9 / 33
第9話
朝。目を覚ますと目元が濡れていた。
今日もまた泣いていたらしい。
紬は毎日のように夢を見る。それは決まって元番の夢だ。
番になったのはただの事故。
相手は高校の同級生で一番の親友──市谷 時雨。
それがある日突然、紬に発情期が起こったことで変わった。
初めての発情期のことだった。
初めての発情期の時、隣にいた彼はαで、フェロモンのせいで理性が飛び、紬の項を噛んでしまったことで番となった。
それでも紬は嬉しかった。親友だったから、誰よりも近くにいてくれた人だから、この人と一緒に居たいと思って。
そしてそれは時雨も同じだった。
それがいつからおかしくなったのか。
社会人になり、紬はなんとか職について必死に働いた。
時雨は大手企業に就職し、毎日遅くに帰ってくる日々。
それでも二人で過ごしているのは楽しかったのに。
きっかけは一緒に過ごした最後の発情期。
それが終わってからのことだったと思う。
珍しく酷く酒に酔って帰宅した時雨に紬は心配して「大丈夫?」と声をかけた。
肩に手を添えると、その手を叩き落とされてしまって。
「お前がいるから昇進できない」
「発情期なんかクソ喰らえ」
突如時雨からそんな言葉を浴びせられ、紬は固まってしまう。
言い訳をすれば彼は同期が昇進していく中、自身は同じポジションに留まっていることに苛立ちを覚えていた。
そしてその原因が発情期のせいだと思っていた。
というのも三ヶ月に一度、七日間程の休みをもらわないといけないからだ。
紬は確かに、発情期はαにとって煩わしいものだろうと思った。
思わず「ごめん」と謝るけれど、彼は何も言わず、自室に篭って朝まで出てこなかった。
ともだちにシェアしよう!