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第9話

 朝。目を覚ますと目元が濡れていた。  今日もまた泣いていたらしい。  紬は毎日のように夢を見る。それは決まって元番の夢だ。  番になったのはただの事故。  相手は高校の同級生で一番の親友──市谷 時雨。  それがある日突然、紬に発情期が起こったことで変わった。  初めての発情期のことだった。  初めての発情期の時、隣にいた彼はαで、フェロモンのせいで理性が飛び、紬の項を噛んでしまったことで番となった。  それでも紬は嬉しかった。親友だったから、誰よりも近くにいてくれた人だから、この人と一緒に居たいと思って。  そしてそれは時雨も同じだった。  それがいつからおかしくなったのか。  社会人になり、紬はなんとか職について必死に働いた。  時雨は大手企業に就職し、毎日遅くに帰ってくる日々。  それでも二人で過ごしているのは楽しかったのに。  きっかけは一緒に過ごした最後の発情期。  それが終わってからのことだったと思う。  珍しく酷く酒に酔って帰宅した時雨に紬は心配して「大丈夫?」と声をかけた。  肩に手を添えると、その手を叩き落とされてしまって。 「お前がいるから昇進できない」 「発情期なんかクソ喰らえ」  突如時雨からそんな言葉を浴びせられ、紬は固まってしまう。  言い訳をすれば彼は同期が昇進していく中、自身は同じポジションに留まっていることに苛立ちを覚えていた。  そしてその原因が発情期のせいだと思っていた。  というのも三ヶ月に一度、七日間程の休みをもらわないといけないからだ。  紬は確かに、発情期はαにとって煩わしいものだろうと思った。  思わず「ごめん」と謝るけれど、彼は何も言わず、自室に篭って朝まで出てこなかった。

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