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第8話

「怖い?」 「っ……」 「こうして俺と話すの、苦手かな。」 「ぁ……に、苦手じゃない……」 「本当?嬉しいな」 「う、れしい……?」 「うん。嬉しいよ。……あ、そうだ!今日も掃除と洗濯をしてくれたんだね。ありがとう」  恭介は帰宅してすぐ、自宅の廊下が綺麗なことと、紬をリビングに連れてきた時にベランダに干していた洗濯物が消えているのに気がついていた。  心の底から感謝の気持ちを込めて言葉を伝えると、紬は目をパチパチさせて、コクリと頷く。 「体調はどうかな?」 「……大丈夫」 「よかった。少しでも辛くなったら休んでね。あ、毎日の掃除と洗濯も。してくれるのは凄く有難いけど、体調が悪い時はダメだよ。」 「……わかった」  恭介が『嬉しい』や『楽しい』等の陽の感情を示すと、紬は喉の詰まりが取れたかのようにスラスラ返事ができた。  恭介はそれを理解して、小さくなる紬の隣に腰を下ろす。  ビクッと震えた紬に気付かないふりをして「何が食べたい?」と問いかけた。 「えっと……」 「思い浮かばない?」 「……うん。何でも食べれる」 「え、本当に嫌いなものないの?」 「うん。何でも好き」 「そっかぁ。ありがとう、教えてくれて。」  紬は胸を少しだけホクホクさせた。 『ありがとう』と言われたのが久しぶりだったから。 『ありがとう』って、こんなに温度がある言葉だったんだと再認識して、若干口角が上がる。  それをチラリ盗み見た恭介は、少しずつ慣れてきてくれたかなと思って嬉しくなる。 「っわ!」 「ん?どうしたの?」 「……あの、」  突然、紬が驚いた様子でお腹を撫でた。  言いたいけど、言葉がつっかえて出てこない。紬は口をハクハクさせて俯く。  恭介は無理には聞かないつもりだったが、お腹を撫でたので赤ちゃんに何かがあったのかと内心焦っている。  心配して見つめると、紬はゆっくりと話し出した。 「今、お腹、突かれた……」 「お腹?赤ちゃんが突いたのかな?」 「ん……わからないけど、なんか、変な感じ……」 「痛くはない?」 「うん。あ、また、ほら……」 「!」  紬は恭介の手を取って自身のお腹に導く。  まさかそんな行動を取ってくれると思っていなかったので、恭介は驚いて固まった。 「ね、突いてるでしょ……?」 「……うん」  正直、分からなかった。  けれど紬は不安ながらも赤ちゃんの存在を改めて感じられたことが嬉しかったみたいだ。  ほんのり頬を赤くして喜んでいる。  紬は『元気に生まれてきてね』と祈りを込めながら、自身のお腹を何度も撫でた。  そんな姿を眺める恭介は『もう既にお母さんなんだな』と思いながら、紬と子供を守ってあげないとと、一人改めて庇護欲を抱いていた。

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