が遊ぶのが、嫌なのと同じだ。
ウミガラスは分かっていない。
その様子が、更にアルワーンを楽しませることを。
そしてついに、アルワーンのものが、長い長い眠りから目覚めた。
「信じられない……完勃ちだ……」
懐かしいを通り越し、もはや他人事だ。
「見ろウミガラス。私のが勃っている」
ウミガラスがチラリと目をやる。だがすぐに、その視線はシラに戻る。
「お前が終わったら、私も久々に楽しむとしよう」
その台詞に、ウミガラスはピタリと動きを止めた。
「なんだ?早く済ませろ。久しぶりに、こんなにワクワクしているんだ。中でも外でも、好きなところにさっさと出せ」
「ダメだ」
「ああ?私がいつダメだと言った?大体、いつも勝手にさんざん中に出してたのはお前じゃないか。とにかく早くしろ。私のコレが目覚めてるうちに」
「ダメ」
会話が成立していないことに、アルワーンがようやく気づく。
「……なんだ?その目は……」
ウミガラスの瞳は、見たことのないほどの怒りで煌々としていた。
「アルは好きだ。でも、シラはダメ」
聞いたアルワーンの仄暗い瞳が光った。
彼の下半身に、更に血がたぎる。
言いたいことだけ告げると、ウミガラスはシラに再び専念しようとした。
「……美味しい美味しい料理を、食べずに見ているだけというのは、私の性に合わない」
低いアルワーンの呟きが漏れたあと、ウミガラスの胸が光る。
「そこでゆっくり眺めてるといい。終われば混ぜてやる」
ウミガラスの動きが完全に止まる。
巨体な彼をここまで止められるのは、その胸に錬成陣を刻んでいるアルワーンだけ。
「ふふ……。そんな目で睨むな。あとでちゃんと、お前にも入れさせてやる」
アルワーンが、シラの腹の花 に触れる。それがアルワーンのお気に入りだ。
「誰にも触れられることのなかった花を手折るというのは、言葉だけでもイイものだが、実際にその瞬間を目の前にすると、触れただけで漏らしてしまいそうだ。シラ王子」
舌なめずりして、さぁこれからという瞬間、アルワーンの体が突如光り始めた。
「なんだなんだ?……一体どうしたというんだ」
彼の体は徐々に透け始め、シラに触れていた指から感触も消えた。
アルワーンは何か思い当たった様子で、そして愕然とした。
「なんでっ。どうしてよりによって、今なんだっ!」
叫び声が響く。
最後の台詞を残して、アルワーンは忽然と、ベッドの上から消えた。
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