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第7話

 恭介の家で暮らし始めてから一週間。  紬は完全には警戒が解けていないものの、初日よりは安心して食事をし、眠れるようになっていた。 「ずっと家にいて暇なら、散歩でもしてきていいからね。遠慮なく好きなことをしてね」 「ぁ……ぁ、はい」 「……体を動かすことは好き?」 「ぇ、っと……好き……」  だが一つ、問題があった。  紬は恭介に対して何かを伝える時に、言葉が詰まって上手く話ができなくなってきていた。  他にも、行動をする時には『迷惑をかけないだろうか』『面倒なことにならないだろうか』などを考えてしまい、スムーズに体が動かせない。  元番に『面倒くさい』と言われ、別れてしまったことがあまりにもショックであったため、どうにか面倒に思われないようにしないと、心が制御をかけているみたいで。  どうしても相手の気分を悪くしない言葉を選ばなきゃと考えて返事が遅くなる。  そして、家にいさせてもらうんだから少しでも手間をかけさせないようにしなきゃ、と恭介が仕事で家を空けている間に進んで家事をした。  部屋の掃除をし、干されている洗濯物を畳み、お風呂を洗う。  けれも、料理だけは作れなかった。  恭介の嫌いな食べ物を知らないから。  いつも『今日こそは』と思ってキッチンに立ち、冷蔵庫を開けるが、この中にある食材を使って作った料理がゴミになってしまったらと思うと、怖くてたまらなかった。  なのでここ最近、恭介が帰宅すると紬が冷蔵庫の前で座り込んだまま、ソワソワしている姿を見ることが多い。  恭介は驚きつつも「ただいま」と声をかけて、固まった紬を支えながらリビングに移動させる。  今日もそうだった。  だから料理のことやその他の家事を忘れられるよう、散歩を提案したわけだが……。  紬は日毎夜毎、恭介と話すことに緊張を覚えているようで。  自身の存在が邪魔にならないようにと、いつも小さく丸まっている。

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