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第17話

 番になることを決めてからしばらく。  二人の距離感は以前より縮まっていた。  それは時々見つめ合っては、触れるだけのキスが出来るくらいに。 「ぁ……それ、食べたい」 「これ?じゃあ買って帰ろうね」 「うん。ありがと」  一緒にスーパーに来て、カゴに食材を入れていく。  紬が食べたいものを言うようになってくれたので恭介としては万々歳である。  紬自身も距離を縮めたいと思っており、外を歩く時は「転けるかもしれないから」と言って控えめに手を握ってくる。  そんな可愛らしいところが恭介は大好きで、いつも『幸せ』と思いながら優しい笑顔でいる。 「あの……荷物重たくない?俺、持てるよ」 「大丈夫。それより転けないように気を付けようね」  番にはまだなれてはいない。  それでも恭介も紬も幸せだった。  二人とも愛し合っていると分かっていたから。  紬は穏やかな日々を過ごしながら、少しずつ出来なかった料理が、自分にも出来そうだと思い始めた。 「俺、帰ったらご飯、作ってみたいな。」  意を決して紬が言うと、恭介は少し驚きつつも心の傷が癒されてきているのだと嬉しくなる。 「本当?嬉しいな。でも俺もしたいから、一緒に作ろうね」 「うん」 「休みながらしようね。あ、今は辛くない?お腹も腰も痛かったりしない?」 「大丈夫。ありがとう」  そうしてスーパーから家に帰り、まずは少し休憩をしようとソファに二人、腰を下ろす。  紬が小さく息を吐くと、恭介は目敏くそれに気付きお茶を入れて「疲れたね」と声をかけた。 「ん……ちょっとだけ。体が重たくて」  紬のお腹が大きくなっている。  来月にはきっと元気な子が産まれてきてくれるだろう。  夏も過ぎ、過ごしやすい気候になってきた。 「料理はさ、やっぱり俺がしてもいい?しばらく休んでてほしい。無理に動いてほしくない」 「……無理じゃないよ?」  紬は少しでも恭介の役に立ちたくてそう伝えたけれど、言われた本人としては心配で。  どう言えば傷を付けずにわかってくれるかなと悩んでいると、紬がモジモジしながら、続けて口を開いた。 「……任せっきりは嫌だなって、思った。」 「そんな事ないよ。俺がやりたいからやらせてほしい」  紬は少し悩んでからこくっと頷いた。  罪悪感等のマイナスな感情が生まれないように、『やらせてほしい』という恭介を、紬はやはり優しい人だなと思う。

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