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第32話 寒く、冷たい雨

 翌朝。  目を覚ましてすぐ、時雨は昨夜のことを思い出した。  そして『なんてことを言ってしまったんだ』と罪悪感で頭を抱える。  紬は悪くない。  発情期は紬の意思では無い。  生理現象である上に、本人も辛い思いをするのに。  全てを紬のせいにしてしまった。  部屋を出て紬に謝ろうとしたのだが、あんなことを言った自分に話しかけられるのも嫌なのではないかと、時雨は何も言えずに家を出る。 「おはよう」 「……おはよう」  話しかけてきた同期が時雨の顔を見てギョッとする。 「どしたの、お前。」 「何が」 「顔色最悪だけど。……番さんと、何かあった?」 「……関係ないだろ」  自分だけが悪いとわかっているのに、時雨は素直になれずに同期に素っ気ない態度をとって自分の席に座る。  そんな自分が段々と嫌になっていく。  □ 「最近おかしいよ、お前。」  決定打は同期のその言葉だった。  紬とはまだ話せてない。寂しそうに/居心地の悪そうにしている様子は何度か見ているのだが、あんなことを言った手前……と言葉が出てこない。  日毎夜毎、時雨はそんな自分が嫌になりそのお陰でいつもイライラしていた。  そんな中、同期に言われた言葉。 「番さんのせい?喧嘩でもしたわけ?そんな様子だと周りもやりづらいんだけど」 「……」 「早くどうにかしろよ。困ってんだから」  時雨は同期の言葉に返事ができなかった。  けれど、紬のせいだと思うと少し心が軽くなる。  あの発情期の後から晴れなかった心に日が差していく。  ──そうか、紬がいるから、ダメなんだ。  そう思えば行動は早かった。  帰宅した時雨は、迷うことなく紬に話しかけた。 「話がしたい」 「ぁ、う、うん!」  これに紬は『久しぶりに話せる』とほんのり微笑んで喜んでいたのだが、告げられた言葉は紬にとって絶望に等しいもので。 「別れてくれ。」 「……え?」 「俺と、別れてほしい。」  紬は口角を引き攣らせる。  何とか振り絞って「なんで」と聞けば、時雨は溜息を吐いた。 「もう面倒くさくなった。」 「っ、や、やだよ。嫌だ。別れるとか……」  紬が拒否をした途端、時雨は一気に表情を無くした。  それは紬にとっては恐怖の対象である。  圧倒的なαの威圧感に首を縦に振ることしか出来ない。  静かに頷いた紬に、時雨は何も言うことなく自室に戻って行った。

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