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第10話

 それから数日間はお互い気まずさから何も話さず、久しぶりに話があると言われ喜んでいたところ、別れを告げられてしまったのである。  恐る恐る理由を聞くと「面倒くさくなった」とただ一言。  紬は「嫌だ」と伝えたが、途端に時雨の態度が冷たくなり、彼の圧倒的な威圧感に耐えられず頷いた。  そこから彼の行動は早かった。  病院を見付け、少しでも紬の負担が軽くなるようにと薬を処方してもらい、紬の話もろくに聞かず番関係を解消する。  幸せだったのに、突然何も無くなったことに、その時の紬はもはや絶望も感じられなかった。  ■  別れを告げられたあの日から、楽しかった日々が頭に浮かんでは切なさを感じ、幸せだった日々を思い返すと苦しくなる。  いつかこの感情が全て思い出に変わってくれたなら。  けれどそうなるには、今まで以上の幸せを手にしなければいけないのだろう。  そんなことを考えていた時、コンコンと部屋のドアがノックされた。  紬は慌てて目元を拭い体を起こす。  返事をすれば一緒に暮らし始めた恭介がドアを開けた。 「失礼しまーす」 「あ……」 「おはよ。体調どう?」 「お、おはよう、ございます」 「うん。頭痛や吐き気はない?」 「ん……大丈夫」  傍に来た恭介がジッと紬を見つめる。  寝起きにそんなに見つめられると恥ずかしい。顔を隠すように慌てて布団で目の下まで覆う。  そんな姿を『可愛い』と思い、恭介はキュッと口角を上げた。 「ご飯できてるよ。起きれそうなら一緒に食べない?」 「ぁ、い、行きます。先に、あの……先に食べてて」 「わかったよ。ゆっくりでいいからね。慌てずにおいでね。」  紬はこくっと頷き、恭介が部屋を出るまで動かずにいる。  ドアが閉まってから、のそっとベッドを降りて、恭介のことを改めて優しい人だと思いながら、まずは顔を洗いに行った。

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