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第15話
紬はドキドキしながら、恭介の目を見て今言われた言葉をもう一度頭の中で繰り返す。
『君が許してくれるなら、子供のお父さんになりたいな。』
それは自分が望んでいたことで。
「そ、れは……えっと……」
「いきなり言われても困るよね。」
「実は一緒に暮らしてる内にいつの間にかそう思ってたんだ。もし許してくれるなら、これからも一緒にいたいなって。」
「あ……」
「でも、まあ……お父さんになりたいなんて烏滸がましい願いだよね。」
「そ、そんなことない!」
紬は咄嗟に大きな声を出して、恭介の手をギュッと握った。
恭介は驚いて口を閉じる。
「ずっと……ずっと、俺と子供のことを守ってくれた……。誰よりも大切に、してくれて……俺は貴方をとっくに信頼してる。俺だって……貴方がこの子の父親になってくれたらって……思ってた……」
言葉を口にしながら、感情がどんどん高ぶってくる。
「いつも……いつも、ありがとう。俺が辛くないように、傍に居てくれて……。」
「居るよ。大切だから」
「っ……でも、俺、何もできなくてっ」
「そんなことないよ」
恭介はそっと紬を抱きしめ、優しく背中を撫でた。
「妊娠して大変なことも多いのに家事をしてくれてる。本当にすごく助かってるよ。」
紬は鼻の奥をツンとさせて、唇を噛んだ。
そして自らの手を恭介の背中に回す。
この人になら全てを預けても大丈夫なんだと思える。
恭介からは心が安らぐような香りがした。
■
涙が止まり、紬は恭介と向き直ってゆっくり頭を下げる。
「この子の父親に、なってあげて、くれませんか」
「! もちろん」
恭介は身体中が解れるように安心して微笑む。
自分が認められたようで心から嬉しかった。
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